クリムゾンと赤い機体
レイリーはクリムゾンを操縦し、皇帝レイニス・ハルバードが搭乗しているであろうレイトナビスへ向け高速で上空を飛行していた。
「敵機の反応が多すぎる。でもあいつに支援を頼むなんて気がひけるけど、今回は仕方がないわね」
レイリーはホログラムに映し出されているレーダーを見て静かに呟いた。
「応答しなさいノイラス」
『おっ、君から僕に通信してくるなんて珍しいね。どうしたのかな?もしかして愛の告白とか?』
「戯言はよしなさい。あなたの忌々しい口の中に弾丸ならいくつでも打ち込んであげるけど」
『ふっ、相変わらず容赦ないねぇ君は。でもそう言う所、可愛らしいよレイリー』
ノイラスは甘い声音で囁く様に言い放つが、レイリーにとっては不愉快極まりない言葉だった。
「黙りなさい、あなたともう無駄話をする気はないわ。それにその気持ち悪い口調もやめてくれないかしら?」
彼女は苛立った様子で言い放った。
『つれないなぁ〜まあ良いさ、それで用件は何だい?』
「敵の数が多すぎるから支援砲撃をしなさい」
『ああー、ちょうどしてあげようと思ってた所なんだけどレーダーの調子が悪くてねぇ』
「なら私が感知した敵の座標を共有するわ。それとノイズが酷いのだけれど、原因はあなた?」
『いやいや冗談はよしてくれよ、君の声にもノイズが混じってるから僕の方ではないかな。レーダーの調子も悪いし、何か関係があるのかも?』
「貴方に言われたくないわ。それと、今は私を支援する事に全力を尽くして頂戴」
「これは借りだね。後で何で返して貰おうかなぁ〜、君の身体…………」
ノイラスが言い終える前にレイリーは通信を切った。
「頼んで損しちゃったわ。やっぱりさっき始末しておくべきだったかしら」
冷たく吐き捨てるように言いつつレーダーに映る敵の方へと機体を加速させた。
ーーーーー
『こいつら強い!一体なんなんだ!』
『くっ……!このままでは全滅してしまう!』
『隊長!増援はまだですか!』
『もう直ぐ到着するはずだ、それまで耐えるんだ!お前達!』
通信可能圏内に入ったようで、友軍の会話音声をクリムゾンが捉えた。
そこでは既に味方のアルマティスが交戦をしているが明らかに劣勢の様子だった。
「アルマティス?にしてはちょっと形状が異なるわね。それにスラスターが無いのにどうして飛んでるのかしら?」
レイリーは外部映像に映る敵を拡大し分析する。その敵の姿はアルマティスとよく似た鎧の騎士の様な機械兵器が映り込んでいた。しかし細部の形状が異なり、スラスターは無い。代わりに薄っすらと確認できる半透明の衣によって機体全身が包まれていた。
「とりあえずスナイパードローンを用意しておきましょうか」
レイリーは敵影を確認した後、素早くクリスタルボードクリスタルボードを操作し呟いた。
するとクリムゾンの機体背に装備されているジェットスラスター2基が切り離され自立飛行を始める、そしてシャボン玉の様な虹色の球体に包まれると、周囲の色に溶け込む様に色が変化し周りの景色と同感していった。
「私も光化学迷彩展開しとこうかしら。攻撃したらバレちゃうから気休めにしかならないのだけれど」
先程と同じくて、クリムゾンにも光学迷彩が展開され周囲の景色と同化した。
それによってクリムゾンは目視で確認出来ない状態となった。
その後残った2基のジェットスラスターを噴射させながら、その場で機体をホバリング状態に高度を維持する。
光化学迷彩を纏い、周囲の景色に溶け込んだクリムゾンには敵も味方も認識する事が出来なくなっていた。
それは同時に、敵のレーダーからも探知されないと言う事である。
「安心しなさい私が来たからには直ぐに終わらせてあげるわ」
レイリーは友軍機へ向け通信機で呼びかけた。
『そ、その声は!レイリー・レグフォーツ様!でもお姿が何処にも』
「細かい事はいいの。それより貴方達が敵を引き付けなさい、そしたら私があいつらを片付けてあげるから」
『了解しました。お任せ下さい!必ずやご期待に応えて見せます!』
レイリーの言葉に力強く答えると、味方のアルマティスは一斉に散開し敵から距離を取る。すると無数の敵が後を追うようにして追撃を開始した。
クリムゾンは機体右腕に装備されたベナジーレイルを構える。その見た目はスナイパーライフルの様だか、バレルには複数の切れ込みが入っており実弾を打つには適していない。色は機体と同じ深紅に塗装されてる。
それはまるで血の様に赤い禍々しいオーラを放っているようにも見える。
「ターゲットロックオン、射撃開始。消え去りなさい」
ベナジーレイトを構え照準を合わせる。それと同時に左右に展開されたスナイパードローンも敵機それぞれに照準を合わせた。
3つ同時に赤色の光が迸る。敵から見れば空中に突然3つの光が現れた様に見えただろう。
(ぺチョン!)
