ー第5話ー
これもう軍法会議で良いんじゃないかなぁ…
『すまないね、一等兵』
『はい!、いえいえ中佐殿!』
『衛兵隊から呼び出し過ぎているかな、衛兵司令は何か言っていたかね?』
外の景色を見ながら、一等兵と会話をする。
僕が相手の立場なら話しかけてこないで欲しい、と思うだろうが、今話さねばどうにも落ち着けない。
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帝国軍の魔術について
帝国軍は魔術と古くからの関わりがあり、もちろん戦争にも利用してきた。
その中でも特に有名な魔術を紹介しよう。
ただし、視界強化魔術と衣服及び身体強化魔術は常日頃から発動させてしまえば人体に影響があるので、有事のみ詠唱が認められている。
詠唱のショートカットのため、タバコのような形をした"魔術式棒"なるものが資格持ちの帝国兵にのみ配布されている。
空間魔法…空間を操作し、見た目より多くものを収納する。これをよく扱う者は衣服に魔法を付与している場合が多い。
軍学校出の帝国兵が必ず習得している魔術である。
視界強化魔術…およそ20km先まで見渡せるようになり、銃の照準を覗けば照準器のように、敵が見やすくなる。
酷使し過ぎると遠眼になる。
衣服及び身体装甲魔術…肉体は岩石のように、衣服は鋼のように硬化させる強化魔術。種族的な理由で、実戦投入ができているのは皇陽帝国とドイツ連邦、ポーランド共和国だけである。
運動せずにこれを発動したままでいると、前屈するたびガ◯使レベルの笑いが巻き起こるほど身体が硬くなる
リハビリで治る。
航空魔術…帝国軍降下猟兵隊や、突撃隊に利用させている魔術。
最大高度10000mまで上昇可能で、航空時の速度はマッハ3に相当するものとされている。
それより早ければ装備品の再生魔術が崩壊したり、また自然の弊害によって兵そのものが死亡する場合がある。
再生魔術…衣服から武装まで幅広く使用されている魔術。これがある限り銃をどんなに雑に扱っても、どれほどの時間整備せずとも使用ができたり、軍服を瞬時に修復させることができる。
ただし人体に使用すると、身体の成長を抑制し、臓器に悪影響を与えたり最悪死に至ることもある。
最も日常的な魔術でありながら、最も危険な禁術であると言える。
光学魔術…帝国軍に採用されている魔術。ヨーロッパ連合や太平洋協商では禁術とされているものの1つである。
帝国軍操術庁では『光学術式』とされ、特別扱いとなっている。
対象の視覚、または色覚に作用し、その全ての能力を一時的に遮断する。
そりゃあ禁術にもなる。
爆撃魔術…目標を指定し、爆発を起こすという攻撃魔術。
射程制限は無いが、技術的に50kmが限界だと言われている。
強襲/突撃砲兵の武装に利用されている。
切断魔術…切れ味を格段に向上させる魔術。
切れ味が良すぎるために傷跡の治療が容易なため、媒体に鋸刃を使用されている。
銃剣や軍刀、手斧などに付与されている。
これにより前線での刃物使用が復活し、刀持ちの新兵は斬殺死体を量産した。
制圧魔術…対象の弱点を突き、無力化するという魔術。軍刀の護拳や軍用スコップに使用されている。
切断魔術と違って痛い、というよりか"力が抜ける"らしい。ただし絶命に繋がることは変わりない。関節をやられれば砕けるし、頭をやられれば陥没は免れない。結局痛いことは痛い。
これにより、前線では銃床で敵を殴らず、わざわざスコップなり金棒なりで敵ーの、頭蓋骨なり鎖骨なりーを玉砕する下士官が続出した。
・対象捕獲射撃…その名の通り、射殺してはいけないような人物ー例えば民間人などーを無力化するために付与された射撃モード。
青い閃光で相手を目潰しし、非致死量の魔力を対象に直接流して無力化する。実は4回以上流すと対象が木っ端微塵になったり、どうあがいても後遺症が残るくらい有害である。
飲み込んで言うなら『大人しくしてろ』という意味である。
・撃弾
帝国軍に採用されている弾丸。魔術弾丸とも。
