飲み会
飲み会に誘われた。
昨年の彼女とのゴタゴタ以来、友達も気を使ってか僕を飲み会に誘う事はしてこなかったが、女も来るし、何より十代最後の夏なんだから、楽しんだって罰は当たらないじゃないかとのことだった。
僕は少し迷ったが行くことにした。あんなことがあってもう一年だし、何時までも引きづっていたって仕方がないと思えた。
それで、と僕はシュウサクに言った。肝心の女の子はどうなんだと。しかしいくら言ってもシュウサクは言葉を濁すだけで教えてくれない。楽しみにしていろと繰り返すばかりなので、僕はシュウサクの言葉を信じることにして電話を切った。
僕らは一足先に居酒屋へ入った。メンバーは僕とシュウサクとミツフサで、あとから女の子が三人来るという事だった。
下心丸出しの会話をしていると、まもなく女の子たちがやって来た。僕は一目見た瞬間息を飲んだ。シュウサクもどこで出会ったのか、彼女たちはみんなとびっきり可愛かった。そりゃ電話口でシュウサクもあんな言い方になるわなと僕は納得した。シュウサクに目くばせすると、得意げな顔をしてウインクをされた。
僕の隣にはたれ目で黒目がちな可愛い子が座った。あまり場慣れしていないのか、返事がたどたどしかった。だけどそういう初々しい態度が僕にはたまらなく魅力的に見えて、ついついお酒も進んだ。
そのせいで始まってまだ三十分も経っていないといのに、僕はさっそく酔っ払ってしまった。頭はくらくらし、視界が歪んだ。
向かいの席のシュウサクは茶髪の女の子と盛り上がっている。
隣のミツフサは眼鏡をかけた知的な子ともたれあって何やら囁き合っている。
そんな中で僕は、何をしているのだろう?
分らない。
ただ、視線を感じる。
ふと気がつくと、僕は道を歩いていた。どうやら居酒屋を後にしたらしい。シュウサクとミツフサは僕の前を行き、楽しそうに女の子たちと浮かれている。
いい気なもんだな、とぼんやり思っていると、右手に何かを握っていることに気が付いた。見ると、手だった。先ほどの子が僕と手をつないでいたのだ。
久しぶりに握る女の子の手に、僕の胸は高鳴った。柔らかく、なめらかで、それでいて温かかった。
ずっとこのままこうしていたいと思った瞬間、不安がよぎった。もしかしたら、この子はまわりの雰囲気に合わせているだけなのかもしれない。シュウサクたちがあんなに楽しそうなのだ、水を差しちゃいけないと考え仕方なく僕と手をつないでいるのかもしれない。
僕は横目で彼女を見た。しかし前髪が影を落とし、うまく彼女の表情をうかがえない。店の明かりや対向車のライトを利用して盗み見ようとしてみたが駄目だった。
こうなったら、と僕は開き直ることにした。先ほどから嫌がるそぶりも見せないのだ、いつまでもこんな事で悩んでいてもつまらなかった。
そのうち誰かが花火をしようと言い出した。僕らはコンビニにより花火を買い、近くの公園へ移動した。
僕と彼女は線香花火を選び並んで腰を下ろした。火をつけると線香花火は小さな球になり、ぱちぱちと火花が散らしだした。
それもつかの間、すぐに勢いをなくすとそのままぽとんと首を落として消えてしまった。
「終わっちゃったね」
そういって顔をあげて微笑んだ彼女に、僕は安堵をした。やっぱり彼女は僕を嫌がってなかったのだ。
次の線香花火に火をつけると、また彼女は僕の手を握ってきた。僕も彼女の手を握り返し、線香花火を見つめた。
その瞬間、あれ、と僕は思った。妙に彼女の手が冷たいのだ。
彼女を見た。変だった。彼女の鼻はこんな低かっただろうか? 目だって、こんな小さかっただろうか?
「あなたがその気ならね、私にだってやりようがあるのよ」
彼女は低い声で言った。二度と聞きたくないと思った声だった。
僕は周りを見た。誰も居なかった。シュウサクもミツフサも女の子たちもどこかへ消えていた。それに、この鼻につく腐葉土の臭い、枯れ葉の擦れる音、ここはあの時の……
「私にだってね、やりようがあるのよ」
そう繰り返す彼女の顔は、あいつの……
僕はベッドから飛び起きた。頬をつたった汗がシーツにシミを作った。
嫌な夢を見た。僕なんかをシュウサクが誘うから、つい思い出してしまったのだろう。
僕は荒い息のまましばらく床を眺め、洗面所へいき張り付いたシャツを洗濯機に投げ入れ、長いシャワーをあびた。
飲み会は夢のようにはいかなかった。やってきた女の子たちも特別可愛くも無ければ、特別魅力的でもなかった。なんの変哲もない普通の女の子たちだ。しかし文句をいう筋合いはなかった。僕らだって特別カッコよくはないのだ。
僕らは酔ってはしゃいで、最後は花火で締めくくった。夜中の公園で騒いでいると、近くに住んでいるであろうおじいさんに怒られてしまった。
花火が終わると僕らはそのまま解散した。期待していたことなどは起こらなかったが、総評としては二十代最後の夏を飾るのに相応しかったのではなかろうか。
……何より、今日隣で花火をしたあの子が夢のようにあいつに変わらなかったのが良かった。
昨年の夏、当時付き合っていた彼女に浮気がばれてしまい、僕の部屋で喧嘩になった。詰め寄られたおり、僕は彼女を軽く諫めたつもりだった。しかし彼女はそのまま倒れ、糞尿と悪臭をまき散らして動かなくなった。
僕は彼女を公園の森の中に埋めた。幸い、まだ誰にも見つかっていない。このまま彼女には隠れていて欲しいと願う。




