第二十六話 『今度こそ錬成じゃ!』
プスリ、と。
「あ………」
アイリスの首筋に銀色の針が突き刺さっていた。
「何とか間に合った……大丈夫?龍人のお兄さん」
「……少しふらつくが、全部は吸われてないから大丈夫だ。身体強化しとけば何とかなる」
「姉から貴方の事を聞かされていて良かった。真祖の魔力を感じて来てみればこんなことになってるなんて」
現れたのはピンク髪を長く伸ばした人物。瞳もピンクなのだが、よく髪の毛の根本が黒っぽいことから染めているのだろう。顔つきはアイリスとよく似ている。
「イース……!!」
「聖水を塗り込んだ特別性の銀針だから、もう大丈夫。吸血鬼としての特性が強く出過ぎてるからこれでおさまると思う」
「血を……私は…強く……」
「少しお休み下さい、姉様」
今度こそ倒れたアイリスをイースが抱きとめ、ゆっくりと床へと下ろした。念の為にと銀の針を腕に軽く突き刺している。
「ふう……これで安心。ありがとうね」
「俺は何も。むしろ俺が魔の聖水の作成を頼んだからこんなことに」
「そうではなく、姉様を殺さないでくれて、って意味よ」
イースは大きく息を吐き、気を失って元の姿に戻りつつある姉を見る。
「貴方はまだ何か隠している。それは表面上じゃ絶対に分からない、魂に刻み込まれた力を。あのまま血を吸い切って貴方を殺したその時、何かが出てくると思った」
「………」
そう言われてもそんな自覚などない。ステータス魔法に現れていない力が俺にあるとでも?
『………』
クリカラーンもだんまりを決め込んでるし。
「何にせよ助かったよ。イース……でいいか。アイリスからは聞かされていたけど、魔帝城で計画開始を待ってるんじゃ?」
「ああ、今日は執務は休みでね。……とはいっても、奴隷市場の様子見っていう仕事があったから」
アイリスの弟であるイースは、魔神から洗脳を受けたフリをして魔帝城でスパイ活動を行なっている。正直、国の荒廃を直接目の当たりにしないとならないため、かなりキツい仕事であろう。だが、現状このイースが打倒魔神のキーになるのだ。
「なるほど。レイボルト=ボロスだ。助かったよ……イース皇子?」
「イース=リスカロン。イースちゃんでいいよ?お兄さんすごいボクのタイプだし」
「……はい?」
「あそこまで姉様が心を開いてるってことは悪い人じゃないのは確かだし、腕っ節も問題ない。ほら、ボクって見ての通りか弱いからね。お兄さんみたいな人が一緒なら安心かなーって」
いつのまにかすり寄ってきていたイースが俺の体を触り始める。アイリスの弟だから真祖の血も継いでるとは思うが、真祖化はしてないだろ?
「えっ、てか男だろ?」
「男ですよ。それが何か?」
「えっ」
ーーー
「すいませんレイボルト様。弟がご迷惑を……」
「問題ない。むしろ……」
「むしろ姉様の方が大迷惑かけたよね」
その後、目を覚ましたアイリスによって助けられた。