ケトとお寺
目が覚めると、横にケトがいなかった。
毎日いっしょに起きていたのにどうして?
お母さんは「ケトはお散歩してるのよ」と言ってたけど、僕はすごく心配だった。
鈴の音がして、ケトが家に帰ってきた。
僕はケトに「どこに行ってたの?」って聞いたけど、ケトはニャンと鳴いただけ。
「ケトはおばあさんだから」と、お母さんが寂しそうに言う。
おばあさんになると、どうしてお散歩に行くんだろう? 僕には分からなかった。
次の日も、その次の日も、僕のお布団にはケトがいた場所にへこみが残されてるだけ。
僕は明日のお昼寝の時、ケトを追いかけることに決めた。
次の日、僕が寝たフリをしていると、ケトは僕の顔をじっと見つめた後、扉のすきまから出ていった。僕は静かに外に出た。
ケトはお家の横の長い坂を歩いていた。
僕はその後ろをついていく。
後ろを見ると、お家が小さくなっていた。
僕は少し怖くなったけど、坂を登った。ケトといっしょに帰りたかったから。
坂の上にはお寺がある。
前にお母さんは「ふだしょ」と言ってた。
お寺の奥の扉に誰かがいるみたいで怖かった。お母さんもここにはいないし、涙が出てきた。
ケトはお寺の横にある竹の森に入っていく。
涙を腕で拭いて、追いかける。
「あれ、ケト?」
ケトがいなくなった。
お箸の手、お茶碗の手、お茶碗の手、その後は? ケトはどっちに行ったんだろう。
鈴の音が聞こえた気がした。
僕はお箸の手の方へ行くことにした。
竹の森が終わると、古いお寺があった。
扉も箱も穴が開いている。
「あ! ケト!」
ケトが居た。
僕は嬉しくて大きな声を出す。
ケトは古いお寺に向かって両手を重ねていた。そこにはケトだけじゃなく、いろんな色の猫さんがいて、両手を重ねている。
「人の子がおる」
古いお寺の奥から声がした。
中から帽子をかぶった猫さんが出てきた。
僕みたいに、お母さんみたいに歩いて、僕を見た。
「ケトはここで遊んでたの?」
勇気を出してそう聞いた。
僕の方を見るケト。
ケトは帽子の猫さんに両手を合わせる。
「どうか、この子をお家に返してあげてください。それが私の願いです」
初めて聞いたはずなのに、どこか懐かしいケトの声。
帽子の猫さんはケトに体を向ける。
「お前は、この人の子との時間を願っていた。その願いに変えるならば、私の叶える願いはこれが最後になる」
帽子の猫さんがそう言うと、ケトは僕に体を向けた。
「私はしゅうくんと一緒にいられて楽しかった。どうか優しいしゅうくんのまま、元気に大人になってね」
よく分からなかったけれど、涙が出てきた。
ケトがいなくなっちゃうと思ったから。
気付いたら僕は寝ていて、そこは僕のお家だった。
そばにはおかあさんがいて、僕はまた涙が出てきた。
「おかあさん。ケトがね、ケトが」
おかあさんは僕の頭をなでてくれた。
おかあさんは涙を流していた。
次の日から、僕の隣ではおかあさんと、時々おとうさんがお昼寝してくれるようになった。
ケトは遠くへお散歩にいったんだって。
僕が大人になったら帰ってくるって。
はやくまたいっしょに寝たいな、ケト。
子供用の絵本みたいな物語を書いてみましたが、理想としていた不思議で寂しい物語よりも、ちょっと怪談ちっくに仕上がってしまいました
これはこれでいいかなと投下
私は小説内での世界の仕組みを全て語りがちなので、あえて説明を少なくまとめてみました