ー第4話ー
おおう1ヶ月も
西領の都市____
数時間前の喧騒は息を潜めて、おらず、、秩序警察は相も変わらず共産主義者を殴り飛ばし、路地裏へ連れて行っていく。
今すぐ加勢しにいきたいが、今は潜入捜査官だ。仕方があるまい。
『お姉ちゃん!。早く早くぅ!』
『待ってよ〜!。お昼は逃げないわ!』
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突撃隊
およそ200年前ー大皇陽帝国時代ーから存在していた独立の強襲部隊。
帝国陸軍に12個連隊存在していたものの総称である混成部隊を指す。
第1次世界大戦や台湾事変などで活躍したが、そのあまりの残虐さから戦後処理に置いて解体を余儀なくされ、一時的に消滅した。
現在では5個大隊で構成され、親衛隊特務部隊の指揮下にある。
第二皇陽帝国時代に入ってから、親衛隊保安部の執行部隊である親衛隊治安維持介入部隊の一部からできた。
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・親衛隊保安部
特殊犯罪に対しての責任を負う警察組織。
1.治安維持介入部隊…突撃隊とほぼ同じ任務を持つ、執行部隊。
2.保安警察…現世に対する調査を行う警察。
3.高等警察…ネット犯罪など、犯人が比較的不鮮明な事件に対する調査を行う警察。
4.特別高等警察…思想や宗教犯罪に対する調査を行う警察。
この4つの組織で構成される。
略称は『SD』
親衛隊特務部隊と同等の地位を占め、保安部が調査し、特務部が実行に移すという相互依存の関係で帝国を守っている。
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『……慣れてるな、少尉』
彼女の耳に口を近づけて、こっそり囁く。
僕はまぁ…"一姫二太郎"の次男坊だ。
甘え方も我慢の仕方も、心得ているーと、思いたいー。
経歴書を見れば当然わかるが、水瀬少尉は一人っ子のはずだ。
以前指導部で『あー、弟欲しい』なんてつぶやいていたのを聞いたことがある。
『はい、この程度お任せを。』
『日頃から妄想していたわけではないな?』
『…………じゃ、行こう!』
『うん!』
はぐらかしやがった。
まぁともかく今は、現場に向かうことが先決である。
現状我々は、多くの書類をわざわざ作成して件の介護事務所に接近する予定であった。
まず、戸籍の変更。
我々第1分隊の各々は、水野という、人間にすると89歳ぐらいの女性入居者の家族ということにしていた。
単純にこの人しかいなかったというが、楽ーで、残酷ーなことに、彼女は半分以上認知症であったから、SSの工作員が入り込むだけですぐに、家族だと錯覚された。
すでに家族は皆、日亜戦争後期の掃討戦に巻き込まれて死亡しているはずだが、どうして家族だと思われたのやら?。
2つめも同じようなものだが、住民登録だ。
2、30年前からここに住んでいるという風に工作した。
国家の任務であり、自殺未遂事件を解決するためなら……問題はない。
3つ目は、職業登録だった。
僕は都内の親衛隊指導者学校…だったかな?
の初等部生徒として。
水瀬少尉は、都外にあるスーパーマーケットの職員として。
諸事情でやっと復帰したという設定だ。
月輪少尉は帝都親衛隊大学、指導者過程工作兵学部の2年生として。
本人は高卒らしいが、ついでに気分だけでも楽しませてやろう。
中之上等兵は帝都のSS秩序警察交通整理官。
陸上憲兵隊に呼ばれる前に従事していたらしいから、問題はない。…野戦憲兵をやっていたと聞くが、こいつまさか並の兵じゃねぇな?。
最後に、嶋津伍長は東州の陸軍士官学校の助教。
教員免許を取っていたらしいから、活用させていただいた。
つくづく頭の良い使い所のあるやつらだな。
『……ねぇねぇ!、お兄ちゃんって最初何のお仕事してたの?。』
=『お前は一体何者なんだ』
『秘密だよ』
=『履歴書の通りであります』
『そうなの?、後でお話ししてくれる?』
=『そんなわけあるか。後で聞かせてもらうぞ』
なんだこの会話。まぁそっか。
突撃隊だもんなぁ……。
陸軍士官学校高等部でもこんな感じだったじゃないか、イベリア半島帰りの帰国子女だとか、イギリス帝国軍貴族少将の親戚だとか、国家衛生局の孫娘だとか。要は変人ばかりさ。
結局陸軍に入ったのは複数の女子と僕だけであり、未だ国防軍である人物は右手ほどの人物しかいない。
近頃はどうやら、国防軍と民衆間の絆を深めるためか、全ての中高校は陸軍士官学校となっているらしい。
まぁ徴兵制を導入していない祖国であるから、別に卒業後無理して入隊しなくてもいい。
連帯感や積極性を養う場として、士官学校の評価は高いのだ。
ー現世の話になるがー自衛隊幹部学校や警察学校とは違って丸坊主にする必要は無いからね!
