4話 エリーゼ・シュトラウト その1
「す、済まなかったな……兄ちゃん、へへへ……」
「はっ? それだけ? なんか他に言うことないの?」
「いや、本当に申し訳ありませんでした!!」
レミラの今にも殺しかねない闘気に恐れを成したのか、カイザスともう一人の男はただただ土下座を繰り返していた。全身土まみれにはなっていたが、これといって外傷は大したレベルではない。まあ、あの一撃でこいつらが死亡したところでどうでもいいと言えばその通りだが、殺す気のない一撃で、巻き添えで死んでしまってはとりあえず夢見が悪いので良かったと言えるだろう。
それに……カイザスの驚きようからも、レミラと比べてもかなり弱いようだ。ということは互角くらいのマリアと比較しても、カイザス達は弱いと言えるだろう。これは良い収穫だった。
俺達3人は少なくともカイザスよりは強いということの証明になっているのだから。フィオーナタウンに来るまではもしかしたら冒険者の中でもかなり弱い可能性があっただけに、素直に自信へと繋がる事実だ。
「謝罪するのはそれくらいでいい。でも、二度とあのギルドで絡んだ女性には近づくなよ? わかったな?」
「え、ええ……それはもちろん……!」
「ならいい。ああ、出来れば俺達にももう関わらないでくれるかな? お前達みたいな連中と付き合うのは何かと面倒だからさ」
「と、いうことです。亮太様のご慈悲に感謝してくださいね? この次はありませんよ?」
「次は本当に殺すからね、気を付けてね!」
「ひ、ひい……!」
具現化されたレミラの片手剣。美しい装飾が施された年代物ではあるが、カイザス達の驚き方は異常に見えた。そういえば俺が両手大剣を出した時も驚いていたっけ? まあ、深く考えても仕方ないか……俺はカイザス達に振り返ることはせずにそのままギルドへと足を進めた。絡まれた女性のことが気になったからだ。まだ、あの場に居てくれたら良いけど。
「く、くそ……化け物め……」
「カイザス、聞こえたら殺されるぞ……」
「わかってるよ! くそがっ、今に見てろよ……!」
なんか反省していないような会話が聞こえて来たが……やっぱり再起不能くらいにはしておくべきだったか?
-------------------
「本当にありがとうございました!」
ギルドに戻った俺達。そんな俺達の姿を見て探していた女性は一目散に駆け寄ってきたのだ。今現在はギルド内の4人掛けの対面ソファに座っている。
「あ、いや……別にそんなお礼を言われることでは」
「亮太様、せっかくお礼を言われているのですから」
「そうですよ、ここは素直に受け取った方がいいと思いますけど」
「う……そうか」
マリアとレミラから正論の指摘が飛んで来てしまった。ここは素直に受け取った方が良いのか。高校1年の精神でしかない俺には良い勉強かもしれない。
「ありがとう、遠慮なく受け取っておくよ。ええと……」
「あ、わたしはエリーゼ・シュトラウトと申します」
「エリーゼ、か……」
年齢的には俺とあんまり変わらなさそうだけどどうなんだろうか? まあ、俺の今の顔はゲーム内で作った顔であって素顔ではないけど。それでも「亮太」という名前を使っている以上は似せてはいるけど。
正直、イケメンでもなんでもないのでエリーゼみたいな美人な人を前にすると舞い上がってしまう。これでも女友達が出来た経験自体はあるんだけど、苛めが起きてからは疎遠になってしまったし……巻き込まれたくないから離れられたのかもしれない。
そういう意味では人間不信になっているのかもしれなかった。だから、エリーゼとの会話の仕方が分からない。俺のことを第一に考えてくれるマリアとレミラとの会話とは全然違う感じだ。
「ねえねえ、エリーゼって何歳なの?」
「そうですね、私も気になっていました」
俺に気を遣ってくれたのか、レミラとマリアが話を進めてくれる。俺のことを天才だと誤解はしていても、年頃の人物だとは思ってくれているのかな?
