異世界最強ストーカー ~勇者ちゃんたちにキモいからとパーティーを追放されたけど、今日もみんなのためにこっそりサポートして夜はあらかじめベッドに入ってあたためておくよ
「ちょっといい?」
朝、宿屋の食堂で楽しく食べていると、勇者のユウちゃんが口を開いた。
くりっとした目が俺をじっと見ている。
今日もかわいい。
「なに?」
「デュフフ、あなた、このパーティー抜けてくれないかな?」
「パーティーを抜ける……」
どういう意味だろう。
「それは、なんていうか、いやらしい話?」
「このパーティーからはずれろって言ってんだよ」
魔法使いのマホちゃんが、行儀悪く足を組んだ。
「僕が、このパーティーからはずれる……? いなくなるってこと……?」
「そうだよ!」
マホちゃんが大きな声を出した。
「マホちゃん、他のお客さんもいるんだから、静かに」
「てめえ……」
とマホちゃんが俺をにらむ。
「常識人ぶってんじゃねえぞ変態が」
「マホちゃん、言葉遣いが」
「黙れ! ちゃんづけやめろ!」
「マホ……」
僧侶のソウちゃんが静かに言うと、マホちゃんは舌打ちしてそっぽを向いた。
「デュフフさん……」
ソウちゃんが僕を見据える。
いつもおだやかで、心がいやされる。
「なんだい?」
「わたしたちも、これまでがまんしてきました……。あなたが、ユウの父に信頼されている、ということでわたしたちは、現状を受け入れてきたのです……。しかし、これ以上、わたしたちはあなたと旅をすることができません……」
「ど、どうして」
ソウちゃんがこんなことを言うということは、三人の総意ということはまちがいない。
「てめえがユウのベッドに入り込んだりするからだろうが!」
「その言い方は誤解を招くよ、マホちゃん。まるで寝ているユウちゃんを襲っているみたいじゃないか。僕はあくまで、ユウちゃんが寝る前に、おふとんをあたためているだけだよ。ユウちゃんの眠りをさまたげるどころか、促進しようとしているんだ」
「丸焼きにするぞ!」
マホちゃんは、僕をにらみつける。
ユウちゃんも、ソウちゃんも、笑顔はない。
「……本当に、僕を、このパーティーから追放するんだね?」
「そうだよ」
「ユウちゃん」
「……はい」
「そうか。わかった」
僕は、席を立った。
「素直だな」
「僕はいつだって素直だよ」
「たしかにな」
マホちゃんが皮肉っぽく笑った。
「最後に言わせてもらう」
「……なに?」
ユウちゃんは僕を見た。
「僕たちはずっと一緒だよ」
「どの流れで言ってんだ、消えろ!」
マホちゃんが店中に響きわたる声で叫んだ。
宿屋を出て、ゆっくり歩いた。
何度も何度も振り返った。
でも、ユウちゃんが追いかけてくることはなかった。
どうしてこんなことになったのか。
もっと愛情を示すべきだったのだろうか。
三日前、いそがしくてベッドの中に入ってあたためることができなかった。それが原因なのだろうか。
ユウちゃんを不安にさせてしまったのだろうか。
だとしたら謝らなければ。
僕はとびあがって、近くの家の、屋根の下にはりついた。
そこでしばらく待っていた。
「もう、さすがにどっか行ったわよね」
マホちゃんが宿屋から出てきたのは、もう、お昼ごはんの時間だった。
「宿屋の方に、周辺を見てまわっていただきました……」
とソウちゃん。
「そんなに慎重ならなくてもいいんじゃない?」
ユウちゃんが言う。
「なに言ってんの。あいつだったら、どこから出てくるかわかんないんだから。さ、やっとちゃんとした冒険が始まるわ」
「でも、ひとり減るとちょっと不安かな」
「はあ!? あんなやつ、パーティーからじゃなくて、この世からいなくなってほしいんですけど!?」
「命は大切なものです……。あるべき場所で、生きていてくれればそれで……」
