プロローグ
今回の作品は、唯唯暗い話です。
前々からNTRて後悔し苦しむ女性が転生したらどうなるか……と思いまして執筆しました。
テーマは"救われない"・"悲劇"・"愛に狂う"でしょうか?
人によっては愉悦に感じるかも……?
では、読者の皆々様お楽しみください。
私は、罪深き女だ。
質素な村で産まれ、女でありながら剣を取って剣士として才能を開花させた。最初は女が剣を……と影口叩かれていたが、町の近くに生息する獰猛なモンスターを狩っていく内に他の町から国から注目される存在となったのだ。
そんなゴリラ女と呼ばれていた私にも大切な存在がいた。
幼少の頃から幼馴染みであるエルフのアレンという男だ。線が細く周りから女と勘違いされて育ってきた経歴がある。それは私も同じで、最初は仲が良い女友達が出来たと思っていた。女だと勘違いして接し始めたのが、アレンとの馴初めだ。
アレンは魔法を得意としているが、私と同等の剣術を有する剣士でもあった。剣術というより、刀術。刀と呼ばれる奇妙な剣と魔法の杖を用いての戦闘を好んでいたのは今でも鮮明に覚えている。唯一、私が剣術で負かされた男だ。
女だと勘違いしていても、何れ分かるもの。
男だと判明した私は、アレンを異性として意識するようになったのだ。
ゴリラ女と呼ばれていた私には、異性の関わりがほぼなかった。いや、アレンは私を綺麗な女性ではあるが強すぎて男が寄ってこないのではと言われたこととある。
別に他の男などどうでもいい。
私はアレンに告白し、快く了承して正式に付き合い、結婚したのだ。
その私は剣聖と呼ばれ、アレンは妖刀師と呼ばれる存在となっていた。
結婚し、子供を産んで幸せになれる───そう思っていたのだ。そうなると確信していた、筈なのに───。
だが、そんな私は一人の女でしかなかった。
聖剣等そんな称号があっても、元から女であればその女の悦びを味わえば引き戻れなかった。
幸せな未来は、確実に壊れてしまったのだ。
誰の手でもなく、己自身のせいで。
最初は嵌められて同じパーティーの『勇者』と呼ばれる神に選ばれた存在に薬を盛られ犯されたのだ。そして『勇者』だけでなく、王子までもが……。
前々から目をつけていたらしい。
何でも、私は剣聖でありながら絶世の美女だったから男ならば誰でも私を犯したいと思えるほどの容姿と肉体だったらしい。
拒絶しようと、薬のせいか……はたまた己がこれまでに感じたことのない女の悦びを覚えてしまった為に堕ちてしまったのだ。
こんな淫乱になった姿をアレンには見せられなかった。
だが、私の願いも虚しく、『勇者』等は私との行為を見せつける為にアレンを呼び出したのだ。薬と快楽に墜ちた姿にアレンは涙を流しながら助けようとしてくれたが、その時の私は快楽のみしか望んではいなかった。
もっと気持ち良くなりたい、快楽に溺れたいと『勇者』等に懇願する様は、もう女として最低な行為でしかなかった。アレンに見られながら犯されているのがあまりにも刺激的だったのだ。そして涙を流しながら助けようとするアレンが哀れに感じていた。
そして、アレンは『勇者』等を殺そうとするのだが、私がそれを阻止したのだ。『勇者』や王子達に散々犯され尽くした全裸姿には肉便器として掛かれた文字紋様は淫乱女そのものだっただろう。『勇者』と王子達を守り、私はアレンを斬ったのだ。
私は知っていた。
妻である私には、絶対に傷付けることができないと。
アレンは絶望に染まった表情でその場で倒れてしまった。
彼がその気になれば、私諸とも虐殺出来る程の実力を、アレンは持っている。だが、こんな哀れな姿になった私を愛してくれていたのか私を傷一つ着ける事なく勝負は決した。
その後、アレンは『勇者』とこの国の王子達を殺害しようとした罪で国外追放とされたのだ。
この国だけではなく、他の各国にもアレンの不評な噂を流してどの国でも入る事の許されない大罪人として認知されてしまった。
それから何十年の月日が経った。
