5話 エリーゼ・シュトラウト その2
「エリーゼって冒険者ランクは何になるの?」
胸のところに吊るされているギルドカードだが、ランクを読むことが出来ない。書いてあるランクは「F」ではないことだけ分かるけど。
「私はDランクになるわ。ここにも書いてあるけどね」
「Dランクかなるほど……でも、17歳でDランクってなかなか凄いんじゃないのか?」
見たところチームを組んでいる様子もないし、17歳の女の子が一人でDランクまで上がったのだとしたら相当のような気がする。
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、貴方達の凄さを見たら……なんとも言えないかな」
「あ、ああ……ゴメン。配慮がなかったかな」
しまった……意図したわけじゃないけど、自信を奪ってしまったのかもしれない。おそらくはエリーゼからしても、一人でDランクに上がったというのは自信になっていたのだろう。
「いえ、亮太達みたいな凄い人に出会えること自体があり得ないんだし、これは私にとってすごく貴重な体験だと思うわ」
「そうかい? そう言ってもらえると嬉しいかな」
「うん……」
エリーゼに気を遣わせてしまったかな。こういう部分はこれから改善していかないとな。良い経験と言えばそうなんだけどね。
「どうしますか、亮太様? そろそろ良い時間にはなりますし、一端、アジトまで戻りましょうか?」
「ああ、そうだな……」
なんだかんだで話し込んでしまったな。夕方近くになってしまったようだ。太陽の光も沈みそうになっている。自宅は今誰もいない状態だし、荒らされていないか不安ではあるな。まあ、特に金目の物があるわけでもないけどさ。
「一度、アジトに戻ろうか」
「あ、待って!」
「ん、エリーゼ?」
エリーゼからの焦ったような声に俺は首を傾げながら返答した。どうしたんだろうか?
「エリーゼ、どうかしたんですか?」
その声にマリアが敬語で応える。こういうところは敬語なんだな。まあ、彼女らしいけど。
「あ、あの、もし良ければ私も仲間に入れてくれないかな……なんて」
「えっ? どういう意味……?」
「だ、だってさ! また、あのカイザスっていう奴に狙われるかもしれないし……亮太達さえ良ければ、仲間にして欲しいかななんて。私も単独での冒険者活動は不安だったんだよね。亮太達に比べれば戦闘能力なんて皆無も同然だけど、回復魔法なら自信はあるかな……なんて」
これはどういう態度を取ればいいんだろうか。エリーゼと再会した時に感謝はされるだろうと思っていたけど、まさか仲間になりたいとまで言われるとは思わなかった。見たところ彼女はかなりもじもじしている。おそらく、とんでもないことを言っているのは自覚しているんだろう。それでも言ったということは、それだけの覚悟があるということか。
「そういう理由なら俺達と行動を共にした方がいいかもね。俺達も今日冒険者になったばかりなんだ。色々と教えて貰えるとありがたいよ」
「そうなんだ! うん、私の知識が役立つのなら何でも教えるわ!」
「そっか、ありがとう」
よし、これでエリーゼから情報を聞きやすくなったぞ。先ほどの武器の具現化についてももっと詳しい話を聞きたいしね。レミラやマリアも彼女の参戦には喜んでくれるだろう。そう思って二人に視線を合わせると……あれ? なんだろう、この異様な雰囲気は……。
「なるほど……亮太様の性格がまた少し分かった気がします。これは非常に喜ばしいことですね」
「ふふふ、亮太様? 良かったですね、エリーゼが仲間になってくれて!」
「あ、ああ……それは嬉しいよ、うん」
「ふふふふ……」
あれ、なんだろうか? 二人の視線が怖いような……マリアもレミラも喜んでくれてはいるんだろうけどな。なんだか非常に怖い気がしてしまう。まあ、冒険者の先輩であるエリーゼが仲間になってくれるんだし、良かったよな! 戦闘能力はDランクということでそこまで高くないのかもしれないけど、その辺りはフォローしやすいし。
それよりも冒険者としての心得を簡単に聞けるようになったのは大きい収穫と言えると思う。俺はとりあえず、エリーゼを自宅に案内することにした。
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「わあ、凄い! 街から結構離れた場所だからどんな家かと思ったけど……豪華なところじゃない!」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
この屋敷はディザスターストーリーをやっていた時に購入した自宅になる。3階建てである程度の広さを有してはいるが、いかんせんこの屋敷ごと異世界へと飛ばされ、その場所があまりにも辺鄙なところだったのがいただけない。近くには街道らしき道もあるようだけど、この屋敷を確認することはほとんどないだろう。それほどに、人目に付かないところに建っているのだ。その為か、戻って来た時には特に荒らされている雰囲気はなかった。まあ、こんな辺鄙な場所を狙って窃盗を考える奴も珍しいとは思うが。
「ええと、私もここに住んでいいのかな?」
「ああ、別に構わないよ。エリーゼが嫌でなければ」
「いえ、私は嫌だなんてことは。確かに少しだけ街から離れているとは思うけど通えない程じゃないし。レミラやマリアが許してくれるなら……」
かなり遠慮した様子でエリーゼは質問していた。レミラ、マリアのおかしな雰囲気にも気付いているということかな? ああ、彼女達はなんて答えるんだろうか。それが心配だった。
「私は問題ないと思っていますよ。レミラはどう?」
「私も大丈夫だよ、エリーゼ」
「……! 良かった! ありがとう!」
おお、意外にも二人からの反応は良いものだった。怖い雰囲気があったのは事実だけど、俺の気のせいだったかな。エリーゼも嬉しそうにしているし、とりあえずは良かったか。男が俺しか居ないというのは少し照れ臭いけど……。
「どのみち、私達に決定権なんてありませんから」
「そうだよね~~、全ては亮太様の一存なんだし」
そう言いながら俺を見つめて来る二人……あれ、なんだか恐怖が蘇ってしまったぞ?
「ええ? ちょっと不思議だったけど……貴方達の関係って、一体どういうものなの? 私が踏み込んだらいけないんじゃ……」
「おい、エリーゼ! 変な想像はしないでくれよ! 君が考えているようなことはないからさ!」
「ええ、でも……」
「ふふふ」
否定しないで笑顔のレミラとマリア。その様子を見てさらに想像力を膨らませるエリーゼ。そんな彼女を納得させるのに、一晩を費やしたことはここだけの話だ。いや、本当に苦労したよ? レミラとマリアが協力してくれないからさ……どうしてなんだろうか。