第二十九話 アーティファクトハンター
「先客がいるとは聞いてねぇぞ」
「……誰だお前」
アーティファクトである水晶を取り外し、カプセルの解除を行おうとした時。
見知らぬ男が俺のことを睨みつけていた。
目つきは鋭く、赤毛まじりの黒髪を乱雑に伸ばした男だ。見た目は十代で俺やアーノンと同年代か?
その後ろに隠れるように同行しているのは小さな少女で、十歳前後にしか見えない。
「見たところ魔人ではなさそうだが……人族か」
「んなこたどうでも良い。そのアーティファクトを渡せ」
俺の問いかけに応えることなく、魔力を放ちながら男は祭壇を登ってくる。
「ガスティール、この人、強い」
「ああ。この前の遺跡で見た龍人と同じ気配を感じる。一気に叩くぞ……がっ!?」
ドォッ!!!と、ガスティールと呼ばれた男が、部屋の扉を突き破って外の廊下へと吹き飛ばされる。
「がはっ!てめぇ……っ!」
「どこで見た」
「はぁ!?」
「その龍人をどこで見たって聞いてるんだよ」
身体強化の施された拳がガスティールの腹へと突き刺さる。二度、三度。三度目は氷を纏わせたことによりさらに強度は上昇している。
「離れ……やがれっ!!」
ガスティールの蹴りを避けると、そのまま地面へと着地する。
「ちぃっ、情緒不安定野郎が……!」
軽く口から血を吐いたガスティールはそれを拭うと、手のグローブに魔力を集中させる。
「見たところお前、アーティファクトハンターだろ。そのグローブも女の子が着ているローブもアーティファクトだ。お目当てはこの水晶ってところか?」
「はっ、正解だ。そのアーティファクトはてめぇが思ってるよりも貴重なんだよ。帝王国産のアーティファクトはこの世にほとんどないからなぁ!」
ガスティールが手を振りかざすと魔法陣が現れ、その手には身の丈ほどの太刀が握られていた。この世界では初めて見る、太刀という種類の武器だな。
「このアーティファクトはこの施設の解放に使う。それより、さっきの龍人の話を聞かせてもらうぞ」
「ったく、ゴチャゴチャうるせえやつだ!」
身体強化で高速接近してきたガスティールが太刀を振り抜く。俺はそれを氷魔法で作り出した盾で防ぐと、地面から大量の氷を放つ。
接近戦タイプか。武器の太刀もかなりの業物で、俺の作る魔法系の武器じゃ簡単に壊されてしまう。現に先程のガードした盾は一度攻撃を防いだだけで破壊されている。
「……龍神刀使うか?」
『む、むりむりむり!あんな業物、今の錬成度じゃ一瞬で真っ二つじゃぞ!!』
やはり難しいか。まったく、この龍神刀は古い知識面では参考になることが多いが戦闘面ではてんでダメだ。
錬成した後でさえ、簡単な魔物を斬りつけることが可能になったレベルなのだから。
なら、距離を取りつつ戦うしかないか?
「身体強化……よし。行くぞ」
『凍土の翼』という氷の翼を展開し、機動力を高める。とはいえ、この廊下は一直線で翼では自由に動くことはできない。
本来の目的は距離を取った今の状況を保つためだ。
「散開!!」
翼から氷の羽根型の氷が大量に奴へと降り注ぐ。
廊下を埋め尽くすほどの量だ。
さらに加えてこの空間を全て凍らせていく。
「『空間凍結』」
廊下が全て凍りつき、空気の温度も低下する。
俺は生まれつき氷耐性が高いため平気だが、耐性のない奴にはかなり苦痛だろう。
「くそがっ!」
氷の羽根が消え去ったあと、その中心には鋼のような壁が所々穴をあけて残っていた。
なるほど、鋼鉄系魔法の一種か?土属性の変化版とは聞いたことがあるが。
「舐めたマネしやがって……『十剣羅刹』!」
先程と同じように手を振りかざすと、今度は魔法陣から空中に十本の剣が出現した。それは浮遊し、俺へと狙いを定める。
「『氷花槍十景』」
俺は十種類の形をした槍を作り出し、一気に掃射。さらには凍土の翼やから氷の羽根を散開し、奴の攻撃の隙を作らせない。
「はっ、雑魚がぁっ!!」
「なっ!?」
『まずい!あの武器は全てアーティファクト……!』
眩い光を放った様々な剣と、氷の槍がぶつかり合い、廊下に衝撃が弾けた。