君の強さ
ヌルくて、ユルくて、短い話を1つ。
この手紙を読んでいるという事は私はこの世にいないという事でしょう。だからここに書き留めておく。この手紙を読む誰かに私の想いを知っておいて欲しい。
私は死力を尽くして挑んだ。挑み続けた。
勝つ時も負ける時もある。負けても何度も挑戦した。後悔はしていない。
勝ち続けるのは不可能だと分かっている。挑戦し続けたという事は決して間違っていないと思っている。
だから今際の際にあっても、私はきっと笑みを浮かべていることだろう。
今私はそんな内容の手紙を読んでいる。全く以ってつまらん手紙だ。
ふうぅぅぅ。負けたのはそいつが弱いだけだろう。無能なだけだろう。使えないだけだろう。本当に下らない事を書いてある。
私を異形の者といって恐れ葬ろうと挑んだ者も多かったが、逆に私が全て葬り去った。正義を振りかざす物、使命を帯びたと言う者、最強を名乗る物、全て葬り去った。
この手紙も私が倒した奴が虫の息でこそこそと書いていたものだ。何を書いているのか興味があってとどめを射すのを待ったが本当に下らない。
街を滅ぼした。国も滅ぼした。破壊し尽した。
私の言う事を聞かぬ奴、口答えした奴、挑んだ奴を殺した。ただ気に入らない奴、つまらないという理由で殺した奴も多い。部下であっても結果を出さぬ奴は殺した。結局、全て殺してしまった。
壊す物も無くなった。殺す者も無くなった。もう何も無くなった。
私以外もう誰もいない。最強である私を最強だと知る者は誰も居なくなった。皆が私を「魔王」と呼んだがその名を呼ぶ物はもう誰もいない。
ふむ。しかし、まあ、なんだな。部下の一人くらいは残しておくべきだったかな……。
玉座の間は自分が殺した部下だったり勇者だったりの死体だらけで足の踏み場も無く、原型を留めずにどろどろに溶けちゃってる奴もいるから腐敗臭も凄いし、おまけにここ換気出来ないし……。かといって自分で掃除するのもな……。
下っ端で魔王軍に入ってようやく魔王にまで上り詰めた。昔の魔王にこき使われ……。思いだすと辛かったなあ。考えたらブラックな組織だったなあ。失敗したらマジでサクッと殺されちゃうんだもんなあ。
ようやく自分が魔王となったら自分もブラックな上司になってしまった。
部下に無茶言い過ぎたのかな。結局全員殺しちゃったしな。前の魔王も部下全員は殺さなかったもんなあ。
「俺が魔王になったら良い組織にしてやる!」
なんて、魔王に成り立ての頃は思ってたはずなんだけどな……。結局、俺が一番最凶最悪の魔王って事だったってことか……。
つうか、一人きりって寂しいな……。話し相手も居ないし……。
は~あ。
仕方ない。この星その物を滅ぼし、全てを終わりにするかな。
うーん。ヌルユルの設定だ……。ちょっと「魔王」って言葉を使ってみたかっただけなんですけどね。
2019年11月16日4版 句読点が多すぎた
2019年08月03日3版 諸々改稿
2019年04月21日2版 誤字修正
2019年04月20日初版