人体にダメージを与える円柱状の術式と定義されている。
7.92×25mm Korn…特殊銃弾。着弾部分半径15cm、深さ5cmをガラスを削るように破壊、殺傷する。
9mm Luger…拳銃弾。反動制御も用意で初速も速い。
7.92×33mm Kruz Rheinmetall…小口径小銃弾。小銃弾の中で最も反動が少なく、威力も低い。
7.92×57mm Mauser Grossfuss…中口径小銃弾。帝国軍に置ける標準的なライフル弾。軽装甲目標への攻撃が可能。
7.92×94mm Steyr Werke…大口径小銃弾。構えが甘ければ肩を粉砕する。戦車、また航空目標への攻撃が可能。
13mm Spirytus…超大口径弾。あらゆる目標の破壊が可能。コイツを持って歩くなど想像できない。
・撃式
帝国軍に採用されている、言わば属性魔法。
6種類全ての撃式を付与させた弾倉にダイヤルを取り付け、状況に応じて切り替える自動小銃用の機構。
弾に撃式を付与させ、(装填すれば無尽蔵に撃てるという性質を利用した、撃式の能力重複が可能な)1発1発銃に込めていくという機構。
銃に置いてはこの2つの機構がある。
強化…撃弾の着弾時衝撃力を最大限まで強化する。
焼夷…火炎を発生させる。
氷結…凍らせる。
豪風(疾風)…風を発生させ、切り刻む。
迅雷…電気を発生させる
夜霧…ガスを発生させる。
・・帝国式柄付手榴弾
帝国軍に採用されている手榴弾。柄が付いているため、兵らからは"棒付きアイス"の愛称で呼ばれる。
これ専用のポーチがあり、腰に携行されている。
弾頭部分に着いたピンをそのまま引き抜くことで着火する。5秒遅延型。
モデルはM24型柄付手榴弾。
攻撃擲弾…範囲10m以内に爆風を発生させる。弾頭は黒色
焼夷擲弾…範囲10m以内に火炎を発生させる。"モロトフ・カクテル"と呼ばれている。弾頭は赤色
氷結擲弾…範囲10m以内を凍結させる。爆弾処理や兵器破壊など、非殺傷目的で使われる。弾頭は青色
豪風擲弾…範囲10m以内に豪風を発生させ、周囲の物をめちゃくちゃにする。弾頭は緑色
迅雷擲弾…範囲10m以内に電気を発生させる。兵らからは"電気ネズミ"と呼ばれている。危ない危ない。弾頭は黄色
ガス擲弾…範囲10m以内に致死性の毒ガスを発生させる。豪風を付与した撃弾または擲弾で無効化することができる。弾頭は紫色
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『はい、いいえ中佐殿!。源軍曹殿は良い経験になると言っておりました!』
『勲章でも申請してやろうか、ああ、乙種で勘弁してくれたまえ』
一等兵の口角が上がったことを確認する。
外はさすがにうす暗く、八熱地獄から漏れる炎があたかも夕焼けのように空を照らしていた。
彼がハンドルを右に切ると、僕の身体が少しだけ浮くのだ。
陸上憲兵隊司令部は、今なお忙しそうに見える。
『中佐殿、もう到着します!。降車のご用意を!』
『これはお小遣いだ、自販機の足しにでもしてくれ』
衛兵が捧銃をしたのも見えた
『ち、中佐殿、は、ありがとうございます!』
500円玉を受け取ったやけに暑苦しい一等兵に一度会釈してから、車を降りる。こんな中佐、ドイツ軍でもいないだろうなと自嘲気味に笑った。
遠くの方で2人の下士官が手を振っているのが確認できる
『こんばんは、貴官らは?』
『西領方面軍第1戦線軍団第1装甲師団第2突撃兵連隊、連隊先任兵曹長、鬼怒川であります!』
『同部隊、第2中隊中隊付下士官の基肝一等軍曹であります!』
国防軍式敬礼をした彼らに、これまた空軍式の敬礼を返した。
この方が無難だ。
『はて、僕は下士官を頼んだわけではないのだが、ああ!、罵倒しているわけではないよ』
柴田はどこへ行った。というかなぜ下士官が?。結構偉いタイプの下士官がなぜ?。
『将校殿の代わりに自分たちが、その、呼ばれたのであります。柴田中佐殿は青瀬高級戦闘大隊指導者殿の自室へ向かわれました。』
鬼怒川兵曹長がそう答えた。
ハァ?、僕の部屋?
