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17・もうひとりの2

 



 頭の中、光の塊に、意識が包まれている。


 覚醒したとき、俺はぼやぼやと揺らめいた。

 しだいに人間らしく輪郭がはっきりしていって、でもいつまでも未熟な赤ちゃんのような夢見心地で。

 動こうとすればまた揺らめいて、小さくなり、ままならない。



 ハジメの容姿がこっちを見ている。


 白#FFFFFFの髪に、ギラリとした銀の瞳。


 その表情はなんとも言えない、喜怒哀楽のどれもをにじませたけれど柔和な顔で、こんなに繊細なものが人間を滅ぼそうとするわけがないな……なんて思った。

 なんだかとてもユイに似ていて。


 ちくり、と痛みを覚える。

 手の指先が、なんだか痛い。


「やっと……」


 ハジメの容姿はそう言って、泣きそうに声をつまらせた。さっきと同じ微笑み。


「協力しよう」


 どういうこと?

 でも笑っているからきっとこのハジメは幸せな心地でいるんじゃないかな……それなら、悪いことではないような気がする。



 なぜ俺以外の意識が、ハジメの形でここにあるのか?


 それから彼が何者なのか……は、よく知っていると思う。これまでさんざん困らされた、アイデアの光そのものみたい。


 きちんと約束してほしい、協力すること。


「……」


 とっさに俺が突き出した未熟な小指が、ため息とともに、絡めとられた。






 意識が浮上する。

 ──全部覚えてる。



「わっ」


 女の人の……ムサシ先生の声だ。


「……びびびっくりしたぁ! もーハジメくん。目を急に全開にしたら驚いちゃうわぁ」

「えっ、すみません」


 そんな状態になっていたとは。

 周りを見渡す。

 うん、ハウスラボだ……覚えている、記憶と合っている。

 こんなの初めてだ。

 気絶している間のこと、いつもは虫食いの穴空きだったのに。


「もう大丈夫そうかなー? 顔色もいいし、意識もはっきりしているし。じゃ、ぼくは帰るわね。生徒の調子が悪いからって特別出張治療許可をとってきたのよ。君が目覚めて体調も良好、だからこれ以上長居していると叱られちゃう」


 誰に、というのは、政府と学校に叱られるんだろうな。

 ムサシ先生はテキパキと、治療道具を片付けていく。


「ハジメくんの負傷箇所だけど……」

「覚えています」

「えっ」

「ユイに噛まれました、指を。甘噛みですけど。理由は、俺が俺じゃなさそうだったから……なのかなぁ?」

「……半分正解よ。その理由と、あとショック療法」

「ショック療法。ユイ、なんつー選択肢を」

「あはは! 動物的選択という感じかしら〜? あの子、犬知能のスタートだったんだものね。きっと生まれたときの名残なんだわぁ」


 ムサシ先生が柔らかく言って、思いを馳せるように目をつむった。


 彼女が生まれたときのことを思い出しているのかもしれないけど……そこを今言及するのは、余計だなって、口をつぐむ。



「先生。ありがとうございました」

「ぼくの仕事はここまで。あとは一階でユイちゃんが待ってるからね〜」

「モモと一緒に?」

「本当に覚えているのねぇ……そう、ヒフミくんはいないのよ。ねぇ、君の頭の中で、何があったの?」

「後で、話そうと思います……」


 先生は政府と学校に連絡をとったばかりだから。


 いくら地下室が覗かれにくいとはいえ、まだ話し込むタイミングではないと思う。イヤリングや知能に通信の名残があるかもしれない。


「ん、待つわ」

「助かります。あの……ユイに、どう接したらいいと思いますか?」

「あら?」

「ええとその……キキキ……口唇、接触の、直後に、ぶっ倒れるなんて失礼極まりないのかなって!」

「ああ〜」


 ムサシ先生がにやーりと妖しい笑みで、しばらく沈黙してじらされる。

 ううう。


「おなかいっぱい食べさせて、満足するまで隣にいて、眠るまで撫でてあげたら、機嫌が直ると思うわ?」

「そ、そういうもんですか……それなら」

「できそうね! うふふ! じゃあ頑張ってね〜青春いいわね〜♡」


 ムサシ先生はひらひら手を振って、地下室の非常用扉から出ていった。

 待って。

 そこ使うの?

 一階にはいかないつもりらしい。

 あくまで俺一人で立ち向かえってことみたいだ。

 ごくりと喉がなる。




 一階までの階段がひどく長く感じる。


 情けなくも振り返って、地下室を見渡すと、ユイが生まれたときの培養装置がある。


 割れたガラスは清掃ロボによって片付けられていて、培養装置そのものは半分の位置で切断されている。

 なめらかな断面をぽっかりとこちらに見せつけて、「ハジメが創ったということ」「二度目のユイはないこと」を訴えてくる。


 ふと思い出した。

 10日以上は延命させない、と決めたこと。

 パーツをとっかえひっかえして長持ちさせるなんて、まさに過去の大戦争の原因だと思うからだ……


 今を何よりも大切にしたい。

 時間は限られているんだから。

 あと8日。


 そう結論を出すと、するすると階段を登っていけた。

 一階の扉を開ける。



「わんっ!」


 ユイが駆け込んでくる。

 会いたかった! ……そんな笑顔で。






 [レポート]


 美少女型ロボット ユイ 2/10


 ・知識 博士級

 ・知能 幼児


 ・装備 ルームウェア・犬耳カチューシャ

 ・なつき度 MAX+一


 ※エネルギー残量:満腹


挿絵(By みてみん)




間空いてしまってすみません。

がんがん進めます!


読んでくださってありがとうございました!

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