エネルギー兵器特有の独特な発射音が鳴り響くと同時に、赤い3本の光線が伸びていく。そして一瞬で敵の装甲を貫き、敵機を爆炎で包み込んでいった。
『流石です!レイリー様!!』
「まだまだ敵の数は多いわ、気を抜かないで戦いなさい。私は皇帝陛下の援護に向かうから後は頼んだわよ」
『はい!ありがとうございます!』
クリムゾンは交戦中の空域の奥へと進む。すると皇帝レイニスが搭乗しているであろうレイトナビスを護衛するアルマティスが未確認機体と激しい交戦を繰り広げていた。
「これはまた随分と数が多いわね。皇帝陛下、ご無事ですか?」
『お前がどうしてここに?1号機の指揮はどうした?』
「ノイラスに任せました」
『そうか、まぁ良いだろう。それと今回の調査は中止だ、俺がマーテェルナビス1号機へ戻り次第惑星ログリアスに帰還する。その間少しのだけ奴らを食い止めろ』
皇帝レイニスが搭乗しているであろうレイトナビスがクリムゾンの直ぐ近くを通過した。
「無理はするなよ。お前も自分の立場を分かっているだろう?」
「はい、承知しております」
クリムゾンは敵機と交戦している友軍機を援護しつつマーテェルナビス1号機の方へ撤退を始める。
その間にも的確にベナジーレイルで敵を遠距離から次々に撃ち抜いていく。
光化学迷彩で機体を隠しているものの狙撃位置から場所を特定された様で、敵機がクリムゾンへと迫る。
「そんな武器で何しようって言うの?」
が、レイリーは敵の装備を見て侮った。
何故なら敵は銃らしき遠距離武器を装備しておらず、片腕に剣の様な武器を握っているのみだったからだ。
「私の前から消えて頂戴」
冷たい声で言い放ち、ベナジーレイルを構える。
次の瞬間彼女の目は驚愕の光景を目の当たりにする。
敵機は何も装備していない腕を突き出すと、そこに周囲から湧き出れる様に出た光の粒子が手元で収束され、光線となって次々と放たれた。それはまるでビーム兵器の様に。
「チッ!」
咄嵯に機体の回避行動を取り難を逃れるが、一瞬反応が遅れてしまい左肩に被弾してしまう。それによって光化学迷彩に綻びが生じ、クリムゾンの姿が露わとなった。
「まさか、光学兵器?それにこの威力は!」
レイリーは動揺を隠せない様子で今度は左右に展開したスナイパードローンから照準を合わせる。
その瞬間、紫色の光が目の前を通り過ぎたと同時に敵の姿が消え去った。
『急に通信をきるなんて酷いじゃないかぁ〜』
ノイラスがマーテェルナビスから放った支援攻撃だった。
「貴方が余計な事を言ったからでしょう?それにしても遅すぎるわ。後で貴方を始末してあげるから覚悟しておきなさい」
「怖いなぁ〜。まあ、冗談だよ冗談。君に手を出すつもりはないよ。僕を頼ってくれた事が嬉しいからね」
「はいはい、じゃあ引き続き支援砲撃をお願いね」
『もうしてるよぉ。あ、気をつけてね』
「え?」
ノイラスの一言にレイリーは間抜けな声を漏らした。
そして、その言葉の意味をすぐに理解する事になる。
レイリーの直ぐ上空を巨大な何かが次々と通り過ぎた。それらは、敵の大軍の方へと飛翔し途端に球体状のエネルギー爆発を起こし、敵をまとめて吹き飛ばしのだった。
その衝撃波によってクリムゾンも吹き飛ばされそうになるが、何とか持ち堪える。
「貴方ねぇ!もう少し距離を考えなさい!」
『いやいや、僕はちゃんと君の座標を見てしっかり考えて砲撃しているよ!』
レイリーが文句を言うと、ノイラスが通信越しに反論した。
『それとまだ残ってるから気をつけてね』
「ええ、知っているわ」
淡々と答えつつ、片手間の様にベナジーレイルを構え敵を撃ち抜いた。
『あ、そろそろ帰還しても良いよ。皇帝陛下のレイトナビスが直ぐ近くまで来てるからね』
「そう、なら早めに戻るわ。貴方のせいで被弾しちゃったから」
レイリーが不満げに呟く。
