3話 ならず者との戦闘
「はい、これで3名ともに冒険者登録は完了です。頑張ってください、ご活躍を期待しております」
「どうも、ありがとうございました」
俺達3人はフィオーレタウンでの冒険者登録を完了して、外へと出て来た。
「文字が書けないからどうしようかと思ったけど……受付の人が優しくて助かったよ」
「さようですね。私もまだ文字の習得は出来ていませんので……助かりました」
「でもこれで、私達も冒険者ですね~~! Fランクからスタートっていうのが癪ですけど」
ギルドでの書類作成や名前の登録は受付の女性がしてくれたのだ。本当に助かった。マリアは文字をすぐに書けるようになると言っていたが、流石に昨日の今日では無理みたいだったしな。俺達3人の中で最初に文字を習得するのは間違いなく彼女だろう。
以前は当然のようにAランク冒険者だった俺達。4つだけでのランク分けでは少ないと感じたのか運営がさらにランクを細かく分けようとしていたようなので、俺達は正確にはAランク以上という扱いになっていたけどな。それだけに、レミラはFランクと書かれたギルドカードを見て不満そうにしていた。まあ、まだ文字自体は読めないけどな。
「亮太様、亮太様! 早速、依頼を見に行きましょうよ!」
「わかったよ、落ち着けってレミラ。まだ文字が読めないんだしさ」
「だって~~~!」
レミラはすぐにでも依頼を受けたい様子だ。多分、自分の力を試したいのだろう。昨日や一昨日の野生動物捕獲では物足りないようだ。捕獲というか、レミラは瞬殺していたけどな。彼女が獲って来た獲物の首はなかったし。
まあ、俺達の力がどの程度通用するのかは重要な部分だ。受付の人に頼んで手ごろな魔物退治の依頼でもお願いしてみようかな。そんなことを考えていると、ギルドの入り口付近から大きな声が聞こえて来た。
「おい、姉ちゃん! 服がシミになっちまったじゃねぇか! どうしてくれるんだよ!!」
肩に入れ墨をしている無骨な男が叫んだようだ。顔つきから見ても明らかに素行が悪そうだ。年齢は20代といったところか。その隣で立っている男も、大声をあげている男と同じで素行が悪そうだった。
「いや、でも……そっちがぶつかって来たんじゃない! それで私の飲み物が掛かったって、言い掛かりにも程があるわよ!」
「ああん、聞こえねぇな? 俺にそんな口を利いて良いのか? なあ、姉ちゃんよ」
10代と思われる女性が持っていた飲み物が素行の悪い男に掛かったようだが、明らかに絡んでいるようにしか見えなかった。女性の言い分からもわざとぶつかって、絡む理由を作ったんじゃないかと思える程だ。
「冒険者というのはその性質上、気性の荒い人物がいるようですね」
「う~ん、確かにそうかもしれないけどさ」
あそこまで典型的な例は珍しい気がする。日本でコテコテのヤンキーが今時は少ないとの同じようなものだろう。
「あ~~やだやだ。私だったらとっくにぶん殴ってますね」
レミラは気性の荒い男を見ながら明らかに見下しているようだった。こういうところはレミラの性格がもろに分かるところだ。マリアはこういう態度はなかなか見せないから。陽気な性格なレミラにだけ見られる一面と言えるだろう。
「おい、姉ちゃん! 俺が誰かは知っているんだろ? え?」
「な、なによ……そんなの関係ないでしょ……」
急に女性の態度が変わった気がした。気性の荒い男は有名な人物なのだろうか?
