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7話



 『ジギタリス王国』が文字通り崩壊し、滅びてから半年が過ぎた。


 亡国と化したそこはもう人が住める場所では無くなっている。ジギタリス王国を襲撃した者とその眷属は既に去ってはいるものの、後から現れたモンスターが住処として生息している。何度か生存者がいるか探索は行われたらしいが、既に魔の巣窟。人一人生存している事はなく、モンスターの捕食されていた残骸だらけだ。


 国によっては、極秘でジギタリス王国にあるとされる価値あるものを探索されたが、【魔王の一部】七点と【剣聖スカサの亡骸】だけは見つけ出せなかったとのこと。恐らく住処にしているモンスター達の胃袋の中に入っていると考えられている。


 ジギタリス王国───亡国ジギタリスから馬車と船で一ヶ月程の場所に存在する国【イニティウム】。そこは島国でありながら海上都市も兼ね揃える貿易としても有名な国。


 その海上都市【エレンティア】の宿泊施設にてクロバは部屋で武器の手入れをしていた。


 武器は、国から脱出する前に城の宝物庫からかつてアレンから貰った『霊剣ネメシス』を拝借していた。国宝の一つだが、元々は古のエルフの英雄が持っていた武器である。しかし、この剣は彼女にとってただの鈍らの武器でしかない。だが、アレンからの唯一の贈り物だ。



 「(アレンの身体を取り戻さないと…………)」



 逸早くアレンの身体を取り戻したいクロバは直ぐに次の目的地を探していた。

 

【魔王の一部】  

 頭

 胴体

 右腕

 左腕

 右脚

 左脚


 あの【魔王】と名乗っていた男の言う通りならば、【龍王】達がアレンの一部を保有しているのだろう。それがどのような扱いをされているかを考えただけで嫌悪感を募らせる。そんな中、彼女は後回しにするべきだと思いつつあることを考えてもいたのだ。


 「(何故、私の遺体が放置されていた?そもそも何故老いた姿ではなく、若い頃のまま…………?)」


 【剣聖スカサの亡骸】。


 記憶が戻る前に一度、目にした事はあった。


 当時はその透明な棺桶に収められた女性は大層美しいものであったと記憶している。そして、この人物こそが英雄スカサだとは信じられない程の若さ。まさかこの今にも目を覚ましそうな女性が、過去の偉人とは想像がつかないほど。


 しかし、今彼女はスカサの記憶を取り戻した。

 

 それ故に、何故老いていた筈の前世の身体が若返っていたのか。アレは間違いなく、前世の――――スカサの身体。己自身を見間違える訳がない。



 「(気にはなる──────けど、関係ない。私は───私は、アレンの身体を取り戻す。なんとしても───今度こそ、アレンを裏切りはしないっ!)」



 スカサ───クロバは、武器の手入れを終えると直ぐに近くのリュックを片手に部屋を出る。そしてその部屋から降りるとガヤガヤと賑やかで騒がしい騒音が聞こえてくるのだ。


 時間帯は昼前。


 そしてこの一階は酒場だ。


 酒場は昼にも関わらず酒を呑む者や飯をかっ食らう者。更には賑やかに騒ぐ者や何やら仕事の話をする者も多い。



 「あっ、クロバさん!おはようござ───」


 「いつもの」


 「は、はい!」



 この酒場で働く同じ年くらいの娘に無愛想にしているのは彼女だけではない。今のクロバにとって、アレン以外はどうでもいい存在。例え目の前で命の危険に合おうと助けるつもりはない───が、彼女の前世からの魂に刻まれているのか、弱き者を無意識に助けてしまう癖がある。現にその娘が普段から評判の悪く酒癖も悪い男に襲われそうになった際には問答無用で股の間を蹴り上げた。悶絶し、踞るその男に畳み掛ける様に何度も何度も鞘に納めたままの『霊剣ネメシス』で殴打をし続ける。例えその男が痛みで失神し、泡を吹いていても男の尊重というべきブツと玉を完全に潰すまで我を忘れて振るっていた。


 無論、流石にやりすぎだと他の男が止めようとしたがクロバの怨み辛みが籠ったその姿に誰も見守ることしか出来ない。中には女性陣が彼女の行動に称賛する声もあったのだが、やはりやりすぎてはいたのだ。が、内容が内容なだけに無罪放免となる。言わなくても分かるだろうが、捕まったのは襲おうとした男であった。


 しかし、半年が過ぎても『ジギタリス王国』の滅亡は未だに話題に上がる。クロバは敢えて自らの故郷を隠し、適当に流していたのだ。だが、『ジギタリス王国』が日頃どのように思われているのか。そしてその評価は理解した。


 一言で言うなら、世界中でも5本の指に入る程の大国であり先進国。更には人口は世界一位二位を争う程の多さだった。しかも様々な国々をあらゆる手段を使って強制的に植民地或いは属国にさせてきたという歴史がある。

