ー第7話ー
書き方を変更しました。完結までがんばります。
SDの車から降りた僕と火村は、射撃演習場に入り、会計に行く。
店員は国防兵だった。
二等軍曹かそこあたりだ。彼は少しだけ嫌そうな顔を浮かべるが、僕の勤務手帳に書かれた、兵科、階級という欄を見て、全くと言っていいほど反対な明るい表情で我々を見た。
勤務手帳を要約すると、このようになる。
氏名:青瀬 幸輝
所属:親衛隊特務部隊司令部予備警衛大隊
発動できる指揮権:第901胸甲強襲猟兵大隊
兵科:強襲猟兵
階級:国防軍少尉相当官,親衛隊小隊指導者,国家憲兵隊特務陸曹.帝国総軍総司令部中佐=帝国親衛府最高指導部高級大隊指導者
国防軍と親衛隊の階級名称が異なる理由は明白だ。語るまでもない。
憲兵隊ももちろん、面倒くさいことにならないためだ。
『憲兵の下級下士官が将校に逆らうのか?』
なんて。まぁ事例がある前から見栄っ張りのためとも言えるだろう。
総軍将校、または総軍指導者は、ー国防軍で戦闘将校、親衛隊で戦闘指導者と異なる呼称で呼ばれるこれらの帝国兵ーは、十王庁、つまりは帝国の最高機関から、『貴官の行動は正当な防衛行為である』と認められた特別な帝国兵だ。
から、そんなやつを一般の帝国兵と混同して、この制度を形式主義だと言うのは甘すぎる。
自分で言うのもなんだが、という謙遜はしない。
サッカーで、キーパーでもないのに、自分だけボールを持っていいというルールの中、相手にいつもより厳しいファール判定がかけられる中、常に味方にとっては決勝戦という感じだ。つまり、死ぬことはそんなにないし、ちょっと勝つだけで相手は瓦解するということだ。
相手にとってのファール判定とは……戦死だ。
後は審判に任せるだけ。
そんな部隊を何百個でも作れる国に生まれた僕は、幸運という言葉でしか形容できない。
…まぁ、それゆえ今のように感情面に苦労することは多い。
『す、すぐにご用意します!』
二等軍曹はそう言い、そこらにいた兵や下級下士官に命令を飛ばす。
『誘ったからには、な。僕だって慣れてるから安心してほしい。』
僕はそう言った。高級将校を前にして言葉が出ないでいるらしい一等兵が緊張の面を変えぬまま、書類を渡してきた。
書類は要約すれば、ドリンクバー申請や、既に武器を持っている際の伝え方。その程度だ。
公共の場であるから、軍人でないものにもわかるよう、武器の名前の横に"短機関銃"だとか書かれている。
チェック欄の、使おうと思っている武器に印を着ける、持ち込みというのも忘れない。
火村中佐は僕より手馴れていないらしく、国防兵に教えてもらいながら記入していた。
その様子が、どうにもおかしくてたまらない。
『何を笑っている?』
それをちゃかすように彼は言った。
『ふっ、ははっ!。いやどうにも、SD将校が四苦八苦してるのが面白くてね、ああ、ドリンクバーは着けるな?』
『もち、ろんだ。…で、後はここにサインするだけだな?』
『はっ、中佐殿』
国防兵はつとめて親しげに、彼の問いに応じていた。
不思議だな。まぁ、この中佐とはとりあえず上手く付き合っていく必要があるだろう。
『記入が終わりましたら、あそこの下士官について行ってください』
『ああ、ありがとう、二等軍曹。…火村中佐ー!、先に言っとくが大丈夫かね?』
『ああ』
僕は先に向かった。
『……………』
あれから応答が帰ってこない。なぜか。
どうしたのだろう、いくらなんでも…と今日会っての将校に言うのは礼を欠いているし、単に僕が射撃演習場に慣れているだけだろうが、、、
…………。
………。
……。
…なんでや!、なんか嫌いな奴とでも会っとんのかん?
まぁ火村さんもニンゲンやけ、しゃあないと思わ?
じゃど、なんでこない遅れとるんじょ?
