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6・校内侵入

 


日本領域高等学校ジャパネスクエリアハイスクール


 白の校舎で学生たちが日々、勉学に励む。



 ・心理研究学科……生物心理学と習性をパターンとして研究する。生物を模したロボットを作る。


 ・科学技術学科……これまでにない新技術の開発に努める。


 ・工学維持科……ドーム内のあらゆる設備の管理維持を行う。治水・建物・未来人のメンテナンス。


 ・歴史研究学科……平成44年度の大戦争について記録する。地下発掘作業を行う。



 水族施設、動物施設、研究科学施設、図書館、など英知の一角を敷地内に所有する。


 中庭の緑は未来植物ネオプラント

 風車かざぐるまは発電装置。

 蝶々は防衛ロボット。


 学生の作品が、至る所に見られる。




 ──と、俺の脳内に説明文が現れる。

 管理イヤリングから情報信号が発されている。


 未来人デザイナーズベイビーは機械のゆりかごから生まれる。生活に必要な知識を、あらかじめインプットされている。ユイの「知識・博士級」のように。

 その代わり不測の事態があると混乱してしまうため、情報がこのように脳内に現れる仕様だ。


 このイヤリングは俺が開発したもの。

「光のアイデア」のバグで記憶が飛ぶこともあるから、必須だったんだけど、ほかの人の助けにもなってるならよかったなって。


 新たな発明品は、政府に申請してイヤリングの情報がアップデートされる。



 ──ユイはその点、未申請・・・なわけで。




「ヒフミに会うまで、ユイを見られちゃいけない。情報が登録されてないことがバレる」

「オッケー頑張ろう」


 俺とモモが、ともにイヤリングをつつく仕草をする。


 ……というか、俺の場合は、ユイが髪の毛にじゃれてきていて、イヤリングが丸見えって感じ。モモが口元を押さえてぷるぷる震えている。


「くすぐっ、たっ……い! ユイ、ストップ。と、とくに蝶々と、心理研究学科の学生・生徒がやばいから気をつけて」

「ボクのことかなー? ハジメ君」

「モモは除外だし。……だよな?」

「ふふ。もちろん。今更君らを政府につきだしたりしないよ。まーかせて、心理研究学科トップのボクがサポートしてあげるからさ」

「ほんとありがとう」

「素直なとこ、好き!」


 けらけらとモモが笑った。


 俺も、サポートを頑張ろう。


 今日はいつもとは違う。一人じゃない。腕の中に、命がひとつ丸ごと納められている。


 チラと下を向くと、見上げてくる黒の瞳がくりくりと、俺の表情を映す。

 なんともみっともなくド緊張している硬い顔だけどさ。

 カラ元気で笑ってみせると、ユイも微笑んでくれた。


 よーし、勇気100倍! ってことで!


「ヒフミに情報登録してもらったら、あとは自由に動きやすいと思う」

「楽しい学園生活の始まりだね。ユイちゃんに幸あれ、だねっ」


 と、さっそく問題浮上。


「げ。あの校門前にいる3人……まじかー」


 クラスメイトのいじめっ子! 口も手グセも悪い。しつこく持病をからかってくるし、発明品を壊されたことも、机や椅子を蹴られたこともある。

 調和をモットーとするドーム内においては、このレベルの違反行為はかなりの問題だ。

 ぶっちぎりで問題児なのはアイデア暴走時の俺だという自覚はあるけども。


「視界の端にもユイを入れたくないなぁ……」

「そうだねぇ。いいよ、ボクにまかせて」


 モモが、トントン、と足踏みする。

 走り出す準備をしているらしい。

 お面なんてつけていないけど、目がギラリと光った気がするぞ。

 生徒指導係としての視線だな。


「制服の乱れ……ズボンの裾をまくってる、ボタンと糸のほつれ、カバンを肩にかけてる姿勢、指導対象アウト!!」

「……こ、こっちは?」


 じゃれつかれたりユイを抱えたり、服装はそれなりにヨレヨレだ。

 一応判断を仰ごうと思った。他の生徒指導係に注意される危険もあるし。


 モモは肩についた葉っぱを取って、ネクタイをきゅっと結び直してくれた。


「はーい、指導完了。今は、非常事態だから見逃してあげる。ボクは広義的にルールを厳守するんだからね……これからは気をつけること! 君は大人しくしてるんだよ? ワンちゃん」


 モモはそう言って、ユイの頭を撫でた。


 なんつーブラックジョーク。

 ユイは分かっているのかいないのか、モモが頬を撫でるのをまあまあ心地よさそうに受け入れている。


 犬知能の扱いが上手だな〜。

 というのも、モモは心理研究学科だからだろうか。

 あそこのエリートたちは、動物ロボットを中心に、心とはなんだ? という研究をしている。

 ユイも扱いやすいのかもしれない……。


 なお、未だに「心」の真理に至るほどのレポートは作成されていないらしい。


 ズシ、と、カバンをかけた肩が重くなったような気がしたのは、その中に、心ある人型ロボット・ユイのことを書いたレポートがあるからだろう。気をつけよう。



 チカッ、とユイの瞳の奥が光った気がした。


 驚いて凝視する。


 ……なんだ、俺の銀の目を映しただけだったのか。

 それに太陽の光も絶妙にユイの目をきらめかせていた。



「あそこ見て」


 俺が指差す。

 学校をぐるりと囲む塀の上、一箇所が揺らいでいて、緑の光が扉のような曲線を描いている。


 ピリリ、と着信。

 頭の中にメッセージを確認。


<そこの電磁波警備、解いといた。時間は5分。急いで>


 協力者・一二三ヒフミからの連絡だ。


 ありがとう!

 ってメッセージを返すのは、あいつみたいにイヤリングに情報干渉できないから不可能だし、あとで直接お礼を言うことにする。



「ボク、もう行くね。また合流しよう!」


 ピュイッ! とモモが口笛を吹く。

 すると空から、キジが羽ばたいてやってきた!

 風が巻き起こって、俺とユイの髪を激しく揺らす。


 ほ、本気で生徒指導するつもりだ。

 悪童とはいえ、あいつらにちょっと同情したくなる。


「よい未来を!」


 モモがウインクして校門に駆けていく。

 というか風に乗って飛んでいく。

 周囲の注目をかっさらう。


 キジの大翼に隠されて、俺とユイの姿は隠されて、校門前の生徒たちには一切見えなかったようだ。

 最先端の生徒指導ロボットキジ、妨害電波を発することもできるため、イヤリングで俺たちの情報を見たものもいないだろう。



 今のうちに!


 ユイをぎゅっと強めに抱く。


「こういう時に役立ってよかったよ。謎の開発品・跳躍シューズ!」


 無駄だと思っていたものでも、未来では役に立つなんてねッ!!!!


 ほとんど助走のない状態からでも、3メートルの大ジャンプを成し遂げる。

 壁の向こう側に、俺たちは侵入できたんだ。


 ユイが歓声を上げてしまわないように。


 頭を、俺の胸元に引き寄せた。

 いて、噛まないで。


 中庭に、着地、成功!




 ヒフミに合流の連絡をとる。





 [レポート]


 美少女型ロボット ユイ 2/10


 ・知識 博士級

 ・知能 犬


 ・装備 セーラー服・白衣・スニーカー

 ・なつき度 MAX




挿絵(By みてみん)


モモーーー!

ちなみにサル・イヌロボットも配下オトモです。


読んでくださってありがとうございました!


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