 つまり、だ。

 世界的には凄い国だったかもしれないが、その反面世界中から嫌われていた大国であった。歴史上類を見ない程の酷い大国としてこれから未来にそう語り継がれるだろう。あらゆる国々が『ジギタリス王国』が滅亡したと報告があった時には、歓喜に満ちてきた程の嫌われ具合。挙げ句の果てには亡国となった『ジギタリス王国』の土地を誰の国のものになるかという会議ではどこの国も名乗り上げなかった。誰もがその国の土地を欲しがらなかった。何せ資源を取り付くした空っぽの国。力は強かったが、結局は他国から摂取していた愚国なのである。


 故に、もし仮に『ジギタリス王国』出身だとバレることがあれば─────間違いなく迫害は免れない。現に他の国で素性がバレたのにも関わらず横柄な態度を取り、恨みを抱いていた住人や憲兵に殺害されたという話もある。


 「(自業自得というやつか)」


 クロバは分からないが、見た目や雰囲気で『ジギタリス王国』の住人かは大体判別できるらしい。


 殺害され、可哀想に感じる者達はいるかもしれない。が、助けることはしないし施しをすることもしないのだ。メリット、デメリットの話ではない。ただ単純に彼等の存在はこの世界にとって忌むべき存在であり、淘汰されて当然なもの。浄化されるべき穢れそのものなのだから。


 「(運が良かったか……いや、前世の記憶があったから?)」


 彼女自身、何故かは不明だが『ジギタリス王国』の住人だとはバレていない。むしろ同性からは好感がある方であるのだ。隠すつもりも好かれるつもりもないクロバは自らの出身をバラしても周りは「冗談はよせ」や「あり得ない」などと憲兵までもが信じてくれなかった程だ。


 「はいっ、クロバさん!」


 「ありがとう」


 出されたのは小麦色のパンにイモ類のスープに若干果肉が入ったスープ。かなり質素な朝食だが、クロバは味よりも栄養が取れれば何でも良いタイプの御仁である。元貴族とは思えない程の味に鈍感だ。


 「あ、あの……これも」


 「?」


 「これ、私作ったんです!良かったら食べてくださいっ!」


 「あ……ああ。なら───」


 既に渡していた硬貨とは別にもう一枚渡そうとするクロバに酒場の娘は慌てて止めるのだ。


 「さ、サービスです!お代はいただきませ────」


 「アンタが作ったんだろ。作ったからには金を出す」


 「で、でも」


 

 普段から無関心というより無愛想なクロバがあからさまに不機嫌になる様に酒場の娘は渋々受け取ることとなる。渡されたのは野菜と肉が少し入った煮物みたいなもの。値段は分からないが適当に朝食と同じ値で渡すと「こ、こんなに!?」と驚かれるが無視を決め込む。


 酒場や食事処で出されたものは必ず全部食べるクロバは何時もの通り食べるのだが────彼女の食事は彼女自身が思ってるより周りから美味しそうに食べるのだ。静かに、しかししっかりと咀嚼をして食べる素材の味を確かめる。味に鈍感ではあるものの、それはあくまで許容範囲が広いということ。不味くても早々に表情には出さないが、美味しいものに関しては美味しいなりの反応を静かに現すのだ。



 「お、お嬢ちゃん。俺もあの子が食べてるのをくれないか?」


 「え?え、えっと、まだありますけど」


 「ならワシの分も頼む。金は払うからの」


 「お、おいちょっと待て!?お、おれもだ!おれも一つ────」


 と、この酒場に新たなメニューが追加されたのは言うまでもない。そんな事が起こっている最中、クロバは黙々と美味しそうに朝食を食べるのであった。



 「『ギルド』……『ギルド』か」


 クロバは食事を終えて探索をしていたが、情報があるのは『ギルド』と呼ばれる組織。一国に一つはあるらしい組織は大きな建物。誰でも中には入れ、様々な依頼を受けることが出来る……のだが、ギルドのメンバー【探求者(シーカー)】でしか得られない情報や依頼があると聞く。

 そもそも、ギルドという存在はクロバがスカサの時から存在していた。当時は名前だけ認知しており、詳細までは知らない。どれ程の権力などがあるかも、だ。しかしそれは過去の話。


 「(情報収集の為には、入るべきか)」


 アレンの身体の在処。そしてそれを握るは竜王・獣王・鬼王だ。奴等の在処さえ判明すればあとは叩くのみ。


 「面白い女子(おなご)じゃのぅ。その風貌、身のこなし────あの忌々しい女(・・・・・)を思い出させるわ」


 「────!」



 背後から気配もなく声を掛けられたのは記憶を取り戻して二度目。それはまだいい。己はまだまだ未熟だと反省するのみ。だがその相手が問題であった。


 「(この女、まさか)」


 この瞬間、口に出さなかったクロバは正しい判断であった。もし、その言葉を出して後に続けば切り伏せられていただろう。だが彼女が驚くのも無理はない。



 「(『アヤメ』、なのか……!?)」



 かつてスカサであった時の、剣のライバルでもあり恋敵でもあった。




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