「……まあ、死ななくてもいいけど。あたしらの前に出てこなきゃね」
ユウちゃんたちが歩いていくのを、僕は、建物の陰から陰へととび移って追いかけた。
宿屋の人に見てもらったくらいで僕を見つけれるつもりなんて、やっぱりかわいいな。そんなことできるわけないのに。
そしてユウちゃんは優しい。僕のことを考えてくれている。
ソウちゃんは人間全員に優しいし、マホちゃんも本当は僕のことを考えていてくれている。僕にはわかる。
みんな僕のことが大好きなのに、素直になれないんだ。
でもしょうがない。女の子にはそういう時期もある。
僕はそれを理解しよう。
わかり合おう。
三人は、町を出ると平原を歩いていた。
「見晴らしがいいほうが、あいつが追いかけてきてもすぐわかるじゃん」
とマホちゃん。
そのとおりだ。
そのため僕は、三人からかなり離れた場所から動けなくなった。
仕方ない。
僕は両手でそれぞれ丸をつくって、目にあてた。
そこで念じながら、叫ぶ。
「ストーキングアイ!」
すると離れた場所にいる彼女たちの姿がまるで目の前にいるように見えた。
楽しげに話している。
僕は片手を離して、耳にあてる。
「ストーキングイヤー!」
すると会話も聞こえてきた。
「今日はどうする?」
「この先の森で、魔物と戦ってみよう。魔法を使ってくるトカゲがいるんだって」
「その魔物は、爪が貴重で、薬になるそうです……」
「なるほどね。装備も買えるし」
「町の人が、薬の材料が少なくて困ってるって言ってたの」
「さすがユウ! あたし、お金のことばっかり考えてたよ」
「そんなことないよ、マホがお金のこと考えててくれるから、私、助かってるし」
僕は涙を流しながら、十分距離をとって歩いていた。
なんと優しい女の子だろう。
そして、マホちゃんも、ユウちゃんがいい子ぶっているなんてすこしも思わない。ちょっとがさつなところがあるけれど、それすら愛しい。
ソウちゃんは静かに歩いている。
しかし、その体はすこし震え、顔が赤らんでいることを僕は知っている。
ユウちゃんのいい子っぷりを見て、打ち震えているのだ。その意味で、彼女は僕側の人間だと言えるだろう。
「……」
ソウちゃんが振り返った。
思わず僕は地面にふせる。見える距離ではない。それに僕は左右に高速でぶれているから、他の人には謎の土ぼこりがうっすらと上がっているだけにしか見えていないはずだ。
理由はわからないが、僕たちはつながっているらしい。
そう思ったら、ソウちゃんが顔をしかめた。
「ソウ? どうしたの?」
ユウちゃんが気づいた。
「いえ……。ちょっと、悪寒が……」
「だいじょうぶ?」
「ええ、もうおさまりました……」
カゼは、ひきはじめが肝心だ。
気をつけてもらいたい。
森に入ると隠れる場所が増えたので、僕は木にのぼって、木から木へとび移って移動した。木を揺らさないようにとぶのが重要だ。
「出たよ!」
水場の近くだった。
肌が黒ずんだ青のうろこで覆われた、犬くらいの大きさのトカゲが現れた。
ユウちゃんが剣を抜き、マホちゃんが杖をかまえる。
ソウちゃんは手を組んだ。すると、三人の体をうっすらと光が覆った。
「ありがとう、ソウ」
「気をつけてください……」
攻撃を全体的にやわらげる魔法だ。
トカゲは動きを止めてじっと見ていたが、口を大きく開けた。
「危ない!」
ぼっ! と人の頭くらいの大きさの火球が飛び出した。
マホちゃんは風魔法で火球の軌道を変えようとする。しかし弱いし、遅い。
同時に、ユウちゃんがマホちゃんの前に立ち、剣を振っていた。あの剣は魔力を帯びていて、火球を弾き飛ばす力がある。
しかしまだユウちゃんには使いこなせない。
そこで僕の出番だった。
(ストーキングブレス!)