大学で医学部や経済学部に入る子もいるし、僕だってすぐ武装親衛隊に編入させられた。
後は、国防軍と親衛隊が仲良くしてくれればそれでいいな。
今回の任務、最終目標は『きづき』全員の銃殺であるから国防軍にも話を通さないといけないし、
今の時点ではまだ何もできないが、後で黒猫部隊から誰か飛ばすとしよう。
新田少佐を向かわせるわけにもいかないし、できるだけ、周りに迷惑はかけたくない。
とは言え本当は、こんなことする必要は無かった。国会で採択された『労働基準法』の新たな項、"労働者と経営者間の関係に付く"。
ざっくばらんに言えば、態度が悪く迷惑なやつは、労働者にしろ経営者にしろ、間接的に経済にかなりの不信感をもたらすわけなので、罰するなりクビにするなりしていいよ、ということである。
もちろん第三者機関、名前を言うなら『親衛隊労働保安部』に調査を依頼する必要があるのだが、まぁ、背に腹は変えられんだろう。
これに訴えて法的措置を取ればいいだけ。
親衛隊は民衆と関わりが強いから、民衆がいなければ実質国防軍にでかい顔などできないから。
民衆の支持を以って親衛隊は民衆を殺せるのだから。
『あっ、兼政だ、おーい!』
中之が車を走らせてくる。
民衆に化けれただろうか。
さぁ、車に乗り込む頃合いだ、"弾倉を銃へ、遊底を引け"。
殺す気があるうちに殺してしまおう。
『久しぶり!。こうきくん!』
さすがのサヴァツキ大佐でも許容しかねるような、そんなあざとく遅い走り方で彼に近寄る。『兼政お兄ちゃーん!』などと言いながら。
身長はどうやら、この世界ではあまり関係がないらしい。
そういえば本当の陸軍士官学校初等部にいた時も、当時140cmも無かった僕と同じくらいの大きさの教官がいた、大草大尉、とかそんな感じの名前だった気がする
『ちゃんと勉強してた?』
『うん!』
会話が、途切れる。ああどうしよう
野戦憲兵隊は任務の特性上、対象の家族、大事な人や友人に化けて捕縛するという手法が採られていた。
かくいう僕も、ある女性亡者の弟に化けて捕縛したことがある。
これほどまで小ちゃい子に化けるということが難しいとは知らなかった。
初等部の時のことはあまり覚えていないと言えば覚えていない。
だが、少しばかりの余裕でもあるハズだったのに。
『久しぶりに会って緊張してるのね。』
『はは!。まぁ車に乗りなよ、それから話そう』
SSの軍用車ではなく、普通の車両。
乗り込む時に短機関銃や軍刀を支える必要がないというのは、実はひどくご無沙汰だ。
兵どものように小銃を車に投げ込む経験は少ないが……。
『で、上等兵。貴官は……』
『は、中佐。事務所は間違いなく西諸市粟森町第六番地47−7であります。』
『ご苦労。さて、水瀬少尉、嶋田伍長、手筈通りに。』
ここで突入とかましたいのは山々だが、さて、やつの人格を見てやろう。
僕は付き添いで来た子供という設定であるから、まぁ、大丈夫だろう。
利用者さんに聞いた話では、職員の趣味でマンガを戸棚に並べているらしい。
『中之上等兵、貴官怒声か何か聞こえなかったかね』
『ヤケに静かでありましたが、どうしてですか?』
『いやなに、次の被害者が怒鳴られているのではないかと思ったのだ。』
僕の皮肉を込めた言い方に、月輪が少し笑った。
『ああそうだ月輪少尉。西領軍への通達はどうなっている』
こと、我が国の自殺志願者の数はかの法律の制定によって減少はしている。
だが、困ったことに自殺教唆のー、というか、パワハラセクハラをしたー犯人が海外へ逃亡するというケースもあった。
こればかりは国防軍に怒鳴り込みたくもなるが、彼らにしてみれば親衛隊によって勝手に法律が制定されーたというか、国防軍は何も言わなかったと行った方が正しいー、ただでさえ国境沿いで警備も大変だというのに自国民の面倒を見ろと、親衛隊に押し付けられたのだ。
