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八話

ランクインしてて草

何がありましてん?


 アヤメという人物を一言で言うなら戦乙女であった。

 戦いしか知らず、戦いでしか己の存在価値を見出だせない根暗な少女。誰もが戦闘兵器として扱われた『ジギタリス王国』の刃の一つ。戦士スカサと双璧とされていた剣士である。

 戦士スカサとライバルであり、一度負かされたアレンに求婚もした憎き恋敵でもあった。


 褐色の肌に白髪の髪、紅蓮の瞳。そして狼の耳と尻尾(・・・・・・)。男を欲情させるには過激な肌を露出した布切れが少ない痴女。本人曰くこれの方が動きやすいらしい。神速とも呼ばれた彼女にとっては鎧一つでも窮屈らしい。

 幾年も時が経った筈だが、容姿は全く変わっていない。ただ、態度と雰囲気は軟化している様には見える。


 「貴女は」


 「ほう。その薄い反応も奴に────っと、まあよい。妾は『アヤメ』。ギルドの【探求者(シーカー)】をやっておる。一応、【“剣聖”】の“冠位(クラウン)”を承ってはいるがな」

 

 “冠位(クラウン)”。

 それはギルドの【探求者(シーカー)】の最高位に贈られる称号。世界中からすれば最強と称すべき存在。何せ人智から逸脱した存在であり、常識はまず通じない。

 “冠位(クラウン)”は現在、七つ(・・)存在している。そしてその殆どが化物怪物(・・・・)だ。故に人の世には収まる訳がない。何より一国がコントロールも出来ず、掌握しようものなら塵芥になる末路だろう。


 「その剣聖様が私に何用か」


 「カッカッカ!警戒するな。その顔、似つかわしくないが雰囲気は酷く似ているのぅ───────虫酸が走る。ここで殺すか」


 「!」


 「安心しろ。冗談じゃ────まあよい。貴様にするか(・・・・・・)。その身のこなしであれば他より幾分かマシじゃ」


 殺気を隠すつもりはない。

 純粋に殺そうとしたアヤメに息が詰まりかけたクロバだったが、直ぐ様我を取り戻して手に獲物を添える。が、その前に彼女の背後から抱きつく様にアヤメがその手を止めたのだ。


 「自然体でそこまで流れる動きが出来るか。秀才というべきかな。じゃが、不愉快じゃ。妾に刃を向けようなど─────」


 まるで首に蛇が巻き付かれたかの様にアヤメの右腕がクロバの息の根を止めようとする。即座に顎を引いて絞められない様にするものの力が桁違いだ。


 「ぁ゛、ぐぅぅ!?」


 「防衛としても逸品か。これでは絞め落とせんのぅ」


 ギリギリと力を加え、絞め落とそうとするアヤメに拮抗するが徐々に顔色を悪くしてしまう。周りの人々も困惑しているものの、クロバを助けようとするものはいない。

 何せ彼女は【剣聖】。人外の化物。扱い要注意の存在相手に一般人が手を出せば無事に済むかもわからない。


 「ここで殺せばスカッとするんじゃが……ようし。おい小娘。御前は妾の従者として迎えよう。嗚呼、勘違いするなよ?貴様に拒否権なぞない。何せ─────」


 力を緩めたアヤメだが、クロバの耳元で囁く。それはあまりにも非情であり、彼女の言う通り拒否権が無い言葉であったからだ。



 「────『ジギタリス王国(亡国)』の元大貴族、クロバ・エーデルワイス令嬢殿じゃからのぅ?」


 「!」


 「亡国の女だとバレれば貴様の人権もありゃせん。今まで運が良かったな」


 こんな顔をするようになったのか、と悟られぬ様に息を整えるクロバは静かにアヤメを睨む。かつてのライバルからの強い殺気にアヤメは吹き出す様に笑い、流したのだ。


 「『ジギタリス王国(あの国)』の貴族ならば、この都市に入った時には監視をつけるに決まっておろうが。随時、『ジギタリス王国民(貴様ら)』が入国する際には我ら【ギルド】の手練れ共が監視をつけ、然るべき時には断罪するからのう。まさか、気付かなかったのかのぅ?」

 

 「……」


 流石のクロバもそこまでは知り得なかった。そもそもこの海上都市で何か問題を起こすつもりもない彼女からすれば周りの監視など気にしない。だが、その気配までも察知できなかったのは恥ずべきこと。まだ己の未熟さを呪うしかない。