勘弁してくれ!
『まじか!、いや待ってくれ待ってくれ!。すぐ向かう!。ああ、貴官らは待機しろ、車はいつでも出せるように。3分で済むならトイレに行って構わん!』
『は、はっ!』
指導部に向けて、走り出した。
これでも元陸上競技部だ!
現世のモノとは違うがね…!
『あっお』
道行く下士官兵が怪しいものを見るような目で僕を見つめるが、すぐに僕とわかったらしく、敬礼をしている。
『青瀬中佐?。早かったな、貴官国防軍から召集がかかっているぞ』
誰か、廊下の先から話しかけてくる。
フォン・シュタウフェンベルク大佐だ。
『ちっす!。いやそれはわかってる!、ちょっと退いてくれ!』
『ああうん。ああ、そういえば貴官の部屋に国防軍の将校がいたぞ』
僕があまりに頑張って走るものだから、少し驚いているらしい、いや本気で退いてほしい。
『……それもわかってる!』
『ああ、そんな怒らなくても』
親衛隊員ーとはいえ、警察官や武装親衛隊員など様々な者たちーがパッとこちらを見つめる。
『すまんね大佐!。忙しいんだぁ!』
『そうか、…転ぶなよぉー!?』
そう言い、走り出す。
彼の白い肌を省みることなく、次に、柴田のことを考え始めた。
走りながら考えるものだから、頭から酸素が失われていく……。
"第11高級大隊指導者寮"その看板と衛兵がいるのが…
『…見えた!。』
『Halt!。Zeig mir Papiere!。Fräulein!』
曹長と見える衛兵が話しかけてきた
『第2分隊、青瀬幸輝SS上級准尉だ!。通せ!』
親衛隊の手帳をバッと見せ、そして彼の敬礼も、形ばかりの親衛隊式答礼で……。
よくも柴田のやつ、通れたものだ!
おい、というかあの曹長Fräuleinって言わなかったか!
『柴田上級中佐はどこだ!!』
僕も、中佐を、、甲種勲章持ちの中佐を叱れるほど偉くはないのだが、その程度は許してほしい。
一応国防軍少尉相当官ー三等陸尉ーであるので、本来なら僕が遅くなってすいませんと言う側だ。
『うるさいぞ、青瀬』
『おおぅいやがったな!。よくも僕の部屋に勝手に入りやがりまして、絶対許さんぞ!』
後ろから声をかけられ、驚きの後、彼女を罵倒する。
相変わらず前線将校用の長袴を履き、せっかくの美脚を隠している。
さて、親衛隊だけでなく、国防軍や参謀本部の連中にもなぜか知られていることだが、僕は、既婚者だ。
そして妻はSSの上級大尉で三等陸佐。
現世の軍隊なら、妻ーまたは将来を誓い合った幼馴染ーが戦地で働く男のため、焦がれる恋心を抑えながら無事を祈るという感じであろう。
だが僕らは違う。あの子は僕よりも強く、賢く、気高く、気品があって器がある、可愛いし、美人だし、優しいし。
かの赤い英雄のような言い回しになってしまったが、まぁともかく、同じ軍人なのだ。
結婚した不老不死の夫婦は、どうやら優遇されるらしい。
相部屋だ。今も部屋はあの子の澄んだ香りに包まれていることだろうな。
当然、私物もあるわけだからな!。
どんなマンガがあったどんなベッドだったどんなフンイキだった
それだけでも噂の種となりかねん。
『そんなキレるなよ』
『プライベートというものをご存知か貴官は』
『早く行くんじゃないの』
ああわかった。____クソ女ッ!!