日亜戦争で大陸へと手を伸ばした我が祖国も、その辺問題は多い。
『白狗部隊の連中がやってます。現在氷室大尉が指揮を取っているとのことですが』
『そうか。…何、氷室大尉が?』
『白木上級大尉殿は今回の任務には参加できないということで、また家族のことであるので一度実家へ帰られました』
『そうか。……内藤少佐には会っていないだろうなぁ、あいつら』
なぜ僕に連絡が無かったのか、という疑問は当然ながら浮かんでいなかった。
先程猫の手を開いた際、舞から何か長文が送られてきていたのだ。
………、
いつ、僕とて呼ばれるかわからない。
ふと、士官学校時代の嫌な奴を思い出し、身震いしてしまった。
軍法を無視しても射殺したくなる外面と内面を持った、国防陸軍少佐、内藤良亮。
不合理ながら、彼を思い出すだけで僕は仕事への意欲が湧いていく。
覚えてやがれ、いつかお前も____
『誰が担当しているかなどはわかりませんが、苦労しているそうです。突撃兵連隊の連中に絡まれているそうです』
『フォイヤァフライと言ってやりたいね。この緊急時にどこのバカが。』
頬杖と悪態をついた。
悲しいことに今の僕は、どう説得するか、より、どう殺すか、に念頭を置いてしまっている。
非常に、非常に悲しい。
『まぁ、いつ僕も実家に召集されるかわからんがな。』
『…もう少し待ってほしいものですな、もう到着しますよ』
実際のところ、自殺未遂者というのは高級大隊規模以上で面倒を見ることになっているから、僕や舞が欠けても問題はない。
高等部だった時に学んだのだ。ルールは時に二の次にすべき時が来ると。
何も大層なことではない。
捜査自体は黒猫の1個分隊に任せておけば本当に何でもないので、あとで舞のストレス発散にでも付き合うつもりだ。
武装SSの時は休めなかったが、特務SSの今は違う。
"見回り"ですからねー!
『あとで国防軍司令部に行く。…〈もしもし、柴田上級中佐!、空森大尉と西易少佐を連れて来てくれ。30分後に西領軍司令部に行くから用意しろ、ああ、軍服で〉』
人選は、はっきり言って顔採用だ。
比較的剛面だと言われている国防軍の知り合いを呼んだ。
柴田は士官学校時代の同期で、キッツイ印象を受ける女性将校だ。
空森と西易はまぁ…友達の友達程度だが、使える。
『さぁ降りる準備だ、撃つなよ』
『中佐殿、拳銃を置いていってはいかがですか?』
『無駄だろうな、僕は氷結資格持ちだから』
そのまま切り裂いてしまいそうになるだろう。
遠くない未来だが
『…ん?。〈はいもしもし、ああ、皆塚少尉殿、どうされました?。はい?。青瀬中佐を?、はい、了解です〉……中佐殿、皆塚少尉が、西領軍司令部に来て欲しいです、と』
嶋津伍長が携帯を取った。
少なくとも兵からではないだろうが、誰だろう、皆塚少尉って。
『誰だ、皆塚って』
『白狗部隊の工作兵将校です。』
『……ああわかったよ、ちくしょう。では諸君らで調査に行ってくれ。……〈もしもし!。柴田上級中佐!。すまないがすぐに用意してくれ、予定が変更になった。ああ、ああわかったジュースの一本でも奢ってやる!。後15分だ、はいよ、以上!〉』
水瀬らに事務所の調査に赴くよう告げ、その後、黒猫部隊の兵を呼び出しては、車を降りた。
・氷結資格
皇陽帝国では科学と共に魔術が非常に発達しており、もちろんそれらは軍事利用されています。
ですが、光や風など自然魔術は意外にも地味で、自衛程度にしか役に立ちません。
(炎や天候など例外もあります)
数少ないですが、氷結の自然魔術などは氷を刃物状にできたりできるため危険であることにより、資格制が導入されています。
ちなみに、氷結魔術の資格持ちは身体が常に冷たく汗をかかなかったり、迅雷魔術の資格持ちは異様に静電気が溜まりやすかったりするなど、身体的特徴が顕著になるようです。