『っ!!レイリー気をつけて、何かがそっち急速に迫ってる!』
レイリーはノイラスの声を聞き、反射的にベナジーレイトを構える。
───急接近する謎の機体、その姿はアルマティスと同じく鎧の騎士を彷彿とさせる。しかしスラスターは無く変わりに煉獄の炎の様な衣を纏い、両手には絶え間なく赤いオーラを放ち続ける大剣が握られ、今まで相手にして来た敵とは比べ物にならない気迫を放っていた。
「何あれ?あんなの見たことないわ!」
レイリーは警戒心を強め、ベナジーレイルを構える。
その機体はまるで、自分が戦うべき相手だと言わんばかりに真っ直ぐクリムゾンへと向かって来ていた。
そして、お互いの機体が接触する寸前で敵は動きを止める。相手の出方を伺うが、敵は微動だにせず沈黙を保っていた。
レイリーは敵の姿をよく観察する。
機体の胸部はタービンの様になっており回転体には多数の羽根を備えていた。
「…不思議な形状をしているわね。まるで機械の天使みたいだわ」
レイリーがポツリと感想を口にすると、機体胸部にある回転体が高速回転を始める。
すると周囲の空間から、光の粒子が湧いて出る様に出現し、胸部から吸収された。
そして、機体全身を包んでいた煉獄の炎の様な衣が更に激しく燃え上がり、より一層輝きを増していく。
それはさながら、太陽の如く眩しく光り輝いていた。
同時にクリムゾンは危険を察知し後方へ飛び退くき、すかさず発砲した。さらにスナイパードローンからも次々と赤色の光線を放つ。しかし相手は驚異的な速度で攻撃を避けクリムゾンの目の前へと迫った。
「嘘っ!?」
レイリーは驚きつつもクリムゾンを操作し回避行動を取るが、間に合ないことを悟り防御体勢に移す。しかしまたしても目の前に紫色の光が通り過ぎ、途端に大爆発を起こした。
爆煙が立ち込め、辺りが白一色に包まれた。
『また僕に助けられてたね。少しは感謝してくれてもいいんだよ……っまさか確かに命中したはずなんだけど!?』
クリムゾンの目の前から消滅するはずだった赤い機体の反応が消えないことに驚き目を疑うノイラス。
クリムゾンの目の前には両手剣の腹を前に向け、無傷のままその場で飛行する深紅の機体の姿だった。
「なんなのよあいつ!絶対に許さない!」
『レイリー!大丈夫かい?』
ノイラスが優しく呼びかけるも、レイリーは怒り心頭な様子だった。
「「同調開始!!」」
レイリーは静かに目を瞑り、大きく声を張り上げ叫んだ。それと同時に全モニターが消失し、『同調』によってクリムゾンを意識のままに機体を動かせる状態となった。それによって、飛躍的に機体性能を向上させる事が出来る。
彼女は今、クリムゾンの力を最大限発揮出来る状態となっていた。
『もう撤退するって言うのにこのタイミングで機体と同調するの?感情に身を任せるのはらしくなぁ』
「貴方は黙ってなさい、あいつだけは必ず墜とすって決めたの!」
『分かったよ。好きにすればいいじゃないか。まあ、約束だから僕もサポートさせて貰おうかな』
クリムゾンの速度は、通常のアルマティスでは到底追いつけるものではなかった。
直後、赤い機体が動き出した。しかしクリムゾンの方では無くマーテェルナビスの方へと一直線に向かっていく。
それはまるで隕石の様に煉獄の炎の帯を引きながら。
「ちょっと!待ちなさい!」
そう叫ぶと同時にクリムゾンの背部に装備されていたジェットスラスターをフルスロットルにし、急加速する。さらにスナイパードローンも機体背へと戻し再びスラスターとして機能させるも赤い機体には追いつけ無い。
『ええーっ!こっちへ向かって来たんだけど!?』
その事に気づいたノイラスも慌てて攻撃を再開するが、全て交わされてしまった。
そしてあっという間にマーテェルナビスへと迫ると速度を落とす事なくそのままの勢いで両手剣を振り下ろした。
(ドゴーーン!!)