部屋の扉を開け…やはりあの子はいない。メモも無いから、どうやら夕飯は兵隊食堂で済ませてねということらしい。
ギョーザと白飯だな。
『たくっ、なんたって国防軍の駐屯地で』
悪態を吐きながら、私服を脱ぎ捨てる。
黒い親衛隊の制服を身につけ、上着のベルトを締める、右腰のホルスターから自動拳銃を、ベッドへとほらくり、回転式拳銃を差す。そんな扱いを受けたソレも、上着のポケットへとしまい込んだ。
左腰にも同じように指して、裾を下ろしてはホルスターごと隠した。
髪に櫛を入れてからマントを羽織り、制帽を被る。
野戦用の鋭剣を左手に持ち、部屋を出て、鍵を閉めた。
『3分だったわ』
『補助員か何かの真似事か?。測るな時間を。よしさっさと行くぞ』
解体剣を左腰に付けながら早歩き、またあの下士官と会う。
答礼をほぼ同じタイミングで行い……、ついつい笑ってしまう。
金川兵曹長だっけ?、忘れた、わからん。がこちらに向かって手を振っている。近くには軍用車両が1台止まっていて、、国防軍のものらしい。
『ご苦労だったな、兵曹長!、ほら柴田早く乗れ!』
随分ぞんざいに扱ってしまっているが、まぁ気にしない、物みたいなもんだコイツは。
車に乗り込み、下士官を顎でしゃくってこんにちは。
基肝一等軍曹は欠伸をした後、僕が準備を完了させていたことに気づいたのか……驚いている。
折襟のSS将校がいることぐらい気づけ!
一応戦闘中佐だぞ…?
国防軍にだって指揮権があるんだからな
『で、なんでいきなりこんなことに?』
『治安維持法違反、重業務過失、一家皆殺し。これで理解してくれ』
『はいはい、なるほど…そら大変だ』
柴田はまるで他人事らしい。まぁ、治安維持法違反と言っても軽いものに分類されるものだから、厳重注意や無職への強制、その程度に納まる。
一番は?
もちろん共産主義者どもだ。
本当に意味が無いのだ。親衛隊の義務を果たしているようで、本当はそうではない。
『……〈もしもし、さっきはすまなかった、…それはそれとして、お前は一応、国防軍では少尉という扱いらしいな〉』
『〈もしもし、ああ?、ああ、そうだけど〉』
シュタウフェンベルクが電話をかけてきた。いや謝ってそれかい!
名誉階級の方が適切だと思うが、一時期国防軍の降下猟兵隊にいたものだから_____その時曹長であった僕には小隊長の役職が与えられたのだ
迷惑極まりない…と、言いたいが国防軍から給与も頂けるので黙っていることにしよう。
やってもいない努力を自分の物とするのはバツが悪いけどね。
『《大丈夫か?。やつは少佐だ、大隊長だぞ。あいつも一応友達はいる。私はゆーあーふーると言われたが〉』
『〈僕だって高級戦闘大隊指導者だぞ?。それに、部下も無能じゃあない、いや、うーん。まぁともかく国際問題だな。殺して吊るして逃亡兵と晒してやろうか〉』
『〈貴官の部下が貴官を呼び出したと聞いているが、……移動集団のつもりか。〉』
『〈どっちもその通りだ、大佐。〉』
煽っているようにそう語るシュタウフェンベルクは、電話の奥で少しの笑みを見せた。
義勇兵なので国際問題にはならんがね。
彼自身バレンタインの日にHakenkreuz型のチョコを作ってくれと僕にせがんだ程、ブラックジョークがお得意だ。
夜戦憲兵隊に志願したが、認められなかったために突撃隊に入ったらしい
なぜか?。夜戦憲兵隊の部隊章がかのナチスの紋章だからだ。
回転する鎌をイメージしたそうだが……。ユダヤ人の人権団体をどう回避したのやらね。