わあった、僕見に行っちゃろ。こないなるんは普通ちゃう。もしか、あの中佐不良かなんか絡まれとぉかもしれん。
立ち止まって少しだけ考えた後、僕は踵を返して彼の元へ向かった。
近くに憲兵はいない。
ならば不良ではないだろう、問題は。
近くの、長椅子に座って何やら話をしている御家族、彼女らに尋ねた。
『すいません、メガネ掛けた身長の高いSS、見ませんでした?』
『え?、ああ。何か、SSの女の人に会ってから凄い機嫌悪そうにして外、出て行きましたけど』
『えすえすー!』
『うんSSだよー。…そうですか、あれは僕の友達なんですよ、、。お邪魔してすいません、それでは』
『あ、はい』
家族の団欒を邪魔してしまったことを謝り、僕に絡んでいた幼児に手を振った。さすがに醜小男の微笑みをこんな無垢な子どもに見せるわけにはいかないから、本当に手を振るだけにしておいた。
…幼児に、えすえすー!、ってなんか違和感あるなぁ。
違和感という表現が適切かあやふやだけど
。女性SS?
『…すまない。下士官。どうにも僕の友達が面倒ごとに巻き込まれたらしい。僕の手帳は記録したな?』
『い、いえ。中佐殿。』
『……、女性の特徴は?』
『………っ!?、…オカッパが好みであります』
『………、さっき来て、あのSDと外に出た女性がどんな感じだった?』
タイプ、と発音したのが悪かったらしい。女性の好みを言われた。
恥ずかしそうにしているこの下士官は、オカッパで、親衛隊特務部隊の腕章をしておりましたと言った。そうか、ありがとうと何事も無かったように。他の兵に僕に任せろと言ってから店外へ向かった。
時間を見ると時間は10時ちょうど
やや小雨で、相変わらず寒い。
『……ほんまアンタはさァッ!!』
耳に響く、聞き慣れた声。西領弁だ。
…新田少佐?
やっべ、休憩してんのバレちゃう。
『うるせェばか女ァァ!!』
………威厳も何も無いなぁ、この人保安警察で大丈夫かよ
なんとかするとは言ったが、このまま僕1人で射撃場に行きたくなるほどの緊迫感。
なんでいつも肉体的強姦してくる上官とできたばっかの友達が喧嘩してるんだよ?
『…あっ、おい青瀬!!。グッタイミング。どうせやったら部下に聞いてやろうやないか。ちょっとこっち来い!!』
_____絡まれたーッ!!
Fuck! Fuuuuck‼︎
あれキレてるときの新田さんだ絶対ッ、率直に言ってめんどくさい!
…行くしかないかぁ
『ど、どうされました、新田さん』
『青瀬くん、こんな女にさん付けせんでええ』
『あんたに聞いてない!』
『なんやと!』
……ダメだ。会話が成立しない。
『あたしはな?、そこらにおる下士官が青瀬はここに居ます言うてたから来たんよ、アンタほんまなんなんヒトの部下とって』
『やかましいわ!』
結局のところ、彼らは青瀬が憲兵を呼びますよ、と言って制されることとなった。SSの士官が制服を着たまま口論をしているこの状況は政治的に極めて危うかったが、この国の者どもは国家の危機に立ち向かう衆民出の殺人鬼に刃向かうほど暇ではない。それこそ、ー何がとは言わずもー転覆させようとする記者は警察署へ同行を命令されるのだから、今の時間帯が深夜に突入していようがいまいが、他人が彼らに介入してくることはありえないだろう。
『落ち着きましたか。』
『ああ、さすがに常時発情してるこの女とは違うからな』
『火村中佐!』
青瀬はその秀麗な見た目からは想像もつかないほど汚い言葉を口にした火村を叱りつけた。上から目線ではなく、下士官が新任少尉を諭すようなものであった。青瀬は左袖を少しめくり、腕時計を見た。手入れが少しずさんに行われている彼の時計は10時23分で止まっていた。苦い顔をした青瀬は携帯電話を取り出し、時間を確認する。深夜11時3分である。
苦い顔をした青瀬に、ばつが悪そうな顔をした火村が謝った。僕じゃなくて。青瀬はそれでも許さなかった。
今度は新田が謝った。頭を下げた方向は長身の眼鏡をかけた保安部中佐にではなく、総軍総司令部中佐に向けられていた。青瀬は新田を睨みつけた、新田は黙ってしまった。
