18・騒がしい朝のしたく
騒がしい1日が終わろうとしている。
感慨深く天井を眺めてから、隣をみる。
うとうと眠りかけている人型ロボットがいる。
ユイはあのあと、自宅栽培のデザインフルーツをたくさん食べて、ウサギロボットと喧嘩して、ずうっと俺の隣から離れなくて。ときどきまじまじと顔を見たりしてきて。
今はきちんとベッドに入って俺の腕を掴んで眠っている。
……この呼吸のリズムは、そろそろ熟睡って感じ。
今日が終わらなければいいのに、という名残惜しさ。今日はユイを守れた、という安堵。
どちらもの気持ちが俺の中に湧き上がってきてて、微笑みの表情となって現れた。
こんなに尊いものがあるだろうか。
柔らかな命を腕の中にみて、まるで100年生きた老人のようなことを思った。
「おやすみなさい、ユイ」
また明日も守りますから。
寝ぼけたユイが顔を近づけてくる。キキキ。口唇接触。ちゅう。
うわああああ!
今日が始まった。
ユイの寿命は、あと8日と半分。
モモとヒフミが家にやってくる。
「お、おはよう……」
「「惨敗じゃん」」
声を揃えてそう言って、俺からユイを引き離した。はがした、といった表現のほうがいいかもしれない。
「助かった……着替えを手伝ってって甘えてくるのと、自分でやろうねっていうのと、なんか、戦ってた……」
「お疲れさま」
苦笑したモモが、レポート用紙を拾い集めてくれる。
「ヒフミくんも確認」ともに速読して、朝からなにが起こったのかをテキパキ共有した。
モモが、ユイをそうっと抱きしめて言い聞かせる。
「ユイちゃん〜もう一人でできるでしょ? 成長していくんだよ。自分でできることは、自分でしようね」
ぐっ、と唇を噛み締めているユイ。
うるうるとこちらを見てくる。ウッ……
甘やかすばかりが教育ではないと思ってるんだけど、かわいそうになってくる……
でもいざという時に自分で着替えられるよう、練習は必要と思うしさ。
10日間ユイから離れる気はないけど、さまざまな、いざという時のために。
「着替えは自分でやるけど、食事はハジメに手伝ってもらうとか。それならいいんじゃない? さみしいんでしょ」
<!!!>
「いいらしいな。じゃ、ハジメあとは頑張れ」
ヒフミの提案に、ユイは顔を輝かせて、ブンブンと首を縦にふる。
そうか、提案そうしたらよかったか……
自分ひとりでは思い浮かばなかった方法に、助けられたなあ。
ユイが簡単なワンピース型肌着の上に、セーラー服を着ていく。白衣を羽織って、完成。
やる気になると着替えはっや!!
「上手にできてえらい!」
<♪♪♪>
ドヤ顔で胸を張るユイ。
(ハジメの声に苦労がにじんでいるよな……)
(説得とか頑張ったんだろうねぇ。ボク、泣けてきちゃった〜)
うるさいぞーそこ! ニヤニヤ見ないで。
「ユイちゃんは甘えたい時期だろうと思う。幼児心理の特徴でね、できることが増えるのは楽しくて誇らしいけど、これまで守ってくれた手が離れるのはさみしいから、"より"甘えん坊になるんだって。年上ぶるパターンもあるんだけど、ユイちゃんは幼児退行型らしいね?」
「「より」」
モモの説明に、俺とヒフミの声がかぶった。
ユイがまとわりついてくるのは、勝手に走り去られるより守りやすくていいんだけど、より甘えん坊とか、俺の心臓が持たないのでは? 可愛過ぎて。
成長がさみしいから甘えたいって可愛過ぎかよ。
可愛がられるために生まれてきたような存在だな、としみじみ思う。
うん可愛い。
そんなことを考えてると、モモが、ユイの喉を撫でていた手を引っ込めて「ワンちゃん、ゴー!」と俺にけしかけてきた。
「わんっ!」
「……わかったよ、ご飯にしよっか。今朝は俺が食べさせるから」
「時間もないし?」
「手伝い係は二人いるわけだし?」
「イイワケ作ってくれてありがとー二人とも!」
ヤケクソでそういうと、ヒフミとモモはにししと笑ってひらひら手を振ってから、カバンとかを準備してくれた。
「ユイ、おいで」
テーブルにつく。
さっき、大騒ぎしながら収穫したフルーツが乗っている。
皮を剥くと一口大に小分けになっているみかんを、ユイの小さな口の中に放り込むと、ぱくんと閉じて笑みの形になった。
<♡♡♡>
──一般的な幼児じゃない。
ユイといられる時間は人間のそれよりもとても短い。
その間くらいずぶずぶに甘やかしてもいいだろうという誘惑もなくはないけど、平成50年代と環境が許さない。
これからユイに自衛できる力をつけてあげたい。
「お楽しみツアー」を引き続きこなしつつ、ユイの守備についてもっと考えよう。
幸いにも、頼もしい味方が、もう一人いる。
[レポート]
美少女型ロボット 唯 3/10
・知識 博士級
・知能 幼児
・装備 セーラー服・白衣・スニーカー・犬耳カチューシャ
・なつき度 MAX+一
※エネルギー残量:満腹