すでにトカゲの火球に備えて、彼らの横に位置取りしていた僕は、矢のように息を吹いていた。
火球は方向を変え、近くの木にあたった。
燃え広がることはなく、ちりちりと焦げただけだ。
すぐ三人はトカゲから距離をとる。
「ナイスユウ!」
「マホのおかげ!」
二人はねぎらいながら、火球を撃たれたとしても平気な位置をさぐりはじめる。
そうそう、そのトカゲは距離感が大切だ。
僕は、挟み撃ちするように反対側から現れたトカゲを仕留め、食べながら三人の様子を見ていた。
冷静になればやれる子たちだ。トカゲを仕留めると、爪を取り外した。
そして。
「このトカゲ、食べられるんだって」
ユウちゃんが言った。
「ええー? 毒とかないの?」
「毒はなく、火を通せば、よい食料にもなるそうです……」
とソウちゃん。
そうそう、おいしいのだ。慣れてくるとそのまま食べられるけれど、慣れるまで大変だからユウちゃんたちは火を通そうね。
「これから、木の実とか、動物だけじゃなくて、魔物も食べて行かなきゃでしょう?」
「そうだけど」
マホちゃんはトカゲを見下ろす。
こう見えて、一番繊細なのはマホちゃんなのだ。僕は、出ていってやさしく頭をなでてあげたい気持ちを必死にこらえた。
「……わかったよ。食べてみよう」
「うん」
「はあー、おいしかった」
マホちゃんは骨を最後までしゃぶっていた。
「ね。くさみもないし」
「こんなのばっかりならいいんだけどなー」
「すこし、肉はとっておきましょう」
ソウちゃんは肉をつるつるした袋に入れた。
身支度を始めたので、僕はこっそり、三人の食べ残した骨をしゃぶった。こうすると、三人の健康状態がわかる。ユウちゃんは平気そうだ。マホちゃんは、平気そうに見えたけれどまだ不安感が強い。そうちゃんはいつもどおりだ。
これをすると嫌がるのだけれど、重要な情報収集だ。むしろ嫌がる方がおかしい。
そうやって、トカゲを二頭狩った。
一頭は、僕がなにもしなくても狩れていた。すばらしい上達だ。
肉も、夕食にとっておく余裕ができていた。
今日は野営をするらしい。薄暗くなってきた道を歩きながら、どこで寝るか相談を始めていた。
そのとき、悲鳴が聞こえた。
「なに」
「あっち」
三人は荷物をまとめて走り出した。
また悲鳴が聞こえる。
「どこですか!」
ユウちゃん叫ぶと、助けて! という声がした。
走っていった先にいたのは髪を振り乱した女性だった。乱れた衣服を前でおさえている。
「助けて! 襲われたの!」
「なに!」
マホちゃんは詠唱を始める。
ユウちゃんは剣をかまえて、ソウちゃんはまた光をたたえた。
ふっと静かになる。
離れていく、足音のようなものが聞こえた。
木々の葉がこすれる音が聞こえた。水の流れる音もする。
「逃げたか」
マホちゃんが言った。
「本当にありがとうございました」
ユウちゃんたちは、女性を連れて、座るのにちょうどいい岩で休んでいた。
女性は肩から布をかけられている。
「いいのいいの、困ったときはおたがいさまよ。それより、男に追いかけられたんだって?」
「はい。町に行く予定でこの森を通っていたら、突然男たちが」
「ひとりで?」
「はい」
「ばかねえ、こんなに時間にあぶないわよ。魔物だっているのに」
「マホちゃん」
「あ、ごめんね」
「いいえ」
女性は首を振った。
「でも夜に動くのはあぶないから、今日はこのへんで夜明かしするしかないわね」
「そうですね」
「さっきのやつらがもどってくるかな」
「だいじょうぶでしょ。まあ、こっちは勇者だって言ってやればいいし」
「マホ。そんな」
「勇者様なんですか?」
女性は言った。
「まあ、そうです」
ユウちゃんは奥ゆかしい。
「勇者様って、たしかこの前、翼竜を撃退したって聞きました! 不動の勇者!」
「ええ、はい、その勇者です……」
「すごい! そんな人に会えるなんて!」
「そうよー、みるみる結果を出す、すごーいパーティーなんだからー」
「マホ、あんまり言わないで」
「いいじゃない。それとも、事実じゃないの?」
「それは……。でも、あんまり覚えてないから……」
「ユウは天才だもんね」
