4話
|・ω・*)チラ
前の話に出てきた【十二神星】については、そんな奴等がいるんだーっ的な感じでいいです。多分そいつ等設定はしていますが、出てくる事はないかも……?
浮遊していた身体が唐突に肉体へと引き戻される衝撃によって私は目覚めた。
いや、その衝撃は夢から覚めた感覚ではない。物理的に大地が揺れているのだ。しかも地震の様な自然的なものではなく、何かが崩壊する瞬間、或いは何かが被弾する爆撃による衝撃波だ。
何が――――――何が起こっている?
慌てて身体を起こすと、私はベッドの上だった。周りは誰もいない。窓を見れば太陽の光も無い事から時刻は夜なのはわかる。だが、日付を見てみると私が“アレンの心臓”を取り返そうとした時と同じ。時間も私が襲撃して一時間程である。
つまり、あれからほぼ時間が経っていないということか。
しかし、妙だ。
夜なのにも関わらず、少し明るいのは何故か。
そして、何故外がこれ程煩い程賑やかなのか。
いや、これは単なる賑わいではない。
――――――――悲鳴だ。
老若男女問わず、大勢の人々の悲鳴だ。
何が、起きている?
私は窓を覗いた瞬間、絶句してしまう。
ドラゴンだ。
巨大なドラゴンが、『ジギタリス王国』を襲撃しているのだ。しかも巨大なドラゴンはこの国の国王と王族が住まう城をブレスで破壊している最中であった。そのドラゴンは私が知るドラゴンではなく、黒き鱗を纏った黒龍だ。私は前世で様々なドラゴンを討伐した事はあった。だが、あれは異質だ。あんなドラゴンが存在していたのかと疑いたくなる。
「全く、あの龍王め。暴れるのは良いが、もっとスマートなやり方があるというのにな。そうは思わんか、小娘よ」
突如、背後に何者かの声が静かに響き渡る。
何者か分からない。
気配も感じなかった。
意味不明な恐怖が私に無慈悲に襲い掛かる。
そもそも私はここ、己の自室で眠っていた。恐らく誰が看病してくれた形跡はあったものの、あの黒龍の襲撃で既に逃げ出してしまったのか。だが、この屋敷には私の両親や兄や姉の他にもかなりの手練がいた筈だ。警備だって元この国の騎士団長だった執事もいた。襲撃はあっても赤の他人を誰も連れずに誰かの自室に入れる筈が、ない。
「む?……ああ、この屋敷の者達か?すまぬな。我の頼みを聞いて貰えなかったから……つい、殺してしまった」
その者は片手に持っていた何かを私の手の前に放り投げたのだ。そしてその何かはべちゃり、と何か嫌な水音を立てながら落ちてしまう。
「……おかあ、さま?」
その何かは、紛れも無く母親の姿だ。しかし、下半身は何処にもない。動かぬなった母親は人形の様に両目を開きながら絶命していたのだ。何か大きな刀か剣によって切断された下半身の無い腹部から動物の血抜きの如くどばどばと鮮血が床に広がっていく。恐らく先程まで生きていたのだろう。その証拠に鮮血の出る様は激しいものであった。
「ほぅ?貴様の母親か。それはすまないことをした。しかしだ。我は平和的に交渉したのだが、この屋敷の者達全てが剣を向けてきたのだ。その中には年端もいかぬ子供達もいたのだが……悲しいかな。仕方が無く、全員殺させてもらった。剣を向けるのであれば、その覚悟はしているだろう?だからこそ、その覚悟に敬意を評して殺したのだ。名誉な事だろう。何せ、この“魔王”である我の手で下したのだから」
“魔王”。
その言葉に納得をしてしまう。
ああ、この気配だけで人を殺してしまう威圧感はまさしく“魔王”というに相応しい強大さだ。前世の私でもこれ程凄まじい存在感を放つ者など知り得ない。
そして漸く私は嫌な汗を掻きつつ、その言葉の主へ目を向けたのだ。