『〈スコルツェニー少佐はどうだ?〉』
『〈おい、間違えているぞ。彼は戦闘少佐だ。かなり努力したそうだから覚えておいて上げろ〉』
『〈そうか、…この任務が終わったら突撃隊で食事会でも開くかねぇ。ああいや、被害者もなんとかせねばならんな〉』
『〈それには賛成だ、白熊部隊にウォッカを頼もう…いや、貴官は呑めないのか〉』
『〈呑まれないのも将校の義務だよ、大佐。〉』
『青瀬中佐殿、もう到着します!』
『〈……さて、また会って話そうではないか、大佐殿〉』
金川か基肝か柴田かわからないが、声がした。ついつい盛り上がってしまったらしい。
『Ja. Sieg Heil!』
『Ende.』
電話しながら彼はSS式敬礼を行なったのだろうか、勝利万歳と言った彼の声を聞きつつも、僕はそんなくだらないことを思った。
携帯を片付け、鋭剣の鞘を左手で支えた。
『降車のご準備を。』
『よし、貴官ら。ブチ切れたSSの将校を何とか宥めている体でやるぞ、柴田、僕が偉く見えるように頼むぞ』
『はいよ』
『了解です!』
基肝一等軍曹が元気よく答え、柴田上級中佐は快眠のような見た目をしてぞんざいに答えた。
衛兵から敬礼を受け、駐車場に停車し、各員が態勢を整える。
車を開けた。
『904のくそイヌどもが!、どこにいる!!』
車から出て、戦闘中佐の階級章をまず晒しながら怒声を張り上げる。
設定としては、こうだ。
"話し合いで来た突撃隊員が国防軍人を罵倒したということで、親玉たるSSの高級将校が直々に謝罪しに来た"
"国防軍人たる柴田たちは何とか宥めるが怒りは収まらず、ブチ切れるSS将校、始末書ものだと焦る国防軍の下士官たち"
まだわからないが、本当に白狗部隊が絡まれているならばこちらが怒る理由になり、責任は国防軍の伝令兵に転嫁できる。
ざまを見ろ。
『いえ中佐殿…!、それが』
『貴官は黙りたまえ!』
金川、良い演技だ。センスが良い。
『さっさと案内しろッ!。SSの部下の落とし前にはSS式のぴったりなものがある!』
柴田上級中佐の首根っこを掴み、顔の近くで怒鳴りつけた。
この女、悪口の言い過ぎでかぶが下がっていたらしいが、まぁ、知らん。
同情でもされたならウィンウィンだけどな。
『だが、な、中佐殿。こちらとしては秩警を待った方が良いのではないかと思って…』
『おい、貴様。僕を疑うのか?。くそったれは突撃隊に要らん、僕が撃ち殺してやる!』
ホルスターを指差してさらに怒鳴りつけた。
怒るって案外難しいな。
夜戦憲兵である今でも、亡者への降伏勧告はややソフト。
だって喉枯れるし、良いことないもん
『落ち着いてください!。中佐殿!』
基肝お前語彙力ねぇーなぁ…と、理不尽な毒を心の中で吐き出してから、周囲を見回す。
陸軍兵どもはほとんどが凍りついており、何か言おうとした下士官も、周りに止められて気分が悪そうにしている。
ごめんね部外者ども。
将校どのを憎むんだな、不合理だけど
『退け!。貴官さては節穴か?。僕は帝国軍戦闘中佐、青瀬だ!、退け!』
なぜか始めと終わりを退け、で締めてしまった。
まぁいいや、衛兵ビビってるし
『し、親衛隊中佐殿』
『なんだ貴様、今更この司令部ではないなどと言うのではあるまいな』
『い、いいえ』
『こっちか』
通信室を抜いた全ての部屋を大きな音を立てて開けていく。
さて、当たりはどこかな……
『おい____ん』
こっちか!!。早すぎか!、なんで1発で引き当てるんだ、心の準備できてないぞ!
