8話 竜神族との戦闘 その2
「ウオオオオオオ!!」
この世界に来てこれ程までの闘気は初めてかもしれない。今までは闘気なんて言う言葉はゲーム内でしか使われておらず、当然、感じることも出来ない曖昧なものだった。しかし、この世界に飛ばされプレイヤーキャラがそのまま俺になったことから、明確に感じることが出来ている。
一際、大きな竜神族が真っ先に俺に向かって来た。ボスは雑魚達を操る司令塔という考えはこの国家にはないらしい。ここまで真っ向から直進してくるなんて、生まれながらのファイターなのだろう。おそらくは寿命も桁違いに長いはず。人間如きには勝てる相手なはずがない。それは、エリーゼの腰の抜かし方からしても明白だった。
「行くぞ!」
ドンッと俺の生み出した両手大剣とボスの竜神族が持っていた大斧が交錯する。どちらも重量級武器だけにその激しさは相当なものだ。お互いに地面に足をめり込ませる。その次の一手を放ったのはボスの方だった。
「ウオオッ!」
「!」
交錯させていた俺の剣を弾くと、そのまま胴体に向けて斧を振り抜いたのだ。バランスを崩してしまった俺にはとても避けられない速度の一撃……完全に致命傷、のはずだった。
「グウッ!?」
「まあ、こんな程度だとは思っていたよ」
絶交の攻撃チャンス……ボスの竜神族からすれば確実に勝ったと言える一振りだっただろうか。現に奴の口元は笑っていたしな。人間並み、いや、それ以上の知能があると考えた方がいいのか。
俺が体内から発している闘気……それに斧の一撃は完全に阻まれていたのだ。つまり、全く身体は傷付けられていない。
「並の人間相手だったら勝負ありだっただろう。相手が悪かったな。お前の国にはもっと強い連中がいるのか?」
「ギイッ!!」
ボスは状況を理解したのか思い切り歯を食いしばっていた。大斧を戻し再び豪快に振り下ろす。しかし、そんな攻撃は先ほどの一撃が効かなかった段階で無意味だった。
「はああああ!!」
ボスの大斧を全開状態の剣撃で破壊する。Aランク冒険者のカイザスに放った一撃と同じくらいの攻撃だ。間髪入れずにもう一撃をボスの竜神族にお見舞いした。
「……!!」
叫び声もあげさせぬ間にボスを絶命にたらしめる。慈悲ある一撃と言えるのかもしれないな。
「さて、と……マリアとレミラはどうしているかな?」
俺は周囲で戦闘中の二人に目をやった。まずはマリア……。
「死になさい! 亮太様の為に!」
自慢の双剣を両手に構え、回転しながら竜神族達を切り刻んでいた。マリアは息一つ切れてはおらず、彼女に向かった連中が可哀想になるレベルだ。そしてレミラはというと。
「あははははは! 楽しませてよね!」
性格的にはマリア以上の戦闘狂……レミラは装飾の入った美しい片手剣を取り出し、無数の刺突攻撃を竜神族の連中に浴びせていた。串刺しなど生ぬるい光景がそこには描かれていたのだ……う~ん、残酷だ。
「ウ、ウゴゴ……!」
ボスがやられ、正面の竜神族は一気に怯みだしていた。それでも逃げる者がいなかったのは尊敬できる点かもしれない。
「心配するな、楽に殺してやるから。行くぞ!」
両手大剣の連続攻撃。俺はこの重たい大剣をまるで小剣の如き速度で振り回すことが出来る。これもプレイヤーキャラに宿った恩恵だろうか。正面の竜神族をあらかた切り刻んだ時には、周囲の竜神族もほぼ全滅状態になっていた。
「す、凄すぎるわ……! 嘘でしょ……」
そんな時、座り込むエリーゼから声が聞こえて来た。どうやら、無傷で済んだようだ。その点は嬉しかったが、彼女の見る視線がとても人間を見ている風ではなかった。ちょっとだけショックだったりする。畏怖の現れではあるんだろうけどな。