第二十一話 アイリスの依頼
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【帝都リスカロン 郊外地下】
アイリスもといリストレイア姫を追跡していたら、何やら悪魔に襲われていたので介入することにした。
勢い余って悪魔を氷漬けからの粉砕をしてしまったが、まあいいか。話を聞く限り害のある存在みたいだし。
瀕死の状態から一命をとりとめたロイズという男を担ぎ、リストレイアの案内する拠点場所へと移動。ロイズをベッドに横にし、安静な状態を保つ。
医療用の魔道具もいくつかあるみたいで、魔石と変換器、そこから伸びるパッチをくっつけ、回復魔法を持続的にかけているようだ。
「初めて見る器具だな……さすがは魔法大国」
「ここは廃棄された研究施設ですので」
場所は帝都の郊外にあたり、その地下に寂れた施設が隠されていた。
リストレイアの言う通り、施設内には何に使うのかよく分からない機械や設備が多いが、稼働してないのか魔力の動きを感じられない。
「それでは本題に入ろうか……魔の聖水についてだ。用途はともかく、報酬として貰えると思っても良いか?」
「はい、命を助けられたのですから。ですが、代わりにお願いがあります」
「……聞くだけなら、とりあえず」
魔の聖水は先程、悪魔を逃さなかったことへの報酬。ここで言うお願いなるものは、それとは別のもののはず。雰囲気からしてロクでもないお願いな気がする……
「私は今とある計画の為にこうやって秘密裏に活動しています。本来なら魔帝城でお勤めをしていることになっていますが、影武者を立てることで今は外での活動ができています」
認識阻害のローブを脱いだアイリスは、黒を基調とした魔術師(魔道士か?よく分からないが)の服装で、お城で着飾るような服ではなかった。
「元近衛兵で計画の中枢を担っているロイズがこの様な状態では、予定通り計画を進める事ができません。そこでお願いがあります」
何となく察しがつく。ロイズという男は不意打ちを受けて重傷を負ったようだが、魔力や装備から冒険者ランクでA級はあるだろう。アイリスと同じく認識阻害のローブを着ているみたいだが、運ぶ時に龍眼で見てすぐに分かった。
「近衛兵は基本これくらいの強さなのか?」
「いえ、ロイズは元団長です。先のクーデターで傷を負っていたとはいえ、それでも現近衛兵の団長と同じくらいの実力はあります」
そうなると魔帝国の軍事力はかなり高いと言えるだろう。近衛兵というくらいだからメインは剣や武器を使った戦闘、この国で有名な魔法を中心とした魔法師団もおそらく存在する。それも合わせると軍事力は相当なものだ。
「なるほど。で、お願いと言うのは……」
「はい、貴方にロイズの担うはずだった計画を実行していただきたいのです。これは魔の聖水のお礼ではなく、ただ私個人の依頼です」
やはりそうくるか……
聞いた感じからすると、このお姫様は何か秘密裏で計画を練っていた。で、それに参加しているメンバーは少なく、元近衛兵で戦力的にも替えのきかないロイズがやられてしまった。
で、そこでちょうど良いタイミングで現れた俺に口封じも兼ねて手伝いを頼もうって算段か。
「どのくらいのリスクがある依頼だ?一応俺もパーティ所属なのでな。ランクはCだが」
「非常に言いづらいのですが、かなりの危険が伴います……それこそクーデターと同じくらいに」
「………」
普通に考えれば、魔の聖水を頂いてこの姫とは別れるのが一番だ。わざわざ俺が巻き込まれる必要もないし、やることは他にもある。
「俺達のパーティは、ある目的を持って旅を続けている。それとは全く関係のないこの依頼に時間をかける意味も義理もない」
「……」
アイリスは唇を噛み締める。
この計画のタイムリミットは刻一刻と迫っている。実働部隊はもう配置についており、あとはロイズとの最終確認の後、実行に移るだけだったのだ。
「だが、この国の姫様に恩を売っておいて損はない。ただし恩だけじゃダメだ。成功した暁にはしっかりと報酬をいただくからな」
「っ!それは!」
「その依頼、承った。俺達パーティでやれることはやる。魔の聖水は前払いみたいなものって事にしとくよ」
こうして、アイリスの計画、通称『神との離別』への参加が決まったのだった。