22・校内逃走劇
足音を鳴らさないよう芝生を踏んで、建物の隙間をくぐって、走っていく!
体が熱くなってきたな。
木の陰で休憩しよう……
ユイがふうっと息を吐いて、グリグリ俺の胸に頭をこすりつけながら、肩を震わせている。
おそらく鈴鳴りの笑い声……聞いてみたくなる。
さっき「静かに」ってお願いしたの守ってくれててえらいね。
口元に耳を寄せようとしたけど、
「そこか!」
センイチ先生の包囲網、すごいな!?
結構近くで足音がする。
ーーでも声はフェイクで、そっちと反対方向に逃げようとしたら別の捕縛の布陣があるんでしょ?
逃走にかけては俺より慣れてるやつはいないからな!
動きは把握済みだッ!
俺のバカ!
自虐しながらぐっと拳を握った俺を、ヒフミとモモが半眼で見ている。お察しなんだろうな。
『三方向、解散しよう。集合場所は食堂で』
イヤリングでヒフミが連絡をしてきた。
現在、体調管理機能はオフライン、俺たち三人とムサシ先生で通話だけが可能だ。
そーだろヒカル。
人差し指を口にあてて、シー、としながら頷き合った。
こういう時にはジェスチャーが便利だな。
死角を通り抜けて、廊下で三方向に散らばる。
俺は、保健室へ。
「あら、ハジメくん?……いいわよぉ」
先生は「シー」と唇に人差し指を当てて、内緒にするね、と約束してくれた。
未来人は約束を破れない、安心だな。
保健室の窓から、外に出て、窓枠の下で耳を澄ませる。
扉が開く音。
「こちらに規定外行動をしている生徒がきませんでしたか」
「あらーセンイチ先生。おはようございます」
「質問には回答を。規定外行動をしている生徒がきた、肯定か、否定か?」
「否定ですわ。ぼくはずうっとここにいましたけれど、ひとりぼっちです。あぁさみしい……」
「では次の質問を。足音を聞きましたか?」
「ええ。廊下をスーーッと通りすぎて行きましたわ。あちらに」
「回答ご苦労様」
「ご苦労様でした〜」
足音が遠ざかっていく。
ホ、と俺は肩の力を抜いた。
ムサシ先生、うまく撒いてくれたみたいだな。
「ユイ、おとなしくしててくれて、ありがとうございます」
俺の脚の間で、体育すわりしているユイが見上げてくる。
その口に、チェリー成分を圧縮したグミを押し付けると、ユイは疑うこともなく食べた。
昨日、モモとユイが作っていたらしい。
すぐ飲み込もうとしたので、
「噛んで」
ちゃんとしつけ。
ユイが咀嚼しているのを確認してから、指を離すと、グミをほおばったユイは、ふるふる震えた。
昨日味見をしていた時もそうだったけど、ユイのリアクションは気持ちに素直で面白い。
美味しくて感激したらしい。
思わずもうひとつ与えてしまった。
可愛すぎるので。
「さ、移動。ユイ、楽しいですか……?」
こくこくとユイが頷く。
よかったあああ!
本来であれば授業参加のプランから、校内見学、逃走劇と変わってしまっているから不安だったんだ……。
グミのかけらを喉に詰まらせないようにトントンと小さな背中を叩いてから、俵担ぎにして……さー行くぞ頑張れ俺、ダッシュ!!
同じところにとどまっているといつか見つかってしまう。
それに、新しい場所を見てユイの目が輝くのって素敵だから。
興奮ゆえの早い鼓動がとくとくと、俺の耳を楽しませてくれた。
ーーけっこう走ったから、もう大丈夫かな。
キーンコーンカーン、放送が響く。
「あ、三限目のチャイム。ってことは化学の授業……センイチ先生が一時間拘束される。よし! ユイ、今のうちに水族施設をみておきましょうか」
校舎の離れの敷地に向かった。
「展示物を勝手に触らない、飛び出さない、走らない。いいですか?」
ユイは不満そうな顔をしている。
……まあ、俺はめちゃくちゃに走った後だからなー。
なんで私だけ規制されるの? って気持ちなんだろう。
「ユイの代わりに俺が走ります。行きたいところがあるときは、それで我慢してください」
そういうと、ユイは小首を傾げて、俺のお腹あたりをペタペタ触り、抱きついて、へにゃっと笑って頷いた。
ああー……体温が好きだから抱かせてあげてもいいよ、みたいな?
自惚れたアテレコをして、すっごい照れた。俺のバカ。
ユイがおでこに触れようと背伸びしてくれてるのは、俺が真っ赤な顔になってるから、心配をかけたんだろうな。ほんとバカ。
心配かけてどうすんだ!
ユイを楽しませないとね。
さー、慎重にいこう。
さて、水族施設へ。
[レポート]
美少女型ロボット 唯 3/10
・知識 博士級
・知能 学童期
・装備 セーラー服・白衣・スニーカー・犬耳カチューシャ
・なつき度 MAX+一
※エネルギー残量:ほどほど




