第十三話 魔の聖女と初依頼『ルークファング狩り』と運び屋
「つまり魔の聖女ってのを見つけて聖水を作ってもらうんだな?」
「そういうことだ。魔の聖水ってアイテムは普通の聖水と見分けが付かない……どころか、詐欺に遭う可能すら高いからな」
「『魔の聖水』ってシールを貼ってても実際は普通の聖水かもしれないしなー」
この世界での聖水はアンデッドやゴースト系モンスターの駆除に使われる。高純度の聖水はドラゴンゾンビなどにも効果があるらしいが、作れるのは高レベルの司祭などのみ。
ちなみに聖人や聖女っていう存在はそういったアイテムは簡単に作れるらしい。俺らのステータスでいう称号の欄が聖人になるってことだな。光属性を特殊変換させた聖属性が該当してくるが、魔の聖女はどうなんだろうか。
「魔の聖女……闇なのか光なのか」
「錆びた龍神刀みたいだよな」
『龍神刀だからといって錆びないとでも思ったか』
とりあえず素材集めには難航しそうだし、ギルドの依頼でもこなしてお金を稼いでいくか。
「というわけでしばらく龍神刀なしで」
「そだな。残念クリちゃん」
『のおおおおおうっ!?』
ーー
ギルドで適当に魔物の討伐依頼を受注した俺たちは、討伐内容を確認する。
討伐対象はルークファング。ポーンポークの進化系みたいな猪だ。なかなかに持久力のある猪で、竜人でも一人で倒すのには時間がかかる。
初心者でも受けられる依頼の中では難易度の高いものとなっている。受付嬢は俺達が竜人だと分かっているので、特に引き止められる事はなかったが。
「ルークファングね、何匹?」
「依頼では十匹だ。駆除の依頼だから数が増えればボーナスで報酬が増える」
「じゃあ競争だな!目標は一人三十匹で!」
「三十も狩ったらどうやって運ぶんだよ。右の牙が討伐証拠だし、余った死骸を置いとくわけにはいかねえぞ?」
「そうだよなー、あっ、あれないの?魔法の袋……アイテムボックスっていうアーティファクト」
能天気にアーノンが尋ねてくる。この世界にはアーティファクトといって古代の超大国が作り出したアイテムが存在する。遺跡などで稀に出土するが、その分
価値が非常に高く、ボロス村などには当然存在しない。
「ないに決まってるだろ?持ってたらとっくに使ってる」
「じゃあ運搬屋でも雇ってみる?たしか獣人族でそういう仕事が得意な人がいるって聞いたことがあるぞ」
「んー、まあ悪くないか……魔法で魔物の体積を圧縮するくらいならなんとかできるから、でかい荷車を引いてもらえれば運べるな」
「そうと決まったらギルドで紹介してもらおうぜ!たぶん募集してるだろ」
雇うのにも金は必要となるが、その分魔物を多く狩れば良いだけのことだ。
というわけで運搬の仕事をしてくれる人を探してみるが、この日は外れのようであまり人がいないようだった。
「ねえ」
諦めて普通に十匹だけ狩りに行こうかと話していたその時、俺たちに声をかける人物がいた。
「あなた達、竜人でしょ?何か探してるの?」
「あ、ああ、獲物の運搬手伝ってくれる人を探してるんだよ」
アーノンがにこりと笑いながら返答する。こういうときは社交的な性格のアーノンがうまくやってくれる。ちなみに俺は人から話しかけられることは少ない、なぜだ。『無愛想かつ切れ目の眼鏡だからじゃないかの?』
「ふーん、ねえ、私が手伝ってあげようか?」
「え!ほんとに?でもあんまりパワータイプには見えないけど……」
そう、話しかけてきたのは俺達と同い年くらいの女性で、種族は獣人族。
獣人族ではあるが猫耳っぽいのと尻尾が生えたスレンダーな女性だ。
「運搬ってのはパワーだけじゃないのよ。運搬方法を口外しないって約束するなら手伝うけど?」
「どうするレイ?」
「……まあいいんじゃないか」
正直、急に話しかけてきて運搬もできるとは都合が良すぎるとは思うが、手伝ってくれるのなら拒否する意味もない。
「見返りは何を求めてるんだ?金なら相場程度しか出せないが」
「ふふん、そうね。報酬はあなた達の実力を見てからにするわ。安心して、相場程度の金でも大丈夫だから」
「じゃあ問題ないね。俺はアーノン=ドイ、竜人族で最近冒険者資格を取ったところ。こいつはレイボルト=ボロス、レイって呼んでる」
「ちなみに俺も竜人族みたいなもんだ」
「へー、その割には目も鱗も竜人っぽくないわね」
アーノンには俺が龍人族の末裔という事は伝えてあるが、これは俺たちの秘密ということにしてある。
アーノン自身もそれに関して特に思う事はないようで、『レイはレイだろ?むしろかっこいいじゃん』などと言っていたが。
「個体差みたいなものだ。で、そっちは?」
「私の名前はレオナ=レザーノ。種族は獣人族で、見ての通り獅子、ライオン系の獣人よ。闘いでは遠距離担当で弓と魔法を使うわ。あとは実戦で確認して頂戴」
こうして獅子の獣人、レオナ=レザーノが運び屋として討伐依頼に同行することとなった。
俺とアーノンが思った事はクリカラーンが代弁してくれていた。
『ライオン?猫耳の間違いじゃないのかのう〜』