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第二十話 魔の聖女アイリス 

ーー


 呪具屋では珍しい龍人を見かけた。

ここ最近、ああやって同年代の人と話すのは久しぶりだった。この国の人達は信用できない、特に私の周囲は。心を開けるのは専属の使用人のステンくらいなものだ。


「……魔の手を」


「解き放たん、汝は」


「人からの遣い」


 行き止まりで待っていた男に合言葉で確認をすると、フードを外した男と話を始める。


「アイリス様、やはり上層部は全滅の様です」


「やはりそうですか……では計画は」


「実行に移すしかありませんね。プレイスCへの襲撃準備とプレイスAへ攻め込むための戦力を整理……」


 男はこの国の元近衛兵であり、アイリスと同じくこの国の真実を知る者。


 しかし、その時ーー


「けけっ、元近衛兵が不穏な動きをしてると聞いて付けてみれば……こりゃ大物が釣れたもんだ」


「こいつは……悪魔!」


 近衛兵の影から現れたのは小さな黒い悪魔。その様相は古代から知られる悪魔と同様であるが、一つ目であるところに少し気味の悪さを感じる。


「魔神の使い魔……逃しはしません!」


 アイリスは即座に魔法を唱え、悪魔を捕らえにかかる。しかし、悪魔はかなりの素早さで、易々と魔法を避け、近衛兵へと襲いかかる。


「ぐっ、小癪なーー」


「けけけ、既に仕込み済みなのですよ!」


 剣で斬りつけようとした近衛兵が突然吐血する。


「ガハッ…ゴポッ…!」


「ロイズ!すぐに回復を……!」


「アイリス様!私は良いので……悪魔を……」


 けけけっ、と声を上げた悪魔は路地裏のさらに奥へと消えていこうとする。自分達に気配を悟らせず跡をつけていた事から、このまま逃してしまうと簡単には追いつくことができない。


「わかりました……待ちなさい!」


「けけっ、あんたは機動力に欠ける。そんなのじゃ追いつけやしない!」


 影の中へと悪魔が消えようとする。


 私の魔法じゃこの距離ではあの悪魔を捕らえきれない。


 せっかく……せっかくここまで準備してきたのに……また私は失敗するの……?


「どうして……いつもこうなの」


 ここで逃してしまえば計画は完全に失敗。

それどころか魔神に関して私が知っている秘密が明らかになってしまう……それだけは!


 ……でも、これがもしかすると私の運命なのかもし」ない。魔に見染められた、世界最悪の聖女。




 しかし、この世界において一人の異分子が、運命をも狂わせていくことになる。





「ここまでお膳立てされてしまうと、何か作為染みたものを感じてしまうな。俺が捻くれてるだけか?」


「げ……げ……」


 現れた男は影に潜りかけた悪魔の頭を掴み、一瞬にして氷漬けにしていた。


 銀髪に、眼鏡の奥で輝く龍眼。

全身に冷気を纏い、氷の様な凍てつく視線をアイリスへと向けていた。


「脆いな、少し魔力を込めすぎたか」


 パキンっと、軽やかな音をたてて悪魔が粉々に砕け散る。悪魔の血が路地に広がるが、男はそれを全く意に介していない様子。


「……その男の人、助けてやらなくて大丈夫なのか?俺はあまり回復魔法が得意じゃないんだが」


「え、ええ!急いで回復させないと……ロイズ!しっかりしてください!」


 アイリスの魔法が元近衛兵ロイズの体を癒していく。悪魔が仕掛けていたのは呪術による内臓壊死。遅効性で、悪魔が姿を現した時にスピードを早めたのであろう。呪術の解除と壊死の回復と同時に進めないとならない。


「お願い……『聖回』『高位回復』」


「さすがは魔の聖女様だ、聖魔法も回復魔法も上級だ」


「集中させてください」


 興味深そうにこちらを見る男に言い放ち、応急処置レベルだがロイズの命を何とか繋ぐ。あとは拠点に連れ帰ってから安静にさせないと……


 アイリスは一旦治療を終え、汗を拭い、助けてくれた男に礼を言おうとする。


「ありがとうございました……本当に危ないところでした」


「ん?まあ礼は良い、欲しいのは魔の聖水だからな」


「……分かりました。多分貴方が店からストーカーしてくれなければ、今回の件で計画は破綻していました。そのお礼として報酬を与えないほど、私は礼儀知らずではありませんからね」


「ストーカーとは耳が痛いな」


 ロイズを運ぶ為に身体強化をしようとするが、瀕死状態を治す魔法と解呪の魔法を行使したため、魔力がかなり減ってしまっている。


「とりあえず安全なところまで行こう。報酬を貰うにしてもあんた達が無事じゃなきゃ意味ないからな。気配遮断の為に魔法をかける。あまり離れるなよ」


 様々な属性の魔法をまとめて発動し、男は近衛兵ロイズの身体を担ぐ。


「……何ということですか」


 アイリスは完全に圧倒されていた。

悪魔を一瞬で氷漬けにし、そして簡単に殺してしまう程の威力の氷魔法。

一般レベルでの気配を完全に遮断できるような繊細な魔法の使い方。


 利己的というか現実主義ともいえる発言が多い男だが、その実力は明らかに冒険者ならA級は軽々と超えてくるだろう。


「名前をお尋ねしても?」


「こういう時は自分から先に名乗るものだろ?あ、偽名は無しで」


 龍眼は発動を控えているみたいだが、おそらく彼は自分の事など最初から見透かしていたのだろう。

呪具屋で会った時から全て……もはやあの出会いすらも偶然ではなかったのかもしれない。


「リストレイア=リスカロン。認識阻害のローブを羽織っている時はアイリスと名乗っております」


「俺はレイボルト=ボロス。よろしく、お姫様」


 これが私とレイボルト様との初めての出会いだった。

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