6話 最初の依頼
「あ、おはよう……亮太」
「おはよう、エリーゼ。昨日は眠れた?」
「うん、レミラが一緒に寝てくれたからさ。大丈夫だったわ」
「そっか」
明け方頃に寝ることになったので、昨日眠れたかどうかを聞くのは少し違うがニュアンスは通じたようだ。やや、ぎこちない様子だったけど笑顔で答えてくれた。
俺とマリア、レミラの関係性を完全に誤解していたからな……その説得に時間を費やしてしまったのだ。それ以外にも話題は幾つかあったけど。
「ふふ、それにしても不思議な3人よね。貴方達って。本当によく分からない関係だわ」
「まあ、とりあえず怪しい関係ではないからな?」
「うん、昨日あれだけ言われたし、信じているわよ」
人里離れた屋敷で女の子二人を囲ってしていること……そう聞けばエリーゼでなくても怪しい想像をしてしまうだろう。誤解が解けたのは本当に良かったと言える。異世界で出来た初めての仲間なのにわだかまりが早速出来てしまうのは避けたいからな。
今のエリーゼは本当に信じてくれているようだ。
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「今日こそ依頼を受けましょうよ~~! 野生動物も美味しいですけど、モンスター討伐したいですし! ねえ、マリア?」
「そうですね……この家には食料などが備蓄されていませんし。依頼を受けることを重視した方が良いでしょう」
レミラとマリアの二人も後から起きて来てリビングに集まった。
「食料がないって……本当にどういう生活していたの? あんなに強いのに」
「まあ、そこは色々あってさ。とりあえずお金がないから困っているんだ」
俺達の珍しい財政状況にエリーゼは苦笑いを見せていた。正直な話をすれば俺達は人間ではないのでしばらく何も食べなくても問題はないのだが、その辺りは隠しておく。
「お金が必要ならモンスター討伐依頼を受けるのが手っ取り早いと思うわ。強力なモンスターのコアや素材なんかは高く売れるし。もちろん、私も含めてDランクまでのモンスター討伐が限界だけどね」
「やっぱりモンスター討伐が良いのか。じゃあ、早速、依頼を受けに行こうか」
「そうですね」
「了解です」
「貴方達って確か文字が読めないのよね? それなら、私がモンスター討伐依頼を見繕うわ」
「ありがとう、エリーゼ」
エリーゼに依頼を見繕ってもらえればとりあえずは問題ないだろう。彼女が仲間に加わり状況が好転していっている。なかなか楽しくなりそうだ。
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「討伐依頼モンスターは、魔界樹の森のグリスベア。狂暴な熊、といったところかな?」
俺はフィオーレタウンのギルドでエリーゼが受けてくれた依頼書を見ていた。まあ、文字が読めないので詳細情報などはよく分からないが、グリスベアの写真? はしっかりと載っていた。
「グルルルルルル」
「で、目の前に立っているこいつがその張本人というわけか」
「そ、そうよ、亮太。Dランク相当のモンスターでは最強クラスと言われているわ。気を付けてね! 私が言っても説得力はないのは分かっているけど……」
「いや、初めて戦うモンスターだし油断はしないさ」
ここは生息地とされる魔界樹の森の入り口付近だ。すぐに見つかったのは良いけどグリスベアは既に俺に向かって牙を向けている。俺も戦闘態勢に入る為に両手大剣「レイザーエッジ」を具現化させた。その瞬間、グリスベアの態度が変わる。
「グルル……」
若干、後ずさりしているようだった。両手大剣の闘気を感じ取ったのだろうか? 流石は野生の獣といったところか。俺は怯んだグリスベアに容赦なく突っ込みレイザーエッジを薙ぎ払った。
「グガァァァァァ……!」
一際大きな断末魔と共にグリスベアは地面に倒れ伏した。胴体を真っ二つに切り裂いたのだ。カイザスの時とは違いかなり力を弱めたつもりだけど、簡単に倒せた。Dランクモンスターならこの程度といったところか。纏っていた闘気はカイザスのそれよりも弱かったしな。
「す、すごい……! グリスベアを一撃も凄いけれど、本当にそんな大きな剣を具現化するなんて。信じられないわ……!」
エリーゼは今にも腰を抜かしそうな様子だった。グリスベアを倒したことは俺の強さを聞いていた彼女からすればそこまで驚きではなかったらしい。やっぱり、武器を自在に具現化した部分で驚かれているな。これってそんなに凄いことなのか?
レミラもマリアも当たり前のようにしているので、いまいちピンと来ないが。
その後、俺達はエリーゼに教わりながらグリスベアのコアを取り出した。さらに、毛皮を剥いだりと売れそうな素材を入手していく。
「これだけ入手出来れば、ある程度の収入にはなりそうね」
「なるほど、モンスター討伐依頼はここまでで終了ということか」
「そういうことになるわね。でも、グリスベアの討伐依頼をこんなに簡単に達成するなんて。なんだか私の自信が打ち砕かれそうなんだけど……数カ月前から冒険者を始めてようやくDランクに来たと思っていたのに」
俺は何と返せばいいのか分からずに苦笑いで曖昧に流した。結構落ち込んでいるようだけど、なかなか良い言葉が思い浮かばない。
「エリーゼ、この程度で落ち込んでいてはこの先、やっていけないと思いますよ?」
「マリア? それってどういう意味?」
そんな時、マリアが割って入るように発言をした。何かフォローの言葉を掛けてくれるのかもしれない。
「あなたは亮太様の実力はまだほとんど見ていないということです。自分の芯をしっかりと持って歩んで行かなければ亮太様にはとてもついて行けないでしょう」
「両手大剣の具現化とグリスベアを一撃で倒したこと。この二つだけでも恐ろしいと思うけど、亮太の全貌には程遠いということ?」
「はい、そういうことです。エリーゼは回復魔法が得意と言っていました。あなたの得意分野で活躍が見込めるなら問題はないと思いますよ」
「なるほど……確かにそうかもしれないわね。自分の分野で生きる。なんとか貴方達に失望されないように頑張ってみるわ」
「ええ、よろしくお願いいたします」
ちょっとだけエリーゼは元気になっていた。少し厳しいと感じた言葉ではあったけど、マリアのフォローは上手くいったのかもしれない。レミラも声を出してはいないけど、二人のやり取りをニコニコと見ているし。
こうして俺達の最初の依頼は無事に成功した。ギルドに報告してまとまった収入も入って来たので良しとする。