 恐らくアヤメの口振りから察するに、運良くあの厄災から免れた他のジギタリス王国の民がいたのだろう。この海上都市に入国し、そして殺害された可能性が高い。別段、驚くことはない。普通のジギタリス王国の民ならば、己が一番偉いと威張り、そして威嚇や暴力などを振るったのだろう。自業自得だと鼻で笑うしかない。


 「私も断罪するのか?」

 

 「言ったじゃろうて。貴様は妾の従者にする。断罪されぬのは、貴様が他の『ジギタリス王国(亡国)』の民よりも遥かにマシじゃったから、かのう。あとは問題を起こした『ジギタリス王国(同郷の蛮族)』を躊躇無く戦闘不能にし、この都市の民を守ったことか。妾からすれば、それも一つの芝居か。或いは己の保身の為に同族を売りつつ、この都市で暗躍しようとしただけかもしれんと、()に殺害の許可を仰いだんじゃがなぁ?」


 アヤメはクロバを怪しんでいる。

 しかし、ギルド内ではそれを却下された。その結果に不服なのか彼女に対しての対応がこうなのだろう。

 彼女もクロバと同じジギタリス王国出身の筈だが、それを感じさせない敵意があった。故郷ではない、敵として。

 その心を読んだのかは分からないが、アヤメはクロバに怨み辛みを込めた声で再び耳元で囁く。


 「妾も元々(・・)はジギタリス王国じゃった。今では妾にとって人生最大の汚点がそれじゃ。あらゆる汚い手段で人を脅し、侵略する蛮族。妾はかつて、国の騎士として在籍したいたのぅ。じゃがそれは妾の家族を人質に取られた故に。今では言いなりになることしか出来なかった己を憎むしかあるまい。やがて奴らはエルフだけではなく、獣人である妾達までも迫害し、追放したのじゃ。結果、妾はギルドに入り、ジギタリス王国を滅ぼす為に剣聖に登り詰めたんじゃが────なんとも、最期はあわれじゃ。まさか“龍王”どもが結託し、ジギタリス王国を一夜で攻め滅ぼすとはのぅ。カカカッ!妾が立てていた計画がパーじゃ。愛弟子(・・・)を潜入させていたのにのぅ?」


 まるでジギタリス王国を落とすつもりだったと言わんばかりに眼をギラつかせるアヤメ。しかし、母国が滅んだとしてもクロバにとってみれば怒りなど微塵もない。ただ滅ぶのであればクロバでもスカサであっても興味はない。あれは単なるゴミでしかないのだから。

 ジギタリス王国の民は愛国心がある。やっていることは誰がどうみても蛮族でしかない自然を壊す獣。己より弱い犬猫などの小動物が道端に居れば蹴り飛ばす程だ。世界で自分達が偉いと勘違いしている者達であれば、母国を愚弄することは許されない。顔を燃え上がらせる様に酷く真っ赤な顔で叫び出すのが、ジギタリス王国の民だ。

 が、クロバの場合はただ黙って聞いているだけ。まるで愛国心など一切無いと言わんばかりの反応だ。もし同じ反応をしていれば大義名分として首を切り落とすつもりだったアヤメは舌打ちをしつつも、気が失せてしまう。


 「……ふん。どうやら『ジギタリス王国の民(あの蛮族)』とは違うようじゃの。まあよい。さて、貴様は妾が持ち帰るとするかの」


 「持ち帰る?」


 「妾は剣聖ぞ?己の城くらいもっておる。そこで聴きたいこともあるからのう?」

 

 アヤメの瞳は怪しく光る。

 元大貴族でもあるクロバから情報を聞き取ろうとするつもりだろう。従者にする、というのは偽りであり情報さえ聞き出せればどうなるかはわからない。

 危機的状況ではあったものの、クロバにとってもアヤメから情報を聞き出そうと考える。スカサとして死んでから何があったのかを知りたいと思ってからだ。

 アヤメは恋敵ではあったが、親友でもあった。互いに背を預け、戦場を駆けり抜けた戦友。だが、それが今でもアヤメが思ってくれているとは考えていない。ただ己を裁くであろう彼女の変わり様が、何処か痛ましかった。


 「────ガッ!」


 「何じゃろうな。貴様の存在自体がイラつかせる。せめて死んだように妾に運ばれよ。それで幾分か、貴様を殺すのを抑えられる」


 手刀で気絶させられたクロバは沈む。アヤメはそんな彼女の首根っこを掴み、荷物を引き摺って連れていかれるのであった。


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