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2・服がない

「さて……」


 紙を前に、鉛筆を持ってにらめっこ。

 アナログ作業で考え事をするのは、俺のクセだ。


 ・ユイにきちんとした服を着せる。

 ・明日からの生活について。

 ・協力者に連絡をとる。

 ・レポートに今日からのことをできるだけまとめる。


 できるだけ……気が遠くなるなぁ……すでにユイに紙を食い散らかされているわけで……ほんと犬……。


 俺がレポート用紙を拾うカサカサいう音で目を覚まして、大はしゃぎで散らかしたあとに、スイッチが切れたユイ。

 犬知能ってすごい。

 行動の予測がまるでできない。

 思考回路のデータはたぶん水で濡れてる。終わった。いや諦めるな。責任責任責任…… おもーい! 人型ロボット一人分、めちゃくちゃ重い!


 順番にタスクをこなしていくしかないな。

 持病の暴走には慣れているから、それなりに早く頭を切り替えられた。



 まずは、地下室の床で眠っているユイにきちんとした服を。


「着替えましょうか、ユイ」


 執事か変態かって感じのセリフだな……。

 ユイの性格もわからないから、怒らせないように、細心の注意を払っている。


 起きやしない。

 連れてくか。


 ユイは小柄だ。

 身長156センチ、体重40キロ。

 男子高校生平均170センチの体ならば、らくらく運ぶことができる。


 地下室掃除ロボットの電源をオンにして、水たまりなどの処理を任せる。


 ここは勝手知ったるものだ。

 なんたって俺の家だから。


 ハウスラボは学生一人につき一軒与えられている研究所。

 休息のためのリビングスペース以外に、地下室などがあり、研究に必要な機材もいろいろ揃っている。

 集中できるように地下室があるんだけど、まさか俺みたいなのに丸秘人型ロボット作りに悪用されるなんてねー……はは、笑えない超怖い。


 静かに、静かに、人型ロボットを起こすべからず。また暴れるぞ。


「ん?」


 ウサギロボットが現れた。俺の試作研究品だ。


「シー!」


 無理ですよね。

 ウサギロボットが跳ねる足音で、ユイが目を覚ました!

 ウサギを見るやいなや、触りたい! と暴れる。

 水泳のバタ足のように脚を必死に動かす。

 ガンガン頭を蹴られる。


「ウサギですよ、ウサギっ! 博士級の知識で我慢してくださいっ」


 イヤイヤと頭を振る。

 実際に触らなくては満たされないらしい。


 観念した俺は、ユイを解放した。


 もしもぎゅっと力を込めてしまったら……あの繊細な皮膚が負傷するかもしれない。

 材質の精巧人口皮膚は、生乾きだから破れやすいんだ、ちなみにメッッチャクチャ高いやつ。保健室から持ち出したので本当にすみませんごめんなさい。


 解放されたユイは、逆にちょっとおとなしくなった。

 触りに行ける、という自由さが興奮を鎮めたらしい。

 ホッ……よかった……!


 ユイの心の変化を覚えておかないとなぁ。

 なにを喜んで、なにを嫌がるか。

 知識では満足できず触診したいって思考は、メモしておく。



 裸足でぺたぺたと床を歩いて、ユイはウサギロボットの前にしゃがみこんだ。

 美少女とウサギが見つめ合っている光景はとてもファンシー。



 つん


 と、ユイがウサギ耳をつついた。


 げしっ!


 と、ウサギロボットがユイの指先を蹴り付けた。



「うわあああ! だめだめ! だめだめ!」


 大急ぎで引き離す。

 ユイはウサギロボットの一番敏感なところを触ったのがだめだったし、ウサギロボットはユイのことを攻撃するなんてとんでもない。

 もし壊れたり機嫌を損ねたらどうするんだよおお! とゾッとした。


「な、か、よ、く!」


 そう言って、ふたりともの頭を撫でると、反省してくれたのかどうか、しょんぼりと頭をうつむかせて、うかがうようにこちらを見上げた。小動物ふたりって感じ。

だから、俺は撫でてしまったわけだけど。


「もっと相手を知ってから、触れ合いましょう。こんな感じで優しく、ってことで……」


 コクン、とうなずいたユイをまた抱き上げて、移動する。

 なんだかさっそくいろいろ難しいなぁ。

 あんな風に女の子を撫でてしまったから、頬があついし、ユイはまたスリープモードだ。



 運びながら思考を続けた。



 嫌な予感。

 ぶっちゃけ、してる……。



「知能・犬」



 数分前の俺にやばさを伝えたい。


 

 生まれたてだから心が育ってないということ。

 それなのに知識・博士級なので……


 俺は……好奇心の塊であるユイを守って、ココロも育てていかなくてはいけないってこと……?




 クローゼットの前までくると、ちょっと気分の落ち込みが回復した。

 ユイはどんな服でも似合うだろうから、楽しみっていうか。楽しめ。いいか俺、落ち込んでてもしょーがないんだよ。


 ユイを起こして、クローゼットの扉を開ける。

 申し訳なさが天元突破した。


「これが一番マシなやつです……」

「!」


 すっぽりと白のTシャツをかぶせる。


「女子用の服がなくてごめん……!」


 頭を出してくると、長い黒髪がえりの中に入ってしまっているので、ショートヘアーのようにも見える。

 わーこれはこれで可愛いー。

 でもまじでごめん。

 暴走時の俺に、毛布用意するなら服もなんとかしろって不満を投げつけたい。


 Tシャツは地味だしサイズはデカイし。


 ユイの腕を引っ張って袖から出す。男子用の袖口からほっそりした腕が露わになっているのは、なんだかとてもイケナイものを見ている気がして目を逸らした。


 ユイの腰からズボンがずり落ちた。

 ああああ……!

 とっさに目を瞑って横を向いた俺は罪悪感でしにそうだ。


 タオルを巻いておくしかない。

 あまりのもうしわけなさに土下座したい。



 とりあえずは着替え完了……。

 女子の服の手配も完了。

 体温を測ると、ユイ平熱。オッケー。



 まだやるべき項目のひとつめ。

 先は長い……。





 [レポート]


 美少女型ロボット ユイ1/10


 ・知識 博士級

 ・知能 犬


 ・装備 Tシャツ・タオル

 ・なつき度 MAX




挿絵(By みてみん)


読んで下さってありがとうございました!

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