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2:革命を呼ぶ声

 一言でその男を表現するなら『アジテーター』が適切だろう。日本語では扇動者、そして彼は同時に先導者でもあった。火付け人にしてシンボルのその男はアタル・パルティノ、転生者である。

 王侯貴族が支配する国家では凶作と同等かそれ以上に恐れられ、その首にかけられた金貨は中規模国家の国家予算並み、そして、アデモラの初代〜7代の28年を歴任した伝説である。

 彼は24歳で革命に成功し、そこから52歳まで民主主義と国民の生活のために身を粉にして働き、そして73歳で喉にステーキを詰まらせ死んだ。国葬では悪ノリが好きな国民が愛すべき首相の火葬場でバーベキュー大会を行いみんなでステーキを食べたらしい。とかく、愛された男であった。

 そんな彼の没後から二百年と少しが経ち、永遠の安らぎの中にいた彼の魂はふと、厳かな声で呼び覚まされた。


「アタル、聞こえておるか」


「聞こえてないよ」


「聞こえとるじゃないか」


 彼は魂のみの状態で冥界の中でも良かれ悪かれとてつもない影響を世界に与えた者が並ぶエリアに陳列されていた。そして、それに呼びかけるものといえば他の同様に安らかな眠りについている死者ではなくその管理人、とだけすると語弊があるが、超常の存在、つまり神と名乗るものであった。


「おっ、神様じゃん」


「相変わらず軽いのお前は」


「ずいぶん長く寝てた気もするが一瞬だった気もするな、何年ぶり?久しぶりっていうべき?よくわかんないな、とりあえず転生ぶり」


「ブリブリブリブリうるさい、魂の状態で器用にお腹壊したのか?」


 神は頭を抱える。転生時もこいつはこんな調子だったのだ。しかしながらその口のうまさと頭の回転、そして何より初志貫徹をする強い心に引かれ、神は彼を地球からこの世界に引っ張ったのである。

 その結果が生活環境と貴族による搾取に憤激し、一国を革命の炎で包んだ上で神に対してこの口の利き方である。既に神はこいつの魂を呼び覚ましたことに若干の後悔を覚えつつある。


「ざっくり二百年ちょいお前は寝てたぞ」


「ワインだったら何億円になるんだろうな」


「よし、次の転生先はヴィンテージワインでいいの」


「職権濫用か?じゃあ革命だ」


 アタルとの会話が面倒になってきた神は、全ての会話過程をすっ飛ばしていきなり話題を切り替えた。


「ところでアタル、お前もっぺん生まれ直す気はないか?」


「どうした、並べてほしい王族の首でもあるのか?」


「どうしてお前はいつも物騒なんじゃい」


 神は一呼吸置いて仕切り直した。


「神、下の世界では様々に呼び方が分かれているけどまあどれもワシのことを指す……その神は人の信仰によってその力を保ち、それによって世界を調整しているという話を転生時にしたが覚えておるか?」


「ああ、それで?」


 またどこかの国で革命かなあと思ったのか、アタルの目に火が灯る。神は違う、そうじゃないと彼を押しとどめた。


「だから人口が増えるのはワシにとってはいいことなんじゃよ」


「ふむ」


「それでお前さんを放り込んだ国だが順調に国民が増えてきてだな……ええい、説明が面倒だ、直接下界を見せてやるからちょっとこっち来い」


「なんなんだよ」


 そして彼が神の横に立ち、スクリーンのようなものを覗き込むとそこには、見るに堪えないほど形骸化した民主主義国家の姿があった。最低限の生活が保障されているため、そして今の首相がまともであるためになんとかかつての王侯貴族による統治よりマシという程度で、ほとんど屋台骨まで腐り切っていると彼の目には映った。


「なんなんだよ……なんなんだよ!!!!殺す!おい!神様!俺にチートを寄越せ!前回の革命はチート無しだったんだ、今回くらいこの腐れ政治家どもを全員粛清できる力を」


「落ち着け、頼むから、な?」


 彼が落ち着くまではそこそこ長い時間がかかった。それこそ魂の状態だと息切れを起こすほど癇癪を起こし、そしてどうにか沈静化したと言った具合だ。


「ひどいもんじゃろ?」


「ああ、首相はやることやってるが大半の奴が粛清対象だ」


「お主を呼んだのは他でもなくてな、この調子だと遅かれ早かれこの国家はダメになる」


「そんなの見りゃわかる」


「政治家が社会福祉に使うはずの金を自分のポケットに入れたらどうなる?」


「苦しむ人が増える」


「そうなんじゃよ、つまりは遠回りではあるが人口が減る可能性が高いんじゃ。そうすると、他国からも侵略しやすくなり戦争が起これば人が死ぬ。結果としてワシは信仰が得にくくなって世界崩壊まっしぐらってわけなんじゃよ」


「……俺にそれを止めろと?」


「ここまで言えば流石にわかるかの、お前には首相の後ろにくっつくご機嫌背後霊くんになってもらう。首相以外には見えず、声も聞こえないやつじゃ」


「なぜそんな迂遠な方法を?俺を政治家にすれば一発で決めてやるのに」


「それはこの世界のルール上の問題じゃ。新しい人は転生、つまり赤子からスタートしか選べん。しかしワシはお前が育つ間悠長に待てるほどこの国家の余命が長いようには見えんのじゃ」


「納得した」


 それにの、と神は言葉を続ける。


「お前さんが必死こいて作り上げた理想に至る道を、こんな奴らに邪魔されたら癪じゃろ?」


「……ああ」


「お前さんはこの世界一周目の人生で派手に暴れて、民の世を作り出し、人を増やし、ひいてはこの世界のために頑張った。そんなお前さんに少しトリッキーではあるがご褒美として『理想をその手に取り戻す権利』を与えようかという側面もある」


「……」


「さて、どうする」


「やる」


 即答であった。かつての革命家はその手に握った剣で血路を切り拓いた。今回はその握る剣が数少ない真っ当な政治家に代わる。かつては先頭に立つのは自分一人であったが、今回の剣はその自制心と倫理観に基づき、一緒に先頭に立ってくれそうな心強い者である。彼の胸はかつての革命と同じように理不尽に対する怒りに満ち溢れていた。


「よう言うた、よし、首相に神託を下してお前さんを受け入れるために3日ほど猶予を与えてからお前さんを下界に再び下ろす。それまではワシのアーカイブからこの二百年の政治に関する概略と詳細な現状を貸してやるから丁寧に読み込んで対策でも練るといい」


 神はそう言ってニヤリと笑った。


「気張れよアジテーター、お前さんが見たかった理想郷を取り戻してみせよ」



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