「そんなことない!」
「もうさあ、ユウもちょっとくらい、大きい態度にしな。ちゃんと、やったことに応じた態度とらないと」
「そうです!」
女性も同調する。
「そういう態度をとってくれていたほうが、わたしたちも安心して勇者様を頼れます!」
「そういうものかな……」
「はい!」
「じゃあ、ご飯食べとく?」
マホちゃんは言った。
「さっきのお肉がまだあるし。一緒に食べよ」
「いえ、わたしは……」
「そんなこと言わないで。別に、お腹いっぱいになるまであげるわけじゃないし」
マホちゃんが言ったとき、女性のお腹が鳴った。
「あっ……」
「ほら、食べよう食べよう」
「はい、あの、じゃあ……」
女性は、懐から小さな布袋を取り出した。
「なにそれ」
「これは、塩と、ちょっと香りのする調味料です」
「へえ」
マホちゃんが袋を受け取って、においをかいだ。
「なんか、ちょっとぴりっとするにおい」
「はい。食欲を出すそうで」
「ふうん」
マホちゃんは、残っていた肉にちょっとだけかけて、食べてみる。
「! うまい!」
「よかった」
「じゃあ、わたしも……」
ソウちゃんが食べると、目を大きく開けた。
「おいしい……」
「ユウも食べなよ!」
「もしかして、これ、貴重なもの?」
「いいえ。わたしのすんでいるところでは、ありふれたものです。塩に、植物の種を砕いて混ぜるだけですよ」
「へえ。まあ、塩も、貴重だったり、ありふれてたりするもんね」
「どうぞ」
「わーい」
四人は、トカゲの肉を楽しそうに食べていた。
食べ終わると、なんだか眠そうな顔をしている。
と思ったらすぐ、ソウちゃんが。次にマホちゃんが。
最後に、ユウちゃんが、近くの木にもたれるようにして、眠ってしまった。
女性はそれを見て、三人の様子を見ていた。
顔に耳を近づけて呼吸音を聞いたり、手をさわったり、顔をさわってなにかを確認しているようだった。
そしてうなずき、なにかを取り出した。
ぼんやりと光っているそれは、ひもの先にくくりつけられた石のようだ。逆の端を持った女性は、くるくると回転させた。そうすると空中に円が描かれたようになり、暗闇でも目立った。
足音が近づいてくる。
四人だ。
黒い服を着て、頭に布をかぶっていた。目だけがギラギラ光っている。
「どうだ」
「寝たよ」
「よくやった」
やってきたのは男女のようだ。
男が三人、女がひとり。
ユウちゃんたちが助けた女性と合わせると五人組ということになる。
「これが勇者か」
「ずいぶんあっさり寝たよ。人が良さそうだわ」
女性は言った。
「そうか。じゃあ、とっとと身ぐるみはいじまおう」
「本当に、人間の方は売らなくていいのかい? 美人ってほどじゃないが、幼い顔してるし、その筋のおっさんたちはよだれ垂らして欲しがりそうだけど」
「絶対にやめろ」
男は強い口調で言った。
「勇者の道具を盗むのはいいが、本人を追い込むとわけのわからない力を目覚めさせかねない。勇者ってのは、いまの強さだけを見て判断すると、とんでもない目にあう。物だけ盗んどけ」
「はいはい」
(ストーキングボイス!!)
「そこまでわかっていて、どうして盗むのかな」
僕がユウちゃんの声で言うと、彼らは反射的にユウちゃんから離れた。
「……おい、寝たんじゃなかったのか」
「寝たわよ!」
「寝たからといって、勇者がなにもできないと思ったらおおまちがい」
僕ユウちゃんが言った。
いま、僕とユウちゃんはひとつになっている。
いま、僕とユウちゃんはひとつになっている。
大切なことは何度でもくりかえしていい。
「そのまま帰ったら許すから。もう、どこか行って」
「……本当に寝てるのか?」
男は、規則正しく上下するユウちゃんの体を見ていた。
「どういう仕組みだ」
「おそらく、自動的に発動する術式を体に描いているのでは?」
他の男が言った。
「死んだ瞬間発動する術式を、応用しているのかも」
「なるほど。それで、こういう事態を避けるのか」
「そう思う?」
「ああ」
男は短刀を取り出した。
「本当になにか特別なことをしてるっていうんなら、なにかしてみろ」
(ストーキングブレス!!)
