悪夢の始まり2
5時前になるとジャージ姿のクラスメイトが立っていた。僕にLINEでメッセージを送ってきた奴だった。左手に赤い灯油缶を1つ、右手に着火マンを持っていた。
僕はそいつが視界に入ると同時にありったけの小銭を全部投げた。
「金はそれで全部だ!頼むから家に火をつけないでくれ!」
僕が叫ぶとジャージ姿のクラスメイトは慌てたように叫び返した。
「家の反対側にも灯油缶を持った奴がいる!そいつらにも金を投げないと火をつけられるぞ!」
既に時刻は5時を過ぎている。
僕は急いで家の中に入った。家の中から焦げ臭い匂いがする。一階から煙が流れて来ている。
「嘘だろ……。」
階段を駆け下りて、ベランダの反対側の玄関に向かう。するとそこに、ランドセルの横でぐったりしている妹を見つけた。
「つむぎ!」
どうやら母親に怒られるのが怖くて、門限を守って帰ってきてしまったらしい。
「つむぎ、しっかりしろ!」
息はしていた。だが、煙を吸っているらしい。早く外に出て綺麗な空気を吸わせないと。
そう思い、僕は妹を抱きかかえて玄関から外に出た。
外に出ると空の灯油缶を持ったクラスメイト達がいた。男が2人、女が2人。さっきベランダ側にいたジャージ姿の男はいなかった。
「金は?」
1番背の高い男が言った。
「べ、ベランダの方に投げた!そっちの方にいる奴が持っているはずだ!」
「はあ?あたしらの分はないわけ?」
スカートの短い女子がニヤニヤと笑いながら言った。
「金は投げたのが全部だ!もうないよ!」
「じゃあ、戻れ!」
浅黒い顔の男が言った。こいつの名前は学校を長い事休んでいる僕でもすぐに浮かんだ。
黒井鉄雄。クラスでもリーダー格の問題児だった奴だ。
「家の中に戻れよ!」
黒井がもう一度言った。
既に家の中が炎で赤く光っていた。
僕の腕の中で妹が小さく呼吸をしていた。まるで眠っているようだった。
「妹は……」
気がつくと僕の目からは涙が出ていた。
「妹だけは助けて……」
僕は妹を玄関の外に置いた。このままこいつらの所に置いて行くのは不安だったけど、今の家の中よりは確実に安全だった。
僕はゆっくりと家の中に戻った。
少し太った女子がうけると言いながら写真を連写している音が聞こえた。
バチバチと音を立てながら家の中が燃えていた。
熱風と煙で喉が焼ける様に痛かった。
ああ、僕は死ぬのか。
妹は無事だろうか。あいつらに酷い目に遭わされてないだろうか。
悔しかった。何も出来ない自分に腹が立った。僕だけでなく妹まで危ない目に遭わせたあいつらが憎かった。
目の前の天井が崩れ落ちた。涙が止まらなかった。
もしも僕が生まれ変わったら、あいつら全員殺してやる。