エクスマター
──半年後
ログリアスに停泊している|マーテェルナビス1号機《超大型宇宙船》の中で、皇帝レイニス・ハルバードへと調査結果の報告が行われていた。
大きな円形の机を取り囲む様にモニター状のホログラムが出現していた。その中心には一際大きなホログラムが出現している。そこに顔全体を覆う機械的な漆黒のマスクをつけた人物が映っていた。彼がレイトルニア帝国現皇帝レイニス・ハルバートである。
『ではまず惑星アースニアについてだ。これはマーテェルナビス4号機のレイトフォーツ研究所に任せたはずだが』
皇帝レイニスがそう言いうと、ノイラス・メルフィードが口を開く。
『あれれ、今日はレイリー君いないのかな?残念だなぁ〜』
それに対し研究員らしき服装をした人物が答えた。
「はい、本日は所用により欠席です。しかし、彼女の代わりに私が説明致します」
そう言うと、彼は手に持っていた電子端末からホログラムを開いた。
『あー、そうなんだ。よろしくね。じゃあさっそく教えてくれる?』
ノイラスは少しつまらなさそうな顔をしてそう言った。
「はい、調査団が持ち帰った惑星アースニアから持ち帰ったサンプルとアースニアの大気中を解析した結果、ある物質が発見出来ました」
『ほう?それは興味深いな』
皇帝レイニスは興味深げに話を聞く。
「この未知の物質を、物質Xとしましょう。この物質Xは特定の信号を与える事で様々な現象を引き起こす事が判明しました。例えば……」
研究員は手元の端末を操作すると、ホログラムに映像を流した。そこには禍々しい模様のついた果実がいくつも入ったカプセルが映っている。するとカプセル内が強い光で満たされ、その後徐々に光が収まると、一つの小さな虹色に輝く結晶体が存在していた。
『ええ!それってまさかレグトプロニウムじゃないかな!?』
「その通りですノイラス様」
「まさかそんな!そんなに輝きを放つ高純度のレグドプロニウムをこの一瞬でどうやって気抽出できたんだい!?」
ノイラスは驚きの声を上げ、目は好奇心に満ちた輝きを放っていた。皇帝レイニスも冷静さを保ちながらも動揺していた。
──レグトプロニウムそれはマーテェルナビスやアルマティスを動かす為のエネルギーであり、本来なら宇宙に漂うダークマターから大掛かりな装置と多大な時間をかけ抽出しなければいけない代物だ。それが目の前に突如として出現した。皆興奮するしかないだろう。
ノイラスの質問に男性が答える。
「抽出したわけではありません。先程も言ったように、物質Xには特定の信号を発信する事によってあらゆる物質への変化や現象を引き起こす事が可能なのです。それはまさに万能と言っても過言では無いでしょう。我々レイトフォーツ研究所ではこの万能物質を【エクスマター】と名付けました」
『へぇ〜、面白いね。まるで魔法見たいだ。アルマティスの新たなエネルギーとして活用できるかな?』
研究員の話を聞きノイラスは期待を込めた声でそう言った。
しかし研究員は首を横に振り口を開く。
「ですが、これには欠点がありまして、それはどんな容器を用いても保管する事は出来ず、あらゆる物を透過してしまう性質があるのです」
その言葉に一同は落胆する。
「えーそれは残念だね」
ノイラスも肩を落とし、ため息を吐いた。
しかし研究員は続ける。
「はい。ですがアースニアのプロティストや有機生命体からは高濃度のエクスマターが検出されました」
その報告を聞いて、皇帝レイニスは顎に手を当てて考え込む。そして、何か思いついたかの様に口を開いた。
『つまり、アースニアの生命体にはエクスマターを保持する器官でもあるのか?』
「その通りです皇帝陛下。大気中のエクスマターを取り込み保持する、もしくは自己生成し、エネルギーに変換しているものと思われます」
『なら、奴らの動力もエクスマターで間違い無いな』
『そうですね。レイリー君が最後に戦った赤い機体がアースニアの大気圏を抜ける直後に逃げ出した辺りから大体推測できますね』
皇帝の言葉に対し、ノイラスが真面目に答えた。
『それならアルマティスにも応用できるのではないか?』
皇帝はさらに研究員の男に対して質問を投げかけた。
「先程申した通りエクスマターを保存する事は出来ません。取り込みエネルギーとして使用する事は可能だと思われますが、我々にその技術はありません。今できるのはエクスマターを保持した有機物から抽出したものを変化させるのみです」
『いや、それができるだけでも凄い進歩だと思うよ?ですよね、皇帝陛下』
『ああ、それで一つ質問をしよう』
そう言うと皇帝は呼吸置いてから口を開いた。
『エクスマターを人間に適合させる事でそいつを器として使用する事は可能か?』
皇帝レイニスの言葉に研究員の男は目を見開く。そして少し考える素振りを見せると、意を決した様に答えた。
「理論上は不可能ではないでしょう。しかしその場合、膨大な量の人体実験が必要となります。仮に適合できたとしてもその人間は確実に死に至るでしょう」
「なら最初から作り出せばいんじゃ無いかな?確かそっちの研究もしてたよね?」
研究員の答えを聞いたノイラスはそう言うとニヤリとした笑みを浮かべた。
「なるほど、そういう事でしたら不可能ではないかと……」
研究員はそう答えるも、顔には迷いが見てとれた。
「そうか、ならばお前に任せよう。頼んだぞ」
研究員の表情を気にする事なくそう言い終わると、皇帝のホログラムが消失した。
それと同時にノイラス達も消えていった。
後に残された研究員は複雑な表情を浮かべていた。
「はい。分かりました……」
そう呟くと、彼もその場から姿を消したのだった。