第十七話 帝都リスカロンへの道
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今でも夢に見る。
物語のような騎士様が助けに来てくれないものかと。
この、狂った世界から解放してくれないかと。
人の死を見た。
神の無慈悲を見た。
人の愚かさを見た。
自分の無力さを知った。
足掻いても抜け出すことのできないこの世界を、神を、
ーーーどうか壊してはくれないでしょうか。
そして
「『ーーーー』など、死んでしまえば良いのです」
自分の呪われた運命を壊してくれないかと。
願わずにはいられないのです。
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ーーー魔神との闘いが幕を開ける。
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【魔帝国領 ポーンの街】
レオナをパーティに加え、『クリカラ』というパーティ名で活動を始めた俺達は、依頼を何件かこなしパーティランクを一つ上げていた。
彼女自身はBランクの冒険者だったようで、俺達はCランクへと昇進、依頼も報酬が高いものを受けられるようになった。
そして今日、俺達はポーンの街を出て、魔帝国の首都である帝都リスカロンへと出発することとした。
何故なら、レオナが持っていた情報に、『魔の聖女』のことがあったからだ。
魔帝国の姫、リストレイア=リスカロンという女性が、聖魔法が使えるのではないかという噂があるらしい。とある爺さんが、リストレイア姫が子どもの頃、怪我をした自分に聖魔法の治癒をしてくれようとしたことがあるらしい。完全に発動する前にお付きの兵士に連れ帰られた、みたいだが。
……もしかするとリストレイア姫が魔の聖女であることは、国としては隠しておきたい事実なのかもしれないな。
「本来、聖女っていうのは人間族に与えられる称号で、魔人族で持っているのは聞いた事がないわ。むしろ魔人族の天敵ともいえる存在だし。特に魔帝であるグレイア=リスカロンの血筋は吸血鬼族らしいし」
「吸血鬼ね……たしか魔人族の中じゃかなり上位の種族だとか?」
「ええ、魔帝国を創ったとされる初代魔帝は、真祖と呼ばれる最強の吸血鬼だったと言われてるわ」
真祖。俺も書籍で読んだ事がある。その血を受け継ぐ吸血鬼は太陽の光などの弱点を持たず、ただひたすら魔人族の上位種であると。
普通の吸血鬼も太陽に当たれば即死するわけではないが、日傘をするなど、なるべく日光に当たらない努力をするらしい。そいえばポーンの街でも何人か見かけたな。
「でも帝国のお姫様に聖水作ってくれって、頼むのも難しいよな。お金を積んだって、向こうは大金持ちだろし……どうするかなー」
「そうね……その龍神刀のサビ落としに必要とはいえ、かなりハードルが高いわね」
「わがままな刀ものですまないな」
『申し訳ないのじゃ!』
ちなみに、レオナにはクリカラーンのことは説明してある。龍神刀で錬成したら成長し、意思を持ってテレパシーのできるイカれた刀であると。
「クリちゃんは魔の聖女については知らないのかしら」
レオナがクリカラーンに尋ねる。
アーノンに感化されて、レオナもこいつのことをクリちゃんなどと呼んでいる。私は龍神ぞ?と憤っていたが、満更でもなさそうだったけど。
『それが知らんのじゃ。真祖なら一度会った事があるがの。ボッコボコにしてやったのじゃ』
「へー、すごいのね」
『全然信じておらんじゃろ!のう!?』
帝都へと向かいつつ、情報交換など適当に話をしながら国道を歩いていく。ポーンの街と帝都は一本の大きな道で繋がっており、馬車などを使えば一日で到着する。
俺達はお金が勿体ないのでとりあえず歩く事にした。レオナも獣人だし、体力には自信があるみたいだからな。
半分ほど国道を進んだ頃。
「……アーノン」
「ああ、西の方角に獲物のにおい有り、だな」
「さすがの察知力ね。『風探知』」