30歳になっても、私は『勇者』や王子達の性処理道具として、表では人々に憧れる剣聖として生きていた。
しかし、この数十年で世界は変わった。
エルフという種族の奴隷化だ。
エルフは、男女共に美形であり各国の王族や貴族等の権力者の性的な道具とされていった。
私はそんな事を知りつつも、快楽に堕ちるところまで落ちていったのだ。
しかし、ある時───。
私は故郷へ戻ったのだ。
そして家族に出会い、親からこう言われたのだ。
あの大罪人と結婚を許した私達を許してくれ、と。ケジメとして、アレンの両親は奴隷にして他国の貴族に献上したと。
私は、この時、漸く気付いたのだ。
いや、我に返ったんだ。
───違う。
───アレンは悪くない。
───私が悪いんだ、全て、全て、私が。
今更になってこんな事を言っても、家族やその町の住人からはアレンに毒されて哀れに思われていた。何れだけ言っても、誰も信じてはくれなかったのだ。
私はアレンの義父上と義母上の事を訪ねたのだ。
二人だけでも助けたいと思って……。
だが───。
───あのエルフ共は、死んだ。
───貴族の玩具にされたんだ。
───良い気味だ。
───あのアレンの親なんだ。そうなって仕方がない。
───アレンがエルフならば、他のエルフ達も同じに違いない。
もう、私は取り返しのつかない事になってしまった事に気付いた。アレンの両親は共にアレンに似ていて女性らしい容姿だったのだ。二人とも奴隷というより、家畜の様に扱われ挙げ句の果てには特殊な性癖の貴族に買い取られて無惨な姿に殺害、そしてこの町に送り返されたそうだ。二人の遺体は山奥の何処かに投げ捨てたらしい。
それを聞いた私は、その山奥へ駆け出した。
家族や町人達の制止を振り切って。
走って、走って。
私は山奥の全てを探し尽くした。
しかし、遺体らしきものは何一つ見当たらない。
だが、一つだけアレンの両親の物が見つかった。
それは、奴隷の首輪が二つ。
血も黒くこべりついてどれだけの年月が経っていたのかわかる。
───わたしの、せいだ。
───わたしのせいで、アレンが義父上や義母上……そして、エルフ達が……。
何れだけ懺悔しても許される事ではない。
もう、私は何れだけアレンの名誉挽回しても無意味だ。
国が、他の他国がそう判断したのだから。
どうしたらいいのか、と町へ戻った時、かつてアレンと共に遊んだ公園で幼い二人の男の子と女の子が話していたのだ。
───しょうらい、けっこんしよ!
───うんっ!
───ずっといっしょだよ!
───ぼくもっ!
仲睦まじい光景に、かつてアレンの遊んだ記憶が蘇ってくる。もう、あの頃には戻れないのに……。
───ずっと、一緒……か。
今の私に出来る事は何だろうか。
最もすべきことは、アレンに謝罪すること。
それしかない。
もう、名誉とか称号とかどうでもいい。
仮に国に帰っても、ただの性奴隷だ。
何もかも、捨て去ってもアレンに会いに行こう。
そうして、国には帰らず身体一つでアレンを探す旅に出た。
アレンが何処にいるか等、わかる筈がない。
手掛かりもない途方の旅を続けて、約数年。
漸くアレンの元へ辿り着いたのだ。
既に私は40前になっていた。
最初は神秘的な森林だと思い、そこの奥へ辿り着くと大きな大樹の根元に昔と変わらぬ容姿であったアレンが眠っていたのだ。そのアレンの周りには小鳥や栗鼠達が集まっていたのだが、私の存在に気付いて一斉に逃げてしまう。
───だれ?
───私だ、アレン。
───スカサ……。
昔と変わらぬ容姿。
それはエルフという種族ゆえにだ。
昔の様に明るい彼ではなく物静かであったが、今は何も感じさせぬ虚無な瞳を静かに私を眺めている。
彼の瞳には、恨みや悲しみ等はない。
無。
ただただ、無であった。
表情もない、感情が抜け落ちた様であった。
───アレン……。
───……なに。
───……ごめん、なさい。ごめんなさい……。
───……。
───私は、決して許されぬ事をしたんだ。アレンを、義父上を、義母上を、エルフ達を……!
