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第五話 龍の御魂




 そこは真っ黒に荒れ果てた、ただただ黒の風が吹き荒れる空間。



 まさにこの風は、滅びの黒風。

一度ひとたび生命に吹き荒れようものなら、その命をこの世から消え去るまで貪り尽くすだろう。



 まさに伝承の【ーーーーー】と同じだ。

やはり血は争えんということか。たった一滴、されど一滴。漆黒の血が交じり、見初められた者は真っ黒に染め上げられる。



「ふんっ、ぞんざいに扱われたと思うとったら次はこんな化け物の内包世界にぶち込みよって……何考えとるんじゃあの変人は!」



 漆黒の世界に一人、いや、一柱、純白の女がいた。全ての黒を拒絶し、白へと塗り潰す。それはもはや暴虐の白、あくまでも荒々しく全てを白へと変えてしまう。


 その女、腰に下げる刀を一太刀抜き挿しすると、世界が真っ白に染まった。



「ほう、これがこやつの御魂みたまであるか。なんとも面白いのう。この世の御魂ではあるまい」



 漆黒の中央にあったのは、ガラス玉の様な、それでいてふわりと浮かぶもの。御魂。


「おっ、こいつは私とも相性が良さそうだ。ふーん、なんじゃろ、龍と前世で縁でもあったのかのう?ま、隔世遺伝程度には取り込まれることはなさそうじゃし、こやつ、なかなか面白そうだのお」


 御魂に手を触れながら笑みを浮かべる。

この御霊の持ち主は類稀なる経験をしている。だからこそその経験を自分も味わってみたいと、高次元存在でありながら俗世的なことを考えてしまう。まあ、それが【最後】である彼女の特徴でもあるのだが。



「さーてと、そろそろ起きるぞーい」



 女の能天気な声が御魂へと吸い込まれていった。



 彼女を知る者はこの世に一人もいない。

しかし、彼女を見た者は口を揃えて言うだろう。


 全てを飲み込む【白】ーーと。



 その白は、全てを飲み込む、圧倒的な滅びの白、であった。


ーーー



……おい、しっかりしろ!レイ!!



「……ん…」


「あ!目が覚めた!」


 そこは先程までとは違う、カモフラージュ用の竜神殿だった。俺は祭殿に横たわるように倒れていたらしい。


「アーノンか……っつ!」


「あんまり無理するな。よく分からないけど、そこの錆びた剣が胸に突き刺さってたんだからな。まあ幸い、切れ味が悪いからか少ししか刺さってなかったから、竜人パワーでなんとか耐えたみたいだけど」


 胸元に視線を向けると包帯で上半身が覆われていた。


「……親父達は?」


「大丈夫、おじさんとおばさんは命に別状は無いってさ。でもおじさんの方はかなり魔力が無くなってるらしくって、もうほとんど魔法が使えないらしい……」


「魔力が?」


「うん。なんでも、魔核がごっそり削られてるって」


 魔核、魔力を錬成する器官ともいわれ、心臓の近くに存在する。魂が宿る場所ともされ、魔力の源は魂や生命力だろうという研究の根拠でもある。


 ちなみにこれが破壊されたら即死だ。


「魔法が使えないレベルまで魔核が壊されると普通は死ぬ筈だが……親父が頑丈で良かった」


「ほんとだよな。さすがは村長っ!」


「母さんは?」


「おばさんも何とか。突き刺さってた剣が摩訶不思議でさ、抜いたら塵になって消えたんだってさ。傷にも自動回復魔法が付与されていて、たぶん村長が事前にかけたんだろうって」


 たしかに親父は回復魔法が得意だ。筋骨隆々のヒゲ親父なのだが、身体強化や治癒が得意で、だからこそあり得ないくらいに接近戦を好む。防具や部分竜化などいらん、というのが親父の口癖だ。


 ……竜化は龍人だからできないというのが本音だようが。


「そうか……よかった。それで……」


「……うん、お爺さんは……」


 やはりそうなのか。

あの時最後に目にした光景は、カムイが祖父の首を持って俺を見下していた。


 そしてそのまま刀で心臓を突き刺されたのだ。


「でも!村の医者がくっつけてくれたよ……最後の自然治癒力でほとんど分からないくらいに首がくっついたって」


「……ふ、最後まであの爺さんらしいな。俺にはよく『心臓が動く限り、決して諦めるな』って言ってたからな」


 首だけなんて格好悪い、って思ったんだろうな。


 ……まだ、何にも恩返しなんてできてねえってのに。


「とりあえずもう少し休んだ方がいいよ。あ、暇なら突き刺さってた刀見る?すっごい錆びてて汚いんだけど、レイから少し離れると急に重くなって持ち運べなくなるんだ」


「なんだその謎設定は」


 もしや呪われた武器とかじゃないだろうな。


「自分を殺しかけた刀なんて不気味だけど、一応ね。じゃあ俺は医者に話してくる」


「ああ、ありがとうな」


「……おう!」


 にかりと笑ったアーノンは病室を出て行った。

優しい奴だ、元村長として村のみんなから慕われていた俺の祖父の遺体も見たのだろう。

かなりキツイ状態の中、こうやって見舞いをしてくれるなんてな。


 ……あとで何か礼でもしないとな。


 俺の中の大人な部分が訴えていた。


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