鋭く吹いた息を手に当てると、男は短刀を落とした。
「なっ」
男たちは身構える。
「帰りなさい」
「おもしろい」
別の男がなにかしようとしたので、おもしろくない僕は、彼の両手にストーキングブレスを連打した。
「ぐっ……」
その男は両腕を抱えるようにしてうめく。
「帰りなさい」
「なるほど。さすが勇者、というわけか。その若さであの翼竜を倒したという話も、まんざら冗談じゃないようだな」
「帰りなさい」
「だが、体は動かないようだな。おれたちも、最低限の」
「しつこいな」
僕はその男の頭に強めのストーキングブレスを吹き付け、失神させた。
「まさか」
倒れた男を、別の男が抱え、ささっと背負った。
「リーダーを一撃で……」
「信じられない……」
「不動の勇者……。本当の話だったのか……」
「退却だ!」
彼らの足音が遠ざかっていった。
どうやらもどってくるつもりはないようだ。
僕は、ユウちゃんたちの前におりた。
危害は加えられていないようだ。
ただ、道に近すぎる。また誰か来る可能性もあるということを考えると、あまり快適な寝場所とはいえない。
いったん、三人を裏へ運ぶ。
岩が張り出した場所があったので、その下へ。
土もかわいている。
僕は持っていた布を敷き、その上に三人をならべて寝かせた。
それぞれのお腹を冷やさないように、布をかけていく。
そして僕は、彼女たちの足の下に、自分の体をすべりこませる。
こうすれば、彼女たちは足元からあたたかだ。
足とお腹を守っておけば、健康は守られるといっていいだろう。
僕は安心して眠りについた。
叫び声で目が覚めた。
「てめえ、なにやってんだこら!」
マホちゃんが怒鳴り、それに驚いて起きたのが、ユウちゃんとソウちゃんだ。
ふたりとも、僕に気づいて、急いで足をどかして立ち上がった。
「おはよう」
「おはようじゃねえんだよ! なんでお前がここにいるんだ!」
「なんでって、みんなが変なところで居眠りしてるから、安全なところに移してあげたんだよ」
「ふざけんな! キモいんだよ!」
「ふざけてないよ。みんながカゼひいちゃったら大変じゃないか。ねえユウちゃん」
「へっ? あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「礼なんか言ってんじゃねえよ!」
マホちゃんは、地面をダンダンと踏みつけた。
「そうだ、あのひとはどうした。おいデュフフ! ここに女の人がいただろうが!」
「ああ、帰っちゃったよ。ありがとうって伝えてって」
「なにい!?」
「すごく喜んでたよ。不動の勇者さんたちありがとうって」
「そうかよ! そりゃどうもな!」
マホちゃんは素直にお礼を言った。
いい子なのだ。
「じゃあ、今日はどこに行こうか」
「ついて来ようとしてんじゃねえよ! 消えろ!」
「わかったよ」
僕は、しっしっ、と手をふるマホちゃんたちに見送られて、山道を歩いていった。
そしてストーキングストーキングで木と木の間をとび、もどった。
「ったく。油断もスキもねえな」
「でも、私たち、昨日はうっかり寝ちゃったんだね。気をつけないとね」
「まあな」
「それに、デュフフにも、もっとちゃんとお礼を言わなきゃいけなかったかな」
「はあ?」
「だって、ちゃんとしてくれたのはたしかだから」
ユウちゃんの言葉に、僕は全身を震わせて感動した。
「……、……、いや、おかしいだろ」
マホちゃんは言った。
おしい。もうすこしでパーティーにもどれそうだったのに。
「あいつは、絶対につけあがるからな。あいつの前でそんなこと絶対言うなよ。もし感謝しても、それを千倍に薄めろ。いいな」
「……うん」
ユウちゃんはちょっと不満そうに言った。すばらしい不満顔だ。
「じゃ、準備しようぜ。それにしてもあの人だいじょうぶだったのか?」
「きっと、明るくなったら平気だよ」
「まさか、デュフフが襲ったんじゃねえだろうな」
「そんなこと言っちゃだめだよ」
「わかってるって。あいつにはそんな度胸ねえしな!」
マホちゃんがケラケラと笑う。
「それにしても、不動の勇者って、広まってるのかなあ。なんなんだろう」
ユウちゃんが首をかしげた。
「ま、いいじゃん。そういうのがあったほうがかっこいいし」
「うーん」
「気にしない……」
ソウちゃんが言うと、ユウちゃんがうなずいた。
「そうだね。どうにもならないことは、気にしない、だったね」
「そう……」
「じゃ、行こうぜ」
三人は準備を終え、歩きだした。
僕はそんな彼女たちを、じっくりとストーキングしていくのだった。