───君が気にする必要はない。ボクがあの時、手を出さなければよかったんだ。全てはボクの責任だ。
───違う、違う!!!アレンのせいじゃない!全て……私の、せいなんだ……。
───……もう、いい。ここから出ていって。
───お前が私の顔を見たくないのはわかっている。けど……アレン。お前の、お前の、側に居させて、欲しいんだ。
───……。
───何でもするから……アレンの側に……いさせて、くれ……。もう、私には……これくらいしか……。
───……好きにしろ。
無理を言ってアレンの側に居られることとなった。
だが、共に居られると言ってもかつての夫婦の様に成れる筈がない。やれることは、使用人の様に家事全般を自ら進んで実行することだ。当初、アレンは自分の事は全て自分でやっていて私が入れる暇などなかった。だからこそ、私はアレンが何かする前に早く、早くやっていったのだ。気が付いた時には、アレンが望むものを用意できる様に。
日常生活では、神秘的な森の奥にポツンと立っている木製の朽ちた家のみ。食料は己で調達するのだ、無論二人分。一年位経てば、既に私はアレンの全ての見回りをこなしていた。
けれど、話す事はない。
アレンはふらりと何処かへ出掛けたかと思うと再びふらりと帰ってくる。
私はただ家事全般をこなすだけ。
ただ、こんなものでは……償える訳がない。
もし、アレンが死ねと言えば素直に人知れずに自殺しよう。
もし、出ていけと言われれば、今を苦しむエルフ達を救い続けよう。
もし、『勇者』と王子達を殺せと言うならば、己の両乳房を切り落とし、己の陰部を性行為が出来ぬ様に焼き溶かして、幾つもの起爆剤を身体に巻き付けて殺しに行こう。
もし───、もし───。
───あ、れ……?
こんな事を考え続け、家事をやっている途中で私は倒れた。
身体が自由に動かせない。
はやく、アレンが帰ってくる前に……ご飯を用意しないと……。
でも、私はそれが出来ずに気を失ってしまった。
気がつけば、ベッドの上で上には毛布を掛けられていた。
───わたし、は……。
───スカサ、大丈夫?
───ぁ。
横にアレンが看病してくれていたのだ。そして、久々に彼の声が聴こえた瞬間、私は嬉しくて───嬉しくて、みっともなく泣いてしまった。
それからアレンは私を看病し続けてくれた。
こんな、裏切ったかつての妻の為に……今まで何処かに行っていたアレンは私に付きっきりとなっていたのだ。
───薬だ。飲んで。
───あり、がと……。
だが、時間が経てば経つほど、私の身体は弱りきっていた。身体もろくに動かなくなり、ベッドから起き上がる事すら困難となってしまっていた。
───ごめ、ん……アレ、ン。
───気にしないで。ほら……薬。
───くす、り……そんなの、どこで。
───……ボクが作った。
アレンから、私が病に犯されている事を告げられていた。それしか言わなかったが、アレンは出会った当初から私が病気にだと知っていて、よく家を出ていたのはこの病を治す為の資料や材料を集めていたのだろう。命を掛けて。
薬なんていう効果なものは中々手に入らない。
そう言えば、アレンの両親は薬師だった。
義父上と義母上から受け継いだ知識をアレンは有していた。
私の為に───。
私なんかの為に───。
だからこそ、私は、己の所業を改めて呪った。
しかし、もう既に遅い───。
───ごめん、なさい。アレン……。
───喋らなくていい、スカサ。もう……ボクのことはいいから。ゆっくり、休んで。
私は、死ぬ。
これは逃れられぬ事ができない。
死ぬのは、怖くない。
ただ、もう二度とアレンと会える事が出来なくなるのが、最も怖い。
───ぁ……れ……ん……。
───ごめん、ね……頑張って、薬を作ったのに……やっぱり、ボクは、君を……スカサを、幸せにする、事が……出来ない、んだ……。
私が最後に見た光景は、アレンが涙を流しながら私を抱き締める時だった。
ううん、アレン。
私は、幸せだよ。
───しかし、私は愚かだ。
この時、思っていた事は単なる自己満足で。
私は、全く先の事など考えていなかった。
だからこそ、この未来の出来事を。
受け入れられる事が出来なかった。