「俺様はAランク冒険者のカイザス・ニグヴァ様だぜ? そこんところ分かってんのか? ああ?」
「そ、それは……!」
Aランク冒険者か……ということは相当に強い冒険者ということになるだろう。Aより上のランクは2つしかないみたいだからな。絡まれている女性の態度から、彼女はそれ未満の冒険者のようだった。
「おい……Aランクのカイザスかよ。そんな高レベルの冒険者がこんなところに居るなんてな」
「あの子も厄介な奴に絡まれたものだぜ……」
周囲にいる人間達は女性に同情の意志を見せている様子だけど助けるつもりはないようだ。……ということは、彼らもAランク未満の冒険者ということか。
「なかなか可愛い姉ちゃんじゃねぇか。まあ、シミになった服の弁償は身体で勘弁してやるよ」
「な、何を言って……!」
やっぱり、そういう下衆な展開になったか。周囲の奴らは物怖じしているみたいだし、ここは助けるしかないな。単に絡まれている女性の為、というよりも俺の強さを知るためと言った方が正しいけれど。
「おいおい、液体を付けられたのかもしれないけれど、少し言い掛かりが過ぎるんじゃないのか? それにそれだけのことで身体を要求って……」
「あ、なんだてめぇは? 見ない顔だな……新米冒険者か?」
俺の声に速攻で反応したのか、鋭い視線を俺にぶつけて来る。それと同時に只者ではない闘気? 気配が伝わって来た。なるほど……その辺にいるヤンキーではないみたいだな。普通の人からしたら厄介極まりない相手かも。
強者がぶつけて来る理不尽って本当に面倒だからな……俺も中学の頃は苛められていたからよく分かっているつもりだ。
「新米冒険者の分際で俺様に意見するとは大したものだな」
「亮太様」
「亮太様、どうします? 私達が始末しましょうか?」
緊迫感が出ている状況だったが、マリアとレミラは平常運転だった。自分達が負けるとは微塵も考えていないのだろうか。NPC独特の考えと言えるのか……俺としては相手がAランク冒険者という部分が気になっていた。まだ、自分達の強さを分かっていないからだ。
野生動物を倒した実績しかないからな。そのくらいの芸当はAランク冒険者なら、簡単にやってのけるだろう。そういう意味では差が分からない。
「ふ~ん、そちらの美人な姉ちゃんはお前の知り合いってわけか」
「だったらなんなんだ?」
「おいおい、女の前だからって強がるなよ。へへへへへ」
これは相当な下衆な人間か。俺の五感がそのように伝えていた。マリアやレミラも言葉こそ発していないが、眉間にしわを寄せている。考えるところは同じであろう。戦う以外に選択肢はないか……。
「いいぜ、兄ちゃん。外へ出な。ボコボコにしてやるよ」
「ギルドの外じゃ狭い上に他の人の迷惑になる。少し郊外で話さないか?」
「無様にやられる姿を見られたくないってか? お前が連れてる女のどっちかを一晩差し出せば、許してやらんでもないぞ?」
「ふざけるなよ……このクソが」
俺は自然と低い声でそう言っていた。相手がAランク冒険者だからとか、そんなものは関係ない。相手の要求が我慢の限界を超えていたからだ。
「てめぇ……今から死ぬほど後悔させてやるよ。付いてこい」
「望むところだ」
俺は先に歩いて行く男二人に付いていく。当然のように、レミラとマリアも一緒に。二人にここへ残るように言っても聞かないだろうし、こればかりは仕方ないな。俺に危険が迫っている状態では彼女達は俺の安全を第一に動くから。
俺達は無言でAランク冒険者であるカイザスを見据えていた。
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「へへへ、兄ちゃんよ。今からでも遅くねぇぜ? 冒険者になったばかりの新米なんだろ? でなきゃこの俺様に喧嘩を売るなんざ考えられねぇからな」
「へっへっへ、カイザス。すっかりビビッてるぜあの小僧。とりあえずボコボコにしてから女をいただくとしようや」
「ま、それがいいか。へへへへへ」
カイザスとその隣の男は既に勝った気でいるようだ。レミラとマリアの二人を未だに狙っているということは、やはり彼女達は非常に美人に映っているようだ。うん、これは良い情報をゲットできたな。
「亮太様、如何いたしますか? 念のために3人で攻撃を仕掛けますか?」
「そうですよ、亮太様! ボコボコにしてやりましょう!」
