第七話 旅立ち 二人と一本
ーーガレリア爺さんの死から数日後。
「じゃあ親父、母さん。あんまり無理するなよ」
「おうよ!俺らの事は気にせず、お前はお前の人生を楽しめ!」
「風邪に気をつけるのよ、レイちゃん」
「……またそのうち帰ってくるよ」
そうして俺は十六年間過ごしたボロス村を旅立った。
ーー
傷が癒えて退院した俺は、サビた刀、自称龍神刀クリカラーンを持って家へと帰った。その数日後、無事に親父と母さんは退院したが、親父の魔力が戻る事はなかった。
体自体は元気なようだが、魔力がほとんど使えない状態なのだ。それでも無駄にパワフルなところがあるから大丈夫みたいだが。
曰く、俺の回復魔法は人を助けるためにある、これからは他のやり方でみんなを助けていくさ、とのこと。
「我が親ながら根性あるなあ」
「さっすがは村長だな!」
『そうじゃのう〜』
そしてどもう一人、赤い髪の毛がトレードマークの男、アーノン=ドイがいるのかというと。
『俺も人間社会が見てみたいんだよ!頼むよレイ〜、下っ端仕事でも何でもするからさ〜』
最初は断っていたのだが、非常にしつこいから渋々付いてくることを認めた。まあ元々アーノンとはガキの頃からの仲だし、今思えば俺が能力がうまく使えず周りからハブられてたときも何かと庇ってくれてた。
まあなんだ、悪くないやつだからな。
「にしても急に旅立つ事になったけど準備は大丈夫だったのか?」
「うん?そこは何とかね。着替えとお金があれば何とかなるかなって。腹が減ったら適当に魔獣でも獣でも狩ればいいし。それに街に着いたらとりあえず冒険者登録してお金を稼ぐんだろ?」
「まあそうなんだが……」
アーノンの楽観さにため息が出る。旅に出るっていうのは人間社会を見て回るのが基本目的なので、お金を稼ぐだけじゃなく、見た目や格好も溶け込めるように揃えていく必要がある。その辺で魔獣を買って生で食うのはあまりしたくない。
そもそも俺が人間社会に行きたい一番の理由は、ボロス村……竜人族の食文化が体に全くと言っていいほど合わないからだ。
野菜はほぼ生で味付けなし、肉は生でか軽く炙る程度でこれまた味付けなし。
しかもその二品しかメニューが無く、ご飯やパン、果実やデザートといった甘味などもないのだ。
いや、ほんと野生的過ぎて子どもの頃はノイローゼになりかけた。
「いいか、アーノン。俺が人間の街に着いたらまずは美味い料理を食う。そのために金は用意してある」
「さっすがレイ!重力熊の生肉とか?」
「馬鹿野郎、『料理』って言っただろ!村で食ってたのはほとんど料理じゃねえ」
「……ふーん、よくわかんねえけど食えればいっか」
まったく、先が思いやられる。
『ところでじゃ主人よ。いや、マスターの方が良いかの?それともご主人様?お兄ちゃん?』
「主人でいい。何だ」
『私のことに関する回想はいらぬのか?』
うるせえ刀だな。
ーー
退院後、錆びた刀である龍神刀クリカラーンを持ち帰り、その性能を試してみた。
正直脆すぎる。切れ味を試す為に近場の森に生えていた竹のような木を切ってみたが、普通に弾かれた。『痛いのじゃ!刃こぼれしておるのじゃ!』などとクリカラーンは泣き言をこぼし、砥石で研ごうにも、『そんな安もんじゃお肌が荒れるだけなのじゃ!』と文句を言う。
とりあえず二回はその辺の地面に差し込んで一日放置しておいた。離れていてもある程度テレパシーは届くみたいで、森に置いてきたのに俺の家までシクシクと泣く声が聞こえてきていた。
じゃあ何が切れるのか、と聞いたら『今のレベルとレアリティじゃと大根や人参くらいじゃの』
とりあえず大根に突き刺して台所に放置しておいた。大根の汁がかゆいのじゃ〜!っとうるさかったがそれでも無視した。
「俺の心臓を突き刺せるくらいだから、魔法を付与すれば切れ味は上昇するんじゃないのか?」
『お主の兄が使用した時は、雷魔法の刃で心臓まで切り口を開け、そこに私を差し込んだのじゃ。つまり今の私には武器としての機能はほぼないのう』
「レベルとレアリティって何だ?この世界にはそういった価値観はないはずだ。武器の等級だったりランクを表すような言葉はあるが、そういったゲームのようなレベルとレアリティなんていうのはない」
村にある書籍は一通り目を通しており、この世界での常識もかなり頭に叩き込んである。
『お、ついに気がついたのよな!さすがは我が主人である。異世界の知識は伊達じゃないってことかのう』
「俺が転生してきたことは黙ってろ。こういうのはよく分からん存在に目をつけられて面倒に巻き込まれやすいからな」
『慎重派じゃな〜では、次ページではクリカラーンちゃんの龍神刀の解説が始まるぞい!』
……そろそろ湖にでも放り投げてやろうか。