そこには腰まで伸ばした金髪の人物がそこに立っていた。白い甲冑を身に纏う姿は、まさしく“魔王”というより人々が想像する理想的な“勇者”……いや“騎士”というべきか。紅蓮の左眼と黄金の右眼が私を射殺してしまいそうな鋭くも美しい視線に私は戦慄してしまう。
勝てない。
絶対に、勝てない、と。
むしろ今ここで生きられている事自体が奇跡としか言いようがない。それ程、今の私では手も足も出す事も出来ぬ程の実力差。天と地の差とはこういうことなのだろう。前世の私でも勝てるかどうかも怪しい……いや、負けるだろう。勝てる見込みがない。
しかし、ここで疑問が生まれた。
これ程の実力者が、何故この屋敷にいた家族を使用人達を全て殺したというのに今この瞬間、なぜ私を生かしているのだろうか。
「何で、私を、殺さないん、だ……?」
声は震えていた。
詰まりそうにもなった。
恐怖で涙を溢してしまう。
何なのだ目の前の“魔王”と名乗る者は。
どれ程強靭な精神を持ってしてでも、この者の前では無意味に等しい。ただ、黙って殺されるのを待つだけ。命乞いをする暇も与えないだろう。何度も何度も、私は心の中でアレンの名を叫ぶしかない。もうこの時、私は愚かにも死を覚悟していたのだろう。心の中でアレンの名を叫んでいたのは彼を取り戻す事ができない懺悔の言葉。やっと、一歩進んだはずなのに……これで、もう終わりなのか、と。
すると少し沈黙していた“魔王”と名乗る者は漸く口を開いたのだ。
「何故……何故、か。そうだな。ここで貴様を殺しても構わないのが……不思議だな。貴様は何処か“あの男”と似ているのだ。その為か。ボロボロと無駄口を叩いてしまうのは……全く。他の輩が喉から手が出る程に欲する“魔王の一部”を一目見ようと思ったのだが……まあよい。そもそも刃向かわなければ我は手出しはせん。あの“龍王”や他の輩と同じにするな」
「りゅう、おう……?」
「なんだ、“龍王”の事も知らぬとは、とんだ箱入り娘か。いや、この国の民は知らぬということか……仕方があるまい。教えてやろう小娘」
何故そんな事まで話すのかは分からない。
そこまで教えるかも不明だ。
そんな困惑の中、“魔王”と名乗る者は近くにあった椅子に座り語り出しす。
「“龍王”は全てのドラゴンの頂点に君臨する世界最強の龍だ。しかし、そんな“龍王”は何故この国を襲撃しているのか。理由は何ともつまらんものだ。かつて手も足も出せず負かされたかつての“魔王の一部“を手に入れ、更なる力を得ようとしているのだ」
「“魔王の、一部”……」
「無論我の事ではない。我が産まれる前に存在していたという“魔王”。つまり我の先輩か。その“魔王”は様々な事をしていてな。かつて“龍王”同様に暴れ回っていた“獣王”や“鬼王”も蹴散らされたとか――――――ふっ、ふははははっ!!!確かに、彼奴等はこの我が幾度となく遊んでやったがあの程度で“王”と名乗る等滑稽ではないか!さぞかし前の“魔王”も困ったものだろうよ。“龍王”、“獣王”、“鬼王”。どれも強いが最強ではない、単なる格下相手をな」
「――――――ッ!!!」
前の“魔王”――――つまり、アレンの事だ。
しかし、目の前の“魔王”は何と言った?
“魔王の一部”を手に入れる、ということはアレンの身体を狙う。しかもその相手は今城をブレスで半壊させ、その内部に顔を突っ込んでいる“龍王”という黒龍にその他にも“獣王”、“鬼王”もアレンの身体を狙っている……!
今、私はまだ怪我が癒えていない。
何も、出来ない……!
そして何より――――目の前に座る“魔王”だ。
アレンを“魔王”としての先輩と言い放ち、加えてその“龍王”達と遊び、更にはその“龍王”達を格下と言い放つ。恐らく外で暴れている“龍王”よりも遥かに格上なのは間違いない。
だが、そんな“魔王”が何故ここに来た?
