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プロローグ

 お空よりもこい青だなぁ。

 ジェナスの瞳を初めて見た時、シャルアはそう思った。

 二人がお互いを知ったのは、シャルア六歳、ジェナス十歳の春。



 シャルアは生まれてから六年間、マラカの街で暮らしていた。大きな街の部類に入るが、街のすぐそばには森や川があったりで、自然も多い所だ。

 幼いシャルアにはそういった地形のことはわからないが、とにかく家族三人で幸せに暮らしていた。

 しかし、春になる少し前に両親が事故で亡くなってしまう。たまたま留守番をしていて無事だったシャルアは、母方の祖父母に引き取られることになった。そして、ここウットの村へ移って来たのだ。

 最初にびっくりしたのが、マラカの街とは比べるべくもない程に人が少ないこと。

 街では人がいない所を見付けるのが難しいのに、ウットの村では畑が延々と広がっていたり、森や山しか視界に入らない場所がたくさんあるのだ。

 大人も少ないが、子どもはさらに少ない。この小さな村にいる子どもと言えば、生まれて数ヶ月の赤ん坊が数人か、シャルアよりずっと年の離れたお兄さんお姉さんばかり。一番近い歳の子どもは、ジェナスだけだった。

 街では男の子の友達があまりいなかったシャルアは緊張していたが、ジェナスと初めて会った時に何よりもまずその瞳に強く惹き付けられる。

 自分に向けられた彼の濃い青色の瞳に、シャルアはとてもきれいな宝物の石を見付けた気持ちだった。

 特に意識はしなかったが、これまでにも青い瞳の人は周りにたくさんいたように思う。シャルア自身の瞳も青い。少し緑がかっているが、大きく分ければ青。

 だが、ジェナスの瞳の色は別格だ。他の人とは全然違う、特別な色。

 なぜそう思ってしまうのか、シャルアにもわからない。海というものは絵本でしか見たことがないが、本物はこんな色なのだろうか。少なくとも、今まで見たどの空よりも深い青だ。

 もっと幼い頃に数回来たことはあるらしいが、まったく覚えていない村。大好きな両親が突然いなくなり、ほぼ初めてに近い場所へ来て不安だらけだったシャルア。

 そんな中で、不思議な程その青さに安らぎを感じていた。

 村へ来てわからないことも多いだろうから面倒を見てあげな、と周囲の大人達に言われたジェナス。突然子守を押しつけられたようなものだが、ジェナスは文句を言わない。

 小さな女の子が村へ来る、と聞いた時点でそうなるだろうな、とわかっていたからだ。

 他のお兄さんお姉さん達は大人と呼ぶにはまだ早いものの、村の働き手として忙しい。ジェナスも両親の手伝いをしているが、時間の余裕は自分が一番あるし、余程手が足りない場合でもない限り、子守を優先させることになるだろう、と考えていたのだ。

 それに、今まで発揮する場がなかっただけで、ジェナスは元々面倒見がいい性格だったらしい。油断すると不安に押しつぶされそうになるシャルアを気遣い、いつもそばにいて一緒に遊んだ。

 二人がよく似た明るい茶色の髪だったこともあって、一緒にいると兄妹みたいだ、と周りが微笑む。一人っ子だったシャルアは、村人達がそう言わなくても「お兄ちゃんができたみたいだ」と思っていた。

 シャルアは聞いたことはないが、同じく一人っ子のジェナスも似たようなことを思っていたのではないだろうか。

 ちょっとした言い合いになることはたまにあったが、最後はいつもジェナスが折れてくれた。たまにシャルアが丸め込まれたりもしたが、どちらにしても仲直りはすぐだ。

 シャルアが起きている間は、祖父母よりジェナスと一緒にいる時間の方が長かったかも知れない。

 何か問題が起こるでもなく、ジェナスと楽しく過ごしているうちに、気付けばシャルアがウットの村へ来ておよそ六年の年月が流れていた。

 そろそろ思春期の入口に立ったシャルア。

 当たり前のように村での日々を過ごしていたが「ジェナスは自分のことをどう思っているのだろう」と気になってくる。

 ジェナスは両親を手伝って畑仕事をする時間が長くなり、昔のようにずっと遊んでいられなくなった。しかし、こちらに向けてくれる笑顔は変わらない。

 優しくて大好きな笑顔。

 ただそれが、かわいい妹のように思っている女の子に向けるものなのか、別の感情が含まれたものなのか。

 何度見ても、シャルアにはわからなかった。ようやく十二歳になったシャルアには、それを尋ねる勇気もない。

 小さい時は素直に「ジェナス、大好き」と言っていたし、村の誰もが「シャルアは本当にジェナスのことが好きだねぇ」と笑っていた。

 今もシャルアがジェナスを好きだとわかっていても、その「好き」の意味が変わってきたことに、周りは気付いているだろうか。

 そうこうしているうちに、シャルアの周囲に大きな変化が起きる。

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