第四話 家族
鮮血が飛び散る。
それは薄く灯された地下神殿の、真の龍神をまつっている祭殿を真っ赤に染め上げた。
「……それが……お主の選択か……」
「そうですよ、ガレリア爺ちゃん」
「ならば……文句は言わん。ーーー『汝に覇龍の導きがあらんことを』」
「……さようなら」
「カムイ兄さん!!」
ピタリと手を止める。その手は黄金の鎧の様な、龍の鱗で覆われており、部分的に龍化していた。
「思ってたよりも早かったね」
「……ご丁寧にヒントをばら撒いてくれやがったからな。おい、爺さんから離れろ」
「それは難しい話だね。このまま腕を抜けば祖父は死ぬ。失血死かな。それじゃ意味ないのさ」
「回復魔法の基本くらいは習得済みだ。それに龍人である俺らの爺さんは穴が空いたくらいじゃすぐには死なない」
全身へと身体強化、周囲に冷気を纏わせてカムイへと攻撃の準備を整える。少し手荒でも問題ない。爺さんは俺達に修行をつけてくれた時、一度も体力が減った素振りを見せたことがない。
「さあそれはどうかな……あと、こっちにばかり集中し過ぎだよ?父さんと母さんの事も見てあげないと」
「っ!?どういう……あれは…!!」
カムイの指から雷光が走ると祭壇の灯火が全て点火。祭壇には龍神の巨像が飾られており、その龍神蔵の口元に、全身から血を流す両親が刀で縫い止められていた。
「ほら、父さんは一応龍人だからまだ大丈夫かもしれないけど、母さんは半竜人だろ?このままじゃすぐ死ぬよ」
「くそっ……!」
龍眼ではある程度、信頼関係のある人の状態を把握する事ができる。特に種族が近いほどそれは正確だ。父さんはたしかに魔力は枯渇しかかっているが、命に別状はない。だが母さんは竜人と人族のハーフのため、耐久力はそこまで高くない。かなりのダメージでかなり危険な状態だ。
カムイから注意を逸らさず、祭壇から母さんを回収。腹に刀が突き刺さっているため、それを一気には抜かず、回復魔法で傷を治癒しつつ抜いていく。
出血はすぐに治まった。あとは生命力を補助してやれば何とかなるだろう。
「やっぱり優しいよ、お前は。それでは全てを守り切る事などできない」
「にい……さん?」
目の前には、祖父の首を持った兄が、血塗れの顔で見下ろしていた。
その龍眼には家族を手にかけた事への罪悪感も、祖父が死んだことの悲しみも、哀れみも何もなかった。
俺は兄さんの持っていた錆びた刀によって心臓を貫かれていた。
ーー兄さんが、俺に対して怒りを覚えている。
目を合わせたその瞬間、なぜか本能的に気づいたのだった。