青瀬は手で下士官に合図をした。下士官は見てはいけないものを二度見してから蓋をするように、彼らに特段何も話しかけなかった。青瀬は新田の手を引いた。この女性SSは困惑したが、相変わらず、手袋の上からでもわかる冷たい手をした総軍青年将校が笑っていないことをみとめると、黙って店の中に入っていった。火村は規律ある親衛隊員の顔に戻っていた。しかし新田とは別の側ー青瀬の左ーに付いていったことを考えれば、彼も反省していないようだった。
『本当にすまなかった。軍曹。』
『いえ、お構いなく、中佐殿!』
青瀬は自分より軍歴の長いー先ほど店の前で迷惑をかけていた所属の違うー将校たちを罵るように、店員へ頭を下げた。二等軍曹は何も気にしていないようだった。もしもの為らしい店員のすぐ近くに置かれた小銃が、洗練された下士官の瞳よりも鋭いものを露わにしていた。
彼らは手続きを終えた。
通路に光は少ない。演出のためのそれだった。飲みもの用のガラス・コップをそれぞれが持っていた。注文用の液晶画面は青瀬が持っている。
会話は無い。
通路にはいかにも学生らしい風体の男どもが4人ほど立っていた。その内の1人、最後尾の男はカメラを持っている。動画投稿者らしい、青瀬はこの場にいた残り2人の将校よりも(その業界にだけ有効で)豊富な知識でもって即断した。この集団の名前は「ハンターズ」という。昨今ー北領連続刺殺事件の犯人逮捕後からー、主に小中学生を対象として盛り上がりを見せているものたちだった。各員はすでに成人していると公表されている。
新田は彼らを警戒した。士官学校時代、彼らのような真似事をしてこっぴどく親や、それこそ火村に叱られたからだった。親より火村が怒っていたということが彼女にとっては衝撃だった。結局新田は青瀬よりもはやく過去の自分から目を背けた、路上に立つ下士官へ無意味に手を振って"わたし知りません"をまったく静かに主張した。
対して火村は、「ああ、そういや新田子どもんころ企画やゆうてバカやらかしたぁらあ。爆竹片付けるんだるかったわ」程度にしか思っていなかった。彼にとってその思い出はその頃の新田との大切な思い出の一つであり、絶対に忘れないと誓う幸せな夢の欠片であった。火村は初対面の者どもでもわかるくらい機嫌の良い顔になった。
青瀬は指定された部屋の扉を開け、2人に先に入っといてください、と言った。飲み物の注文も聞いておいた。彼にとっていくらか意外なことに、2人とも炭酸を頼もうとはしなかった。新田は身体に悪影響を及ぼす黒の炭酸を親衛隊特務部隊の誰よりも好む人物だったのだから。了解した青瀬は部屋を出た。若い男の集団はいない。青瀬は下士官に手招きした。
『勤務中すまない。あの男たち、その、ユーチューバー、というやつかな?』
『はい、そうです。』
『許可は取っているのだろうね?』
『はい。先ほど副店長の佐々浩二中尉殿が話し合いにあたりまして、不審ではないとのことです』
『ならええ。任務に戻ってくれ』
青瀬は普段通り、西領出身者独特の西領弁を織り交ぜながら下士官と話をした。一般的な感性でやはりあのような特異な者たちが、銃という殺傷以外いかなる優位も持たない道具で遊ぶことが青瀬にとって不安で仕方がないのであった。
下士官に手を振った青瀬はドリンク・バーへと足を運んだ。
目が醒めることと身体に悪いことで有名な黄色の炭酸ー彼は直属ではない部下が、「あれぶっちゃけしっこやろ」と言っているのを聞いてしまっている。ーを選び、自分のコップへ注いだ。機械音と透明な液体と原液らしきものとを織り交ぜながら、入れ物は泡立つそれでいっぱいになった。少しだけ、青瀬は飛び散ったものが左手についてしまった、それを彼は袖で拭き取った。近くに設置されている、入れるのがへたくそな人用のティッシュ・ペーパーで彼はコップの口や外側を拭った。
それを見た近くの下士官は微笑みを抑えることに彼女が出し得る最適な努力を傾けた。幸いなことに、青瀬は一般的に見た目は好ましいと評される下級下士官の憐れみが混じった表情に、気づくことはなかった。
火村のコップを特に汚してしまった青瀬に憲広という女性の伍長は新しいのをお持ちします、と言った、青瀬は快くこれを受け、ありがとうと言った。思いの外低い少年将校の応対を聴いた憲広はさらに笑いそうになった。
青瀬は3つのコップを上手に抱えながら、部屋へと戻っていった。