まさか、この“魔王”もアレンの身体を―――――――――。
「勘違いするなよ小娘。我は“魔王の一部”には興味はあったが、それをどうこうする気はない。ただ愚かな者達がまるで椅子取りゲームの様にその“魔王の一部”を取り合う姿は滑稽でな。“龍王”に“獣王”、“鬼王”は間違いなくこの我を倒す為に力を欲しているのだろうな。ふはははははっ!!!」
一切抑えぬ笑い声が響き渡る。
“魔王”は自らの命が狙われている可能性があるというのにむしろ愉快そうに笑うのだ。絶対的な力を有しているからこそ、楽しそうに笑っているのだろうか。しかし、この“魔王”がアレンの一部を狙っていないだけでも救いだ。
それだけで、私は冷静に心を無理矢理落ち着かせる。
しかし、それがいけなかった。
「……やはり、妙だな小娘」
「!」
「小娘、貴様は床に転がっている母親に何も思わないのか?屋敷内に絶命した者達に何も思わないのか?」
「な、にを」
「確かに小娘、貴様は“あの男”と同じ気配はする。しかし、それよりも妙なのだ。普通なら恐怖に震え、泣き叫ぶかそのまま生きる事を諦めるか。或いは潔く死を悟り絶望の目をし、死を待つか。そして―――――無謀にも僅かな可能性を信じ逃げ出す、殺すか。いや、一矢報いるか、か。そのどれかだと我は思っていたのだが……何故貴様は今、安心した?」
「……」
このままこの“魔王”はどうにか思っていたが甘い、か。
なるほど。確かに下半身を失った母親を目の前にして反応が薄過ぎるということだろうか。仮に暗殺家業ならば冷静さはあっても逃げ出す手段を探る筈だが、私はしなかった。冷静さもあったのにも関わらずにしなかったのはその技術と知識がないということ。自死するにもあまりにも遅過ぎる。私の全てがあまりにも遅過ぎた。ペラペラと情報を喋るこの“魔王”から情報を得ようと欲を欠いてしまった。
本音は心の中にアレンの身体を狙う畜生共への憎悪が爆発しそうだ。しかし、目の前の“魔王”という強大過ぎる相手では、そんな事は一時的に捨置くしかない。
「我が“魔王の一部”を必要としない、という言葉に安心したとすれば―――――――貴様はその“魔王”と何か関係がある、と考えるのが妥当か?幾ら“魔王の一部”をエネルギー源としている趣味の悪い一族としてもそこまで、ましてやまだ小娘である貴様が心配するにはまだ早かろう。――――――――――小娘、貴様は何者だ?」
……不味い。
まさか、最初から私という存在に何かしら気づいていた?自分にとっては関係ない情報を話し私の様子を見ていた、ということ、か。
“魔王”は鋭い目付きで私の姿をその眼に捉えている。そしてただ見られているだけなのに、体中が押し潰されてしまいそうな感覚に身体の震えは止まらない。しかし、相手は歯向かわなければ問題ないかもしれないが……そんな事、簡単に信用する訳がない。
しかし、だ。
力の差は、あまりにも……この際、私の前世の事を話すか?
どうすればいい?
わからない。
だが。
だが、ここで、死ぬわけ―――――いかないんだッ!!!
「……まあ、よい。そろそろ我も帰るとしよう。期待していたが、彼奴等そこまで大したことはない。そんな“魔王の一部”等より、我には興味あるものは他にある。小娘、貴様が何処の何者かはどうでもよい。しかし、我の邪魔をするなら容赦はせぬ。その時は覚悟せよ」
そう言うと“魔王”は椅子から立ち上がり、部屋から出ようとする。このまま帰るならばそれでいい。アレンの身体を欲する者ではないのならあんな相手と戦いたくはない。あの“魔王”が何を探していた様子だが、私には関係ない。
そのまま部屋から出ようとする“魔王”は何か思い出したかの様に私に目を向ける。思わず身構えてしまうのだが、“魔王”は私に訪ねたのだ。
「“魔王の財宝”」
「……?」
「やはり知らぬか。尚更小娘、貴様には興味はない。既に“龍王”等は“魔王の一部”を手に入れこの国から去った――――が、この屋敷の外は地獄だ。精々生きてみよ、小娘」
“魔王”はそう言い残し、ゆっくりとした足取りでこの部屋から去った。そして漸く、私は“魔王”という存在感に全身の筋肉が緊張から解き放たれた為に脱力してしまう。
確かに窓を覗けば城は半壊し、あの黒龍“龍王”の姿はない。そして人々の悲鳴も止んでいた。しかしそれは既に数多の人々が亡骸となっていたから。そしてその亡骸を喰らうモンスターもちらほら見えるが大したものではない。
しかし、一夜にして国は滅んでしまった。
城を含めた国内の建造物は原型はなく、瓦礫。或いは炎が広がり大きな火事となり広がっていた。煙も充満しているのが遠目から見てもわかる。直にここまで火は広がっていくだろう。
私のやるべきことは一つ。
アレンの身体を奪った者達―――――“龍王”・“獣王”・“鬼王”。他にもいるのだろう。今この身体ではまだ倒すことも叶わない。無謀でしかないが、しかしそれでも私は取り戻す。
それこそが、私がすべきこと。
私は嫌な汗を感じつつこの屋敷から、この国から出て旅をする事を即決する。その為に私は前々から自室に用意していた道具を回収して屋敷の隠し通路から脱出するのであった。
何故、そのタイミングで襲撃?と思われた方、流石です。
何故、スカサを殺さないのか?と思われた方、流石です。
何故、屋敷は襲撃されてないの?と思われた方、流石です。
何故―――――――――――――