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二話



家族全員が寝静まった夜、前世の勘を便りに厳重に保管されている『アレンの心臓』の元へ私は辿り着いていた。というより、我が親愛なる父は子供である私達にはこの保管庫の入室許可は得られていた。


しかし、こんな真夜中ではこうも易々と通れる訳がない。


だからこその、『魔法』。


私は前世で幼い頃に教えてもらった魔法『ジャミング』によって本来なら人が入った瞬間に反応する筈だが、それを阻害して優に侵入したのだ。



そして巨大なカプセルの中に納められた、鼓動する事無く緑の液体に浮遊する『アレンの心臓』。



何れだけの時を身体をバラバラにされて、過ごしていたのだろう。


スカサ神話は約数百年前の出来事。


嗚呼すまない、アレン。


これから───今から、お前を救いに行く。


私は躊躇無く、アレンの心臓が入ったカプセルに向けて己の拳で殴り付けた。


事前に前世の記憶を取り戻した後、今世の私の身体を確認していたのだ。スカサとしての力とは遠くかけ離れているが、常人よりかは身体能力が高いことが判明。そして魔力は少し多い位だ。しかし、前世の記憶は身体に染み付いてはいるが今の身体では負担が多いのがネック。だが、一刻も早く彼の心臓を取り返さなければならない。


家族はどうする気か?


当然幼い頃から可愛がって貰ったが、アレンの身体の一部を好き勝手に使ってきた報いは受けてもらう。


さて、無事に『アレンの心臓』はこの手に……!


だが、カプセルは中々分厚く前世の感覚で殴った為に右手はボロボロだ。指も動かないところから粉砕骨折だろうか。しかし、そんなのどうでもいい。


目的は果たされた。


予想通りではあるが、カプセルを壊されれば屋敷全体に警報が鳴り響く。そして直ぐに一人の人物が私の目の前に現れたのだ。



「クロバ、何故『魔王の心臓』を!!!」


「……お爺様」



このエーデルワイス家の実質権力者。


前エーデルワイス公爵、私の祖父だ。


年齢の為に公爵の座を息子である私の父に譲っているが、現在でも屈指の実力者だ。この『ジギタリス王国』では宮廷魔導師長よりも実力があったとされており、国王が最も信頼している存在。


しかし、私からすればその実力も『アレンの心臓』によるものだ。



「クロバ、キサマ今お前がやっていることが、どういうことがわかっているであろうな!!!」


「ええ勿論。私はこの心臓が欲しいのです」


「戯けぇ!それは、エーデルワイス家のものじゃ!!!」



エーデルワイス家(お前達)の物でもない。ましてやこの国のものでもないのだ。


アレンの心臓は、アレンのものだ!!!


我が祖父よ、貴方は厳しくも頼もしい存在だった。


けど───。



「ぬぅっ!?」



魔法に頼りきった、愚か者。


魔法さえ撃たさなければいい話。


前世の感覚で体術で、祖父の関節部分に突きと正拳、蹴りで攻撃する暇もなくダメージを与えていく。幾ら魔法に長けていようと接近戦は弱い!しかし、やはり屈指の実力者だからか徐々に私の物理攻撃を防いでいく。意外にも武術の心得があったか。



「嘗めるなよ、小娘が!最初は虚を突かれたが、ワシ自身多少武の心得があるのじ───」



しかし、祖父が言い終わる前に胸から手が生えていた。


私ではなく、何者かによって。



「……ふん、最強と呼ばれし等と呼ばれているが、何だ自称か、くだらん」


「ぎざ、まは……」


「人間風情に語るものはない、さっさと死ね」



全身黒ローブの人物によって、祖父は胸を貫かれたかと思うと次は首をはねられて絶命した。私の足元に祖父の首上が転がってくる。


……予想外だ。


まさか、乱入者が現れるなんて……。


黒ローブに纏った人物は頭を失った祖父を横へ蹴飛ばしていく。


ヤバい。


あいつは、ヤバい。


祖父ならば倒せる見込みはあった。


しかし、あいつが祖父の後ろに現れ胸を貫かれる前まで気づけなかった。明きからに手慣れた暗殺技術。影と闇に一体と紛れ込む事を極めた存在。



「───邪魔者は死んだ。女、その心臓(・・・・)を寄越せ」


「い、やだ……」


「なら奪うまでだ」



不味い。


不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い!!!


