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 力強く言い放つシェリーに竜王は何とも言えない表情になる。



「本当に君は変わった感性をしているな」


「別に理解されたいとは思いませんわ。わたくしの考えはわたくしだけのものですしね」



 湖のような青い瞳が宝石のように強く輝く。


 そんなシェリーの瞳を正反対の深紅の瞳が静かに見つめる。何の感情も抱いていないようでありながら様々な感情を秘めているであろう瞳をシェリーはけして嫌だとは思わなかった。むしろ好ましく思う。


 竜王はそのルビーのような瞳をそっと閉じ、沈黙する。なにやら考え事をしているようだ。そしてその考えがまとまったのかゆっくりと目を開けた。



「わかった。君が毎晩私のもとに通うのを許可しよう」


「まあ、嬉しいですわ。ありがとうございます」



 シェリーは目を爛々と輝かせた。しかし。



「勘違いはしないでくれ。私は君の考えを受け入れたわけではないのだから」



 ピシャリとシェリーから壁を作るように真顔になる。明確な拒絶の言葉だった。しかしシェリーはその表情を受けてもにんまりと笑った。心底楽しんでいるように。



「本当に陛下は手強いですわね。まあ、いいですわ。わたくしは成し遂げると決めたことは必ず成し遂げますのよ」



 言った瞬間、竜王はスッと目を細めた。




「絶対に陛下をわたくしの虜にして差し上げますので覚悟なさって下さいね」



 そこまで言ってシェリーは踵を返し、執務室を出ていく。



「おやすみ」



 扉を潜る前、珍しく竜王が声をかけてきた。シェリーはにこやかな笑みで振り返り、



「おやすみなさい、陛下」



 と言って竜王の前から完全に姿を消した。





 ◆◆◆◆



 シェリーの訪れを許可して3日が経った。


 竜王とその長男であるフレリックが執務室の机を囲って話し合いをしていた。



「シェリー様の訪れを許可したと聞きましたが本当ですか?」



 フレリックはいつも以上に真面目な顔をして机の前に佇んでいる。


 竜王は口元に微かな笑みを浮かべて息子を見返した。



「どういう心境の変化ですか?まさか、シェリー様を受け入れるつもりですか?」


「まさか」



 フレリックの問いに竜王は酷薄な表情で切り捨てるように即答する。


 彼女を受け入れるつもりなど竜王にはなかった。それでも彼女の訪れを許可したのはただ、彼女を自分の都合の良いように制御をしたかったからだ。何を考え、何をするのか予想もできない王妃。放置をしておくべきではない。


 距離さえとれば人間の女は竜人に関心など持たないだろう。当初考えていた目論みは大きく外れた。逆に彼女は自分の部下を最大限に使いこちらの秘密まで調べようとした。


 正直、あれほど性格が悪く、傲慢で面倒くさい者など竜人の中でも出会ったことがない。


 なまじ、ただ怯える女よりも遥かに性質が悪いと感じた。


 これ以上、好きにはさせられない。だからこその制御だ。


 竜王のそんな考えを知ってか知らずか、フレリックは冷たい視線を父王に向けると盛大なため息をついた。そして、



「父上は……馬鹿なんですか」


「何?」



 息子の暴言に竜王の眉間に深い皺がよる。しかしフレリックは気にすることなく続けた。



「父上はシェリー様と今以上の交流を持って、それでも変わらないでいられると思っているんですか?だとしたらその考えは愚かですよ」


「どういう意味だ?」


「心っていうのは時に制御なんてできないんです。一度相手に動かされてしまったら、心なんて後はズルズルと落ちていくだけ。父上、貴方はシェリー様に心を動かされないと言いきれますか?」



 淡々と紡がれる言葉に竜王は内心の揺らぎを隠すように笑ってみせた。そして一言。



「言いきれるとも」


「それはただの過信です」



 きっぱりとフレリックは言った。竜王の顔から笑みが消える。



「父上はきっとシェリー様に動かされてる。心も体も。僕はそう感じて仕方がないんだ」



 フレリックが何を言っているのか理解できない。


 この私が動かされる?人間の──しかも王妃に?あり得ない。


 竜王はそう思ったが口には出さず、挑発的に笑った。



「ふっ……面白いじゃないか。私が彼女に心を動かされる?上等だ。そんなことは絶対にないと証明してやろう」



 浮かない顔のフレリックに竜王は皮肉げに言った。





 竜王がフレリックの忠告の本当の意味を理解するのはそれから暫く経った後になる。

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