俺とアーノンが察知した敵の気配をレオナが詳細に調べる。遠距離と探査がこのパーティでのレオナの役割だ。察知能力は全員高めだが、細かい点までは魔法を使ったほうが正確に測ることができる。
「うん、討伐依頼にもあったビショップスネークね。それも特大サイズ」
「地面を這いながらこちらを狙ってる感じか?」
「よく見えるわね……そうよ。熱源感知で私達に気づいたみたい。ランク的にも丁度良い狩っちゃう?」
「ああ。レオナの後にアーノンが突撃、俺がサポートする」
「「了解」」
俺の龍眼はかなり遠くのものまで見る事ができ、魔力を通せば敵の魔力もある程度見通す事ができる。アーノンもそれに近い竜眼を持っており、森の中へ攻め込むのも容易にやってみせる。
「行くわよ……!」
風魔法で補助されたレオナの弓矢が放たれたと同時に、俺達はビショップスネークのいる方向へと走り出す。
「見えた!」
アーノンが腕を竜化。鋭い爪を使ってスネークを切り裂く気だ。
弓矢はスネークの頭を狙って放たれていたが、それを奴は尻尾使って防いだ。矢には強力な魔力が込められていたため、尻尾には深く突き刺さっているようで痛そうだが。
「燃えろっ!」
竜化した腕に炎を纏わせ、スネークの体へと突き立てる。ビショップスネークは危険を察知し、回避しようとするが少し遅い。
「『氷結牢』」
炎の腕に気を取られている隙に、氷の牢を地面から突き出し、スネークの行動を阻害する。完全な牢に仕上がっているわけではないので、拘束力は弱めであるが動きを鈍らせるには充分だ。
激しい音を立ててスネークの体をアーノンの爪が切り裂く。かなり大きな蛇だからか、半分程度しか切り裂けてはいない。ちなみに体長は俺たちの二倍ほど、胴は丸太くらいある。
シューッ!っと怒りの声を上げてビショップスネークが魔力を込める。すると、傷口が修復されていき、かわりにそこから毒の霧のようなものが吹き出した。
「回復魔法と毒魔法か!ビショップ系はやっぱ魔法が面倒だな!」
「落ち着けアーノン。これくらいならすぐ消し飛ばせる」
即座に風魔法で上空へと毒魔法を散らす。目眩しの意味も込めてるのだろうが、俺の龍眼はビショップスネークの動きを見逃さない。
「『凍結結空』」
毒の霧を一瞬で消され呆気にとられたスネークの半身を一気に氷の冷気が襲う。蛇の魔物は寒暖差に弱く、この魔法をくらえば体の動きを鈍らせることができる。しかも魔力を多めに込めてあり、放っておけば完全に氷漬けになるだろう。
終わりだ、そう言いかけたとき。
ゴパァッ、と音を立てて、ビショップスネークが炎の体液みたいなものに包まれた。
「炎を扱うビショップスネーク……変異体か!?」
「サラマンダーの魔石でも食って変異したのか……一旦距離をあける!」
さながら炎の竜のような容貌に変わったビショップスネークから距離を取り、攻撃魔法を展開していく。
「俺が風穴を開けるから、アーノンがあの炎を上回る火力で焼き尽くせ!」
「おうっ!」
『氷雪槍』を十本作り出し、一斉掃射。まとっている炎は竜人達の炎に比べたら大したことはない。俺の魔法は竜人の炎でさえも耐えきり届かせることができる。
全てビショップスネークの体に的中し、地面へと縫い付けられる。そしてそこへアーノンのダメ押しだ。
「『竜炎』!!」
高熱の炎の球がビショップスネークに直撃。耐火力を持っていようが、それを上回る竜の炎が蛇の体表を焼き尽くす。
そして、さらにダメ押しとばかりにスネークの脳天に風の矢が突き刺さった。
「ちゃんと頭は潰しておかないと。この蛇、無駄に生命力が強いんだから」
レオナが完全にビショップスネークの命を刈り取ったのであった。
『私の出番はないのう……しょんぼり』
なるべく毎日投稿するように心がけています!
割と勢いで書いてるところもあるので、誤字脱字や設定に矛盾など粗が目立つかもしれません。
作り込みに時間が必要になってきたら、またご報告致します。
本日も読んでいただきましてありがとうございました!