「わ、私は17歳になります……」
「ええ、17歳!? それだったら、亮太様とほとんど同じ歳じゃん!」
「私達とも……まあ、私達は少し違いますが」
エリーゼは17歳なのか。俺が今年で16歳だから一応は同じくらいと言えるのかな? レミラとマリアは外見年齢で言えば17歳程度だけど、実際の年齢で言えばもっと若い。数年しか生きてないことになるのだから。
「えっと、そうなんですか?」
「ああ、まあそういうことになるかな。俺が16歳で……ええと、レミラとマリアの二人は、17歳なんだ一応」
「あ、そうだったんですね! 見た目から判断してそれ程年齢差はないと思っていましたが、まさかほぼ変わらない年代だとは……!」
エリーゼは両手を叩いて納得していた。互いの年齢が分かって嬉しいのだろうか。緑色の内巻きの髪をせわしなく弄り出した。なんだか身なりを整えているように見えるけど。ところであの内巻きの髪はどのようにセットしたのだろうか? この世界にはドライヤーみたいなアイテムがあるのか、それとも魔法の類いでセットしたのか。闘気に反応していたカイザス達を見る限り、この世界にも魔法や闘気といった概念は存在しているみたいだからな。
「ええと、エリーゼに言いたいんだけどさ」
「はい、なんでしょうか、亮太さん」
「いや……俺の方が歳下なんだし、普通に話してくれた方がいいかなって」
「え、でも……」
エリーゼは申し訳ないといった雰囲気を見せていた。俺が恩人になってしまったから遠慮しているのだろうか。でも、そういう風に見られるのは少し残念というか。せっかく歳の近い綺麗な女性と知り合えたのに。
「まあ、エリーゼが嫌なら強制するつもりはないけどさ。出来れば、普通に話して欲しいかなって思っただけで。距離があんまり離れているのも寂しいし」
「え、そうですか……なら、ええと亮太と呼んでも良いのかな?」
「うん、そっちの方が助かるかな」
「そっか……なら、よろしくね。亮太」
「うん、よろしくエリーゼ」
おお、一気に距離が縮まったような気がするぞ。お互いにぎこちない雰囲気はすぐには消えないけれど、これはこれで良いんじゃないだろうか。
「なるほど、仲良くなりましたね。ねえ、レミラ。そう思わないかしら?」
「そだね~~マリア。すっごくそう思うかな?」
「ふふふふ」
「うふふふ」
……レミラとマリアの笑顔がとても怖かった。俺は何か選択肢を間違えてしまったのかもしれない。
「そ、そういえば他の冒険者に聞いたんだけど……!」
いけない空気になることを察知したのか、エリーゼが急に話題を変更してきた。ナイス!
多分だけどその判断はとても正しい! ありがとう!
「どういう意味かしら?」
機嫌? が治ったのかマリアはいつもの調子で返答していた。敬語は敢えて使っていないようだ。
「貴方達……正確には亮太とカイザスの戦闘を遠目から見ていた冒険者によると、凄まじいクレーターを作ったとか」
恐る恐るエリーゼは聞いているようだった。聞いてはいけないことかもしれないと思っているのかな? いや違うか、単純に怖がっているだけだな。
「クレーターを作ったのは事実だよ。一応は俺がやったことだね」
「そうなんだ……そのクレーターの規模が尋常じゃないっていう噂がこのギルドにも伝わっているわ」
「あ、そうなんだ……」
噂が広まるのは別に良いんだけど、さっきから周囲の気配に微妙な違和感を感じてはいた。俺達を恐れているような雰囲気、それはそういうことだったのか。
「大規模なクレーターを作ったのはやはり亮太だったのね。それは凄まじいことなんだけど、それよりも私が驚いたのは武器を自在に出し入れできるという噂かな。まあ、私程度の実力者ではクレーターの件はピンと来なかったし」
「それってどういう意味かな?」
もしかしたら、カイザスが驚いていた理由を知れるかもしれない。俺は自然とエリーゼの話題に食いついていた。
「いえ、単純に物質を具現化出来る能力が珍しいってことよ」
「そうなのか?」
「ええ、珍しいわよ。珍しいというか強い人じゃないと無理というか……上位の冒険者を見てもほとんどいないんじゃないかな?」
「そうなんだ」
これは良いことを聞いたかもしれない。だから一瞬で両手大剣を具現化した俺や、片手剣を具現化したレミラを見てカイザスは驚いていたのか。エリーゼとの話は俺達の今後にも大きな影響を与えそうだ。