まぁいい、やってやる
『ああ青瀬中佐殿!』
勝本……みたいな顔をした女性SS少尉が声を上げる。
『動くな貴様ら。国防軍もだ』
できるだけ低い声で見回す。
内藤は…ああ、いたー…
めっちゃ驚いてるじゃないか、こいつ芝刈り機とキスさせたくなるような顔してんな、相変わらず。
『一番階級が高い者、国防軍と親衛隊それぞれ1人ずつ名乗れ』
『こ、国防怪軍強襲砲兵中佐!。川崎だ』
『親衛隊降下猟兵少佐…!。吉廣であります!』
『ならば川崎、貴官から尋ねたいからこちらに来てもらおうか』
『おい』
高く、アンモニアに××がついたような声が響く。内藤少佐だ
うわっキモ。
ていうか吉廣少佐って誰だ?
『SSが入ってきて調子乗ってじゃねぇぞ』
よっしゃキタわ、ボコボコにしてやろう。国防軍人が親衛隊員馬鹿にできると思うな。
『ああ?。』
マントから弾道ナイフを取り出し、殴りつける。ナイフは
鞘から抜いてないので、警棒がわりになるんだぜ!、これ!
『ぎゃあ!』
はっ、ざまぁ!。
今、僕の理性が西領軍第16幹部養成学校の学生並みに急上昇した。
倒れた彼は起き上がろうとするが、許さない。元よりいつかは殺すつもりだから、まだ前座だよ、
『このちくしょう!』
彼も僕の脚を殴ろうとするが、幸運なことに避けることができた。
顔を思い切り蹴り、彼をテーブルの椅子へ輸送した。
そのまま顔を踏んづけ、ぐりぐりとしてやった
ここまでなぜか陸軍兵も、親衛隊員も誰も彼を助けようとしない。
いや、さすがにかわいそうだろ?
助けてやれよ。僕が止めればいい話だけれども。
警棒をマントに片付け、同時にP09を取り出す。
空間魔術万歳!。
拳銃を向け、怒鳴りつける。
『さて、少佐!。ごめんなさいすれば外道は避けてやるぞ』
『…………』
『………』
『……』
『…気絶しやがったな』
拳銃をしまった。
……結局踏み止まってしまった。
殺さなければ、殺したい、殺す、殺す、殺せれば、殺せれば。
良かったのに。
なんだか演技のはずだったのに、本気で怒ってしまった。
後ろを振り向くと……
震える白狗たち。国防軍兵は一部立ち尽くしているが、警戒の色を浮かべ、気の利いた伍長と不幸な三等兵曹が担架を持ってきていた。
ここまで人を一方的に、理性を保ったまま殴ったことはない。
普通ならMP11の9×39mm強化魔術弾丸の猛連射だ。
1分間に1200発もの撃弾を食らわせるのだ、並大抵のことでは避けることなどできない。
『さて、僕を呼んだ指導者は誰だ』
・鋭剣
モデルは大日本帝国軍の三十二年式軍刀。
高級下士官や戦闘将校が手にしているものです。
切断魔術による余りの切れ味から、解体剣とも呼ばれます。
山岳猟兵の標準装備です。
スコップと同じですが、制作元がかの有名な村雨ということで、刀身に水分が宿っています。手入れ知らずです。
・相当官階級
帝国軍ではその国民性か、それとも個人の質が高いのか、国防軍や親衛隊と区別されているにも関わらず、組織を超えて共闘することが顕著に見られます。
その働きはもちろんしっかりと評価され、勲章以外にも限定的に他組織への指揮権が得られる"相当官階級制度"を、帝国軍は認めているのです。
〇〇相当官などと呼ぶのは煩わしいので、自衛隊の階級風に呼びます。
例として作中での白木舞は『親衛隊高級中隊指導官及び三等陸佐』という階級を持っています。