7話 竜神族との戦闘 その1
(ヴァン・カレッジ視点)
「おお~なんや、フィオーレタウンのギルドってこんなに賑わってたか?」
「ヴァンさん、確かにそうですね。ちょっとマスターに聞いてきます」
「うん、頼むわ」
俺は後輩の冒険者であるナハト・エールに事情を聞いてもらうように頼んだ。1年振りに来たけどギルド内が騒がしかったからや。冒険者ギルドは日々、様々な冒険者が行き来するから賑わうことはある。
それは例えば新しいダンジョンが発見されたり、この辺りでは珍しいモンスターが出現したりといった情報が錯綜したときや。だから、今回のこの騒ぎ? もなんや楽しそうなことが起きたってことなんやろな。
「ヴァンさん、ギルドマスターに情報がないかを聞いてきましたよ」
「おう、ご苦労さん。どうやった?」
戻って来たナハトは俺が座っているソファの対面に座った。
「それが1週間ほど前に新しい冒険者が誕生したらしいっす」
「いや、それはめずらしくもないやろ」
冒険者なんて職業は誰でもなれる。現に毎日どっかのギルドでは新しい冒険者が誕生してるんやからな。それはこのエンデューロ王国の田舎の方にあるフィオーレタウンでも同じことや。
「冒険者チームのリーダーは亮太って言うんですって。Fランク冒険者なのに、Dランク冒険者と協力してグリスベアを何体も討伐しているらしいですよ」
「ふ~ん、そうなんか。まあ、Dランクの冒険者もおるんやろ?」
「まあ、確かにそうですね。協力し合っているみたいです」
それなら別に驚くことではないな。Dランク冒険者がおるんなら、グリスベアくらいなら協力して仕留められるやろうし。
「まあ、それでも何体もの討伐は凄いな。期待の新人誕生ってところか?」
「いや、それがここからが凄いんですよ」
「なんや?」
ナハトの言葉が一瞬止まった気がした。俺は適当に聞いてたけど、その時だけは目線が真剣になる。何を言うつもりなんや。
「Aランク冒険者のカイザスがその亮太という冒険者にやられたらしいです」
「はあ、カイザスってあの暴れん坊のカイザス!?」
「ええ。そうです、そうです」
俺とナハトより上の冒険者である暴れん坊のカイザス……あの野郎がこんな田舎のギルドに来ていたのには驚いたが。まさか、あいつを冒険者になりたての奴が倒してしまうとはな……にわかには信じられへんけど。どないなっとんのや、世界は広いな。
「どうも直接倒されたわけではないらしいですけど、その新人の亮太とかいう奴は武器を自在に具現化させて、郊外の一帯をその武器でクレーターに変えたとか……ギルドマスターも信じられないという風に話してましたよ……とんでもないっすね」
「そうやな……なんやそれ……」
Bランク冒険者の俺達では測り知れん事実やな……クレーターはその場に行けば見れるやろうから事実として、武器の具現化は信じられんわ。しかも新人冒険者で……。
「まあ、そういうわけで……亮太とその仲間の話題でギルド内が騒がしくなっているみたいですね。いや~、こんな事態、なかなかないんじゃないですか?」
「そうやな……まあ、話は盛られるって事実もあるかもしれん。直接会って、話を聞きたいな」
「ああ~いいっすね。俺も会ってみたいです。なんでも亮太は現在4人パーティらしいですけど、他の3人はかなりの美少女って話ですよ?」
「なんやねんそれ……羨ましい奴やな……」
良い女はやっぱり強い冒険者に憧れるものなんか? 軽くハーレムやないかい。これはなんとしても会いたいな……。
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「竜神族……! まさか、そんな……!」
「ウウウウウウ……」
俺達はその日も魔界樹の森でグリスベアを狩っていた。それがDランクまでの依頼の中で最も稼げるからだ。ギルドも絶えずその依頼を出しているということは、素材やコアの需要が非常に多いのかもしれないな。まあ、単純に魔界樹の森そのものの危険を減らすといった意味合いもあるんだろうが。
この森は中央街道の近くにそびえたつ大森林なので、商人達の安全を確保するという狙いはありそうだ。大体、森の半分くらいがエンデューロ王国の領地になるんだとか。国境を隔てている大森林のようだ。
で、俺達はいつも通りグリスベアを5体ほど倒していたら急に新手が現れた。かなりの数でトカゲが2足歩行しているような外見のモンスターだった。鎧や槍を持っていることから知能があるのかもしれない。
「竜神族? こいつらがそうなのか?」
「え、ええ……人語を話すタイプではないみたいだけど。竜神族は北のシャビトス竜神国の者達よ!」
シャビトス竜神国……当然、初めて聞く国家の名称だが、目の前の連中はそこから来たのか。
「しかし、なんで魔界樹の森にいるんだ? ここはまだエンデューロ王国の領地内だろ?」
「それは確かにそうだけど、でも、こんな人数……尋常なことではないわ!」
なんか国家間の陰謀めいたものを感じるかもしれない……まあ、今はそんなことを考えても仕方ないが。
「ウウウウウ……」
「ウォォォォォォォ……!」
「何十体いるのか全てを確認するのは無理です。如何いたしましょうか、亮太様?」
マリアが周囲を警戒しながら言った。どの方向から迫って来ても不思議ではない。俺達を逃がす気はないようだった。
「そうだな、グリスベアと比較しても1人1人が圧倒的な強さだ。特に真ん中に立っている竜神族はさらに強いみたいだな」
「……」
俺の丁度正面に立っている竜神族が放つ闘気は桁が違うようだ。その周囲の竜神族もグリスベアよりも強い。エリーゼが驚いている理由はそこにあるのだろう。通常では助かりようのない状態だ。彼女だけなら1人も倒すことなく敗れているだろうから。
「強いのは間違いないわ! 竜神族の国家は大陸最強国家とも言われているから……その国の戦士が相手になるということは……それだけの強さを有するということ!」
「なるほど、だからこれだけの闘気を持っていたのですね。納得が行きました」
「へへへ! 戦いはこのくらい歯応えがないとつまんないしね! ま、こいつらが歯応えあるかどうかはこれから分かるんだけど。お願いだから幻滅させないで欲しいな!」
レミラは放たれている闘気に全く恐れている様子を見せていない。それはマリアも一緒だった。Aランク冒険者を破ったことや、グリスベアを大量に倒したことで、彼女達の自信は揺るぎないものになっているのだろう。この世界でも十分に通用する、と。
その考えは俺も同じだ。相手との力量差を明確には計れない戦闘は多い。そういう場面では経験や単純な戦闘能力がモノをいう。異世界での戦闘経験値はまだまだ足りないがそれを補って余りある能力、才能。俺やマリア、レミラの3人にはそれがあった。
「ウウウウウウ! ウォォォォォォ!」
こちらの臨戦態勢に反応したのか、ボスらしき竜神族を始めとして周囲の連中も一斉に襲って来た。統率の取れた高速の動き……考えている暇はないようだ。
「両サイドは任せた! 俺は正面からの竜神族を仕留める! 頼んだぞ!」
「畏まりました!」
「了解!」
俺はボスを中心とした前方の敵を殲滅。マリアとレミラの二人は俺を中心とした放射状に散りばめられている敵の殲滅だ。「剣王三重士」の戦力全てが投入される初めての戦いだ。楽しんで行こうとするか。