レミラとマリアの二人は念のために警戒はしているようだ。彼女達だって歴戦の猛者なのだから当然と言えるが。勝てる自信を持ってはいても、初見の相手……しかも、この世界で初めての強敵を前に油断したりはしない。3人での攻撃というのは正しい判断に思えた。
しかし……。
「嬉しい提案だけど、ここは俺に任せてくれ」
「さようですか、畏まりました」
「気を付けてくださいね!」
「ああ、ありがとう」
レミラとマリアの二人は俺から距離を置いた。さてと……。
「用意はいいか?」
「はっ、小僧が。良い女に見られてるからって良い気になってんじゃねぇよ。10秒後にはお前は顔面流血で後悔することになるんだ」
「……」
「お前が地べたに這いつくばっているところで、その女達を犯してやるよ」
「下衆が……いいからもうしゃべるなよ」
「あ? なんだと?」
すぐにでも殺してやりたくなる。俺だけじゃなく、レミラやマリアを侮辱する発言だからな。でもあんなのでも一応は人間だ。死を与えるのはどうか……まあいい。とりあえずは攻撃方法だ。どの程度の力で攻撃するか……ここは手加減なしで行ってみるか。
俺は闘気を集中させ、愛用の両手大剣を生み出した。その剣を豪快に振り回す。その瞬間、カイザス達の顔色が変わった。
「ぐ、具現化したのか……? お、おい待て……!」
「行くぞっ!」
俺は相手の声など無視し、そのまま飛び上がった。狙うはカイザス──ではなく、そのすぐ隣。と言ってももう一人の男でもない。狙っているのは地面だ。この場所ならば本気の一撃をぶつけても問題はないだろう。
実際には魔法や闘気でのさらなる強化はしていないので本当の全力ではないが……素の攻撃での本気には違いない。カイザスと仲間の男は飛び上がった俺に対して、迎撃態勢を取らなかった。俺が当てる気がないのが分かったわけではなく、それどころではないといった雰囲気だ。
そのまま俺の素の全力攻撃はカイザスのすぐ隣の地面を抉った。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
俺の攻撃は地面──と言ってしまって良いのか……周辺一帯を消し飛ばし、とてつもないクレーターを作り上げていた。そのクレーターの真ん中に立つのは俺だが……何メートル抉り取ったんだ? まさか、ここまでの威力になるとは……。カイザスが立っていた付近には当てないつもりだったが、その辺りも含めて広範囲が消し飛んだようだった。
「ゲホゲホ……しまった」
粉塵が凄すぎて視界が悪い……もっと手加減すれば良かったと後悔したが、後の祭りであった。カイザスと仲間の男も巻き込んでしまったようだが……どうなった?
俺は敵ではあるが、あの二人が無事かを確認する為に周辺の気配を辿った。
「亮太様! 大丈夫ですか?」
「亮太様~~~!」
巨大なクレーターの上からはレミラとマリアの二人が俺を呼んでいた。その気配を感じ取り、俺はすぐに彼女達の元へと向かう。
「俺は大丈夫だ、二人は巻き添え喰らってないか?」
「はい、私達は距離を取りましたので問題ありません。ですが、例の二人は……」
粉塵がまだ立ち込める中、マリアはクレーター内を見ながら言った。
手加減をしない一撃……直接、当ててはいないが奴らはどうなった? 上から攻撃を当てる直前までは立ちすくんでいるように見えたが、巻き添えで殺してしまったか?
「ぐう……! なんて野郎だ……こんなことを……!」
「か、カイザス……話が違うぞ……なんなんだ、あれは! Fランクの雑魚じゃなかったのか!」
「俺が知るかよ!」
粉塵がある程度消えかかった時、カイザスとその仲間の男の姿が見えた。クレーターの隅に吹き飛ばされたのか、土まみれで座り込んでいる。大きな怪我はしていないようだが、状況と二人の会話から、なんとなく俺の位置がわかってしまった。
「亮太様、あの男への一撃は亮太様の強さを測る上では非常に良かったと思われます」
「ああ、確かに良い材料にはなってくれたね」
「さっすが亮太様! Aランク冒険者でも全く相手にならないんですね!」
「この件だけで決めつけるのは難しいが……まあ、一応はそうなるのかな?」
カイザスの驚きようは尋常ではない。隣の仲間の男の態度も同じだ。まだまだ油断するべきではないが、少し自信に繋がった気がする。
俺達はしばらくの間、クレーターの中で罵り合っている二人を眺めていた。