けたたましい轟音と共にマーテェル内では地震の様に大きく揺れた。
『嘘だろ!マーテェルナビスの装甲を1撃で打ち破るなんて!まずい、内部に侵入された!』
『なんですって!?』
レイリーは焦燥感に駆られながらも赤い機体の後を追う。
マーテェルナビスへ近づくと装甲に大きな穴が開いていた。そこからクリムゾンもマーテェルナビス内部へと入る。
「あの赤い奴は何処にいるの!」
『第3層の……民間居住区だ!絶対に都市中心部の昇降盤には敵を近づけないでくれ!』
ーーーーー
──民間居住区。それはマーテェルナビスの大部分を占める都市である。中央には昇降盤があり下層や上層への移動が可能だ。その階層を繋ぐ通路は巨大な柱が並び、天井はドーム状になっている。
民間人は別のマーティルナビスへ避難していた為に誰一人として居ない。
赤い機体は直ぐに確認出来た。
マーテェルナビス内に隈なく設置されている防衛システムとの交戦が繰り広げられているが、赤い機体の圧倒的な火力の前には為す術も無く破壊されていく。
「本気でいかせてもらうわ。ブラストチェーン起動」
追いついたレイリーは静かに呟く。
クリムゾンは何処からもなく長いチェーンを取り出した。その先端は槍の様な形状で、鋭利に尖っている。
それを振り上げるとイバラの様な棘が隙間なく生え、赤く禍々しい光を帯びた。
それはまるで、血塗られた鎖の様に。
「喰らいなさい!」
不意をつく様に赤い機体な背後から迫り、ブラストチェーンを振り下ろす。だが、それすら読まれていたのか簡単に避けられてしまう。
レイリーは舌打ちをしつつ、今度は連続で攻撃を行う。
何度もお互いにブラストチェーンと両手剣がぶつかり合い、激しく火花が散った。
が、ムチと両手剣では単純に質量の差が違いすぎるため、徐々にクリムゾンが押され始める。その隙を狙い相手は再び両手剣の切っ先を向け突進してきた。
「甘いわね!」
しかしクリムゾンはそれを見越してか、左手に持つベナジーレイトを連射する。放たれたのは無数の赤い光線。それらは赤い機体に直撃するも、その炎の衣によって防がれダメージを与えられていない。
「チッ!やっぱり硬いわね!」
レイリーは悔しそうに歯噛みしながらも、後退し距離を取った。
『レイリー、破壊しすぎだよ!これ以上暴れられるとログリアスに行くまで船がもたない!』
周りは戦闘によって無惨に瓦礫化した建物の至る所から炎が上がっていた。
「分かってるわよそんなこと!」
しかしクリムゾンと赤い機体の攻防は続き、爆音が響き渡る。
『ああっ!これ以上は本当にまずいって!』
ノイラスは悲鳴に似た声を上げる。
その後もお互1歩も譲らない攻防が続いた。
しかしマーテェルナビスが上昇しアースニアを離れるにつれて段々とクリムゾンに優勢が傾く。
「中々やるじゃない。でも徐々に動きが鈍くなってるわよ?」
赤い機体が纏う炎の様な衣が徐々に薄れ、明らかに機動力が落ちていた。
すると赤い機体はクリムゾンから距離をとり、両手剣を軽く空中で振り下ろした。
すると、どこからもなく湧いて出た光の粒子が集まり炎の球体が5つ生成され飛翔した。
「チッ!そんな事もできるわけね。厄介だわ」
レイリーは忌々しげに顔を歪めながら、クリムゾンを操作し、素速い動きで次々と攻撃を交わすも、避けきれそうに無かった最後の1発をブラストチェーンで振り払った。
爆発と共にクリムゾンは煙に覆われる。
その一瞬を待っていたかの様に赤い機体は急加速しマーテェルナビス装甲に空いた穴へと向かって行った。
「まさか逃げようっていうの!?」
『それ以上はやめた方がいい。もうすぐ大気圏に入るから早くその場を離れないと穴から外へ吸い出されて戻れなくなるよ』
すかさず後を追おうとするレイリーだったがノイラスが止めた。
「仕方ないわね」
レイリーは歯痒そうな表情を浮かべると、渋々納得した様子でマーテェルナビス内の都市の中心部にある昇降版から下層の格納庫へと降り、その場を離れていったのだった。
想像で戦闘シーンの描写をそのまま描いてみたのですが作者
の自分でさえ後々読み返すと中々想像しにくいです……。
でもこれ以上長くするわけにもいかず、早く主人公視点で本編を書き進めたいので次の話をちょっと書いたのち、今日の更新時間に本編プロローグを更新しようと思います!