勝てない。


どうあがいても。


前世の自分ならば勝てていたが、今の私は単に身体能力が高いだけ。相手は魔法だけでなく、その佇まいから全く隙がない。武の心得があるのは私の目から見てもわかるのだ。


どうすればいい。


目の前のあいつは、『アレンの心臓』を狙った盗賊。無尽蔵に生み出す魔力等、魔法を扱う者ならば喉から手が出る程の代物だ。


だからこそ、渡さない。


これ以上、アレンをお前達の都合の良い道具になんかさせない。


絶体絶命かもしれない。


せめて、この手にある心臓だけでも。


私が、私が!!!


この世の何者にも、渡さない!!!



「キサマっ、何を───」


「はぐぅっ、んぐっ!?」



私は、『アレンの心臓』を喰らう。


最低なことなのはわかっている。


けれど、私は、これ以上アレンを利用されるのは我慢ならない!!!



「んぐっ、んんっ、んごくっ!?」



私は『アレンの心臓』を喰らい、飲み込んだ。


その瞬間、私の身体は鼓動する。


鼓動する度に、私の身体からアレンの魔力(・・・・・・)が波を打つ様に波動するのだ。そして、私の身体からも己の心臓が格段に上位のものに変化していく。


心臓の一つ一つの鼓動が、私の身体に桁外れの魔力が流れ回っていくのだ。


嗚呼、わかる。


『アレンの心臓』と一つになる感覚が……!


アレンと一つになる快感を!!!


あぁ、永らく願い続けた事が叶っていく。


アレンと一つに……クククククっ!


アレン……あぁアレン!


もっと貴方と一つになりたい……。


心臓だけじゃなく、バラバラになった他の身体を。


全て、取り返す。


そうすれば、完全にアレンと一つになれるんだ!!!


なんて素晴らしいことか!


これは、アレンを救う戦いでもある!!!


その為に、アレン……こんな愚かな私に力を貸して。


いひヒヒヒ……!


あははははははははははははは!!!


なんて事だ。


力が心臓からあふれでてくる。


けれど、心臓の鼓動が強すぎて身体中の血管が破裂してしまいそうだ。


しかし、これなら───。


あの黒ローブのやつを倒せる見込みがある。



「女……っ!なんてことを……」


「死ね、蛮族が!!!」



私は右手を突き出すとそこから業火の炎を黒ローブに向けて撃ち放つ。


この業火の炎は『インフェルノ』。


アレンの魔法で、炎の上位魔法だ。


『インフェルノ』は球体の炎から色が染まり広がる様に黒ローブを灼熱の業火の檻に閉じ込められ、焼却されていく。しかし上位魔法ということもあり、この場は炎で包まれてしまう。



「はやく、ここから……」



上位魔法を放った反動か、身体の負担が大きく脳が蒸発してしまいそうな程私の意識は朦朧としてしまう。辺りは炎に包まれてしまい、逃げ出すには水か風の上位魔法で吹き飛ばすしか方法がない。


だが、そんな力、今の私には残っていない。


このままでは己の力で焼け死んでしまう。


早く逃げようと身体を動かそうとするものの、私の意識は手放してしまったのだった───。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




燃え広がるエーデルワイス公爵家を遠くの場所から眺める黒ローブがいた。


この黒ローブこそ、先程クロバが放った『インフェルノ』によって焼け死んだと思われていた盗賊である。



「まさか、喰らうとは……」



顔を隠していたフードを外してその者は呟く。


可憐な少女の容姿に尖った耳(・・・・)は、普通の人間ではないことがわかるだろう。



「忌々しい人間め。それほどその身体を欲するか」



恨みを込めた言葉は確実に殺意を帯びている。しかしそれは、『魔王の心臓』を喰らった少女だけではなく、魔王の身体の一部を保有する三大貴族や王族等にも含まれているのだ。



「あの女……忌々しい……いつか必ず───殺す」



その言葉と同時に、その者の姿は闇に紛れて消えていくのであった。





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