23・水族施設
水族施設。
小さな水族館をそのまま、キャンバス内に造っている。
魚類の構造について学び、新種交配を試し、都市水路に放つためのところ。
魚類管理を政府からも一任されているため、特に優秀な学生が研究に励んでいる。
遠方のヒフミに連絡をとって、今生徒がいないか確認してもらった。オッケー。
四角の無骨な建物の中に入ると、人が通る黒の道以外、一面が湾曲した水槽で水中に放り出されたような錯覚を覚える。
青の水槽を魚たちがゆうゆうと泳ぎ、ユイはキョロキョロとしていた。
上に手を伸ばすと、魚が集まってくるので楽しそうだ。
道を進む。
また新たに現れた水槽群に、ユイが目を奪われている。
ここにある水槽は小分けにされていて、アクアリウムのように水草や砂が敷き詰められて、ひとつずつの別世界を作っている。
貝類、魚類、プランクトン……それらがちょうどいいバランスになるよう調整。
病気が発生すればその原因も調べる。
「どう? ユイ」
ユイをそっと床に降ろすと、かぶりつく勢いで水槽に向かっていって、じーっと眺めている。
順番に、水槽を眺める。。
俺は、ガラスに映るユイのきらめく表情を観察した。
ちくり、胸の痛み。
ヒカルこれお前が楽しまなくていいの……? って気持ちでトンと胸を叩いたんだけど、出てこない。
頑固だ……! また、引き摺り出す方法考えておかなきゃ。
一人問答をしていると、タコの水槽にユイが辿り着く。
あれ、俺も見たことない。
イヤリングで共有情報を確認したかったけど、今はオフラインだから迂闊に干渉しない方がいいかな。
「へえ。新種を開発したのかな……【開発者No.九十九】か。ってユイ?」
指をゆらゆら動かして、ユイはタコの足と遊ぶ。
吸盤がべったりとガラスについた。
ユイの動きにタコが反応して、ぐにゃりと軟体を歪める、それから、体色も肌色にかわる。
これは……!?
「!」
ユイが水槽に唇をくっつけた。
タコの足がだんだんと赤み(・・)を帯びて……だめだ!
ユイの口元を覆って、引き離す。
タコの色は、ピンク#からどんどん濃くなっている。
電気を消した。
このアクアリウムの照明をめちゃくちゃに変えてしまう。
適当にやったらさ、なんか昭和のディスコみたいな光になって、タコもカラフルに……なんだこのふざけた仕掛け??
頭の中がモヤモヤとする。
なんだ?
考えろ。
……頭の中にキラリと光がきらめいた。
……あ〜の〜さ〜。
……ユイを開発するために必要だったのかもしれない。色の研究が。ヒカルの名残だ。
「ユイ」
暗闇を怖がったのか、ユイは腰にくっついてきて離れない。
うかつさを叱ろうとしたんだけど……タコの色が変わるなんてユイには想定外だったはずだ。
口をつけてしまったのは、犬の本能のなごり。つまりは俺とヒカルの責任なわけで。
しょんぼりさせたくないな。
この校内散策ツアー、目的はユイを楽しませることだから。
君を生んだ理由は、それだから。
「ユイ。遊びましょうか」
「!!」
顔を上げた彼女の電波<♪♪♪>……よかった、気分転換できそうだ。
「極彩色電飾……だな。これ。前にヒカルが作って、俺が叱られて、政府に没収された研究……こんなとこに利用されてたのか。それこそルール違反なんじゃないのかっ」
小声でぼやく。
未来人がルール違反? というとこが引っかかる。
嫌な予感は、ヒカルに任せた。頭痛いのはちょっと引き受けてもらうよ。
「ユイ、始めますよ」
ユイがピシッと直立した。
水槽から距離をとっていて、うん、お利口。
水槽の上部に電飾制御装置を見つけた。電子ペンシルを上に向けて、タクトのように振ってみる。
パチリパチリと電気の色が変わる。
そしてタコの体色が影響を受けるんだ。
思った通り。
「黄色と青のライトを組み合わせて、緑のタコ。白をまだらに混ぜて、黄緑模様。しましま、マーブル」
ユイがぱああっと顔をほころばせて、夢中で注目している。
水槽の中というよりは夢に満ちたヘンテコメルヘン空間で、俺たちは色の洗礼を受ける。
「どうしましたか?」
ユイが俺の髪に手を伸ばした。
ああ、こっちも色を反映してしまっているんだ。
青、黒、金色、しましまにマーブル。
自分の元の色が分からなくなりそう。
赤色にはついに出会わなかった。
よかった。
散々遊んで、チャイムの音とともに、俺たちはこの場を後にした。
[レポート]
美少女型ロボット 唯 3/10
・知識 博士級
・知能 学童期
・装備 セーラー服・白衣・スニーカー・犬耳カチューシャ
・なつき度 MAX+一
※エネルギー残量:ほどほど




