ー第1話ー
『おい!、ビルの端っこに人がいるぞ!』
ここは皇陽帝国西領都・都首県、
国防軍の第3方面軍…の、司令部がある都であり、商業や観光業が盛んである
そんな西領都の繁華街では、親衛隊の下組織である秩序警察が民衆と共に、慌ただしく走り回っていた。
『……桜井、聞こえるかい』
その様子を僕、陸上憲兵隊の上級下士官である青瀬幸輝は親友の、同部隊下級将校、桜井夏樹と共に見ていた。
車の窓を閉める。
無表情の重騎兵が車を少しばかり進ませていく。
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青瀬 幸輝
帝国軍の上級下士官である少年。主人公。氷を操る能力を持つ。身長154cm
行動派で、味方である秩序警察の上官すら利用しようと企む悪いやつであり、現在の戦果確認は国民含めて48名
反面、人を思いやる気持ちが余って行動を阻害されることがある。
既婚者である。
作中では"中佐"と呼ばれているが、これは相当官階級であり、本来の階級は『上級准尉』
ちなみに丁寧に言うと『高級戦闘中佐』…Kriegsstandartenführerとなる。
優しい人物ほど、臨界点に達した
時がやばいということで…?
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秩序警察
帝国軍一般親衛隊に属する国内警察組織の総称、略称は秩警。
主に交通警察、刑事警察、警備警察に分かれる。
作中での青瀬らの立ち位置は『補助警察』であるが、交通や刑事などあらゆる事件に対して捜査できるため幅が広い。
基本はPoG−A7警察小銃、MP11短機関銃を装備している。
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『うん。さっきちらっと見えたけど。あれは秩警や』
『さすがに袖章は見えへんかった?』
黒い制服に灰色のー警察官であることを示すー腕章を付けた親衛隊員が人々を押し、人々が彼らを写真に撮っている。
無線で速やかに会話するため、部隊を確認する必要があった。
『見えへんかった。たぶん第3中隊の連中やと思う』
『…おう。〈えー、こちら陸上憲兵隊第11高級大隊。繰り返す、こちら陸上憲兵隊、事態の説明を〉。』
『…〈こちら秩序警察第2中隊、こちら第2中隊。ビルの上に人がいる、恐らく自殺しようとしている。現在第3中隊が事態の収拾に務めている。繰り返す〉』
秩序警察官の声を聞きながら、僕は答えた。桜井に銃を持つよう指示する。
短機関銃を左手に、無線を右手に持ち、重騎兵に頷いた。
『…〈わかった、では我々は隣のビルから空挺降下で救助する。繰り返す、隣のビルから空挺降下する〉』
『…〈…わ、わかった。我々は落ちた時のために布を用意しておく、繰り返す、布を用意しておく。〉』
『〈ありがとう。通信終わり。〉……二等軍曹、あそこの建物の裏で待ち合わせだ。』
ドアを開けた。重騎兵の下士官は空軍式敬礼をし、僕はそれに親衛隊式敬礼を返す。
髑髏がつけられた軍帽を整え、民衆を掻き分けていく。
『道を開けろ、親衛隊や』
歩きながら思う。この種の事件には正直、微妙な感情しか抱かない、本当に微妙。
我が日本第二皇陽帝国は現世の日本と同じくらい自殺率が高く____
どんなの、というと墜落死、毒死、焼死、絞死が主。
そこで軍は、ある恐るべき報酬を考え出した。
"自殺志願者を救助した帝国軍人には、甲種勲章の受勲資格を与える"
何とも、何とも…言えない。
確かにこの決断で自殺志願者は救えるだろう。
帝国軍人は他人の生命に触れることができるだろう。
『青瀬』
しかし自殺志願者、というのはもっと繊細だ。僕が前世そうであったのだから判る。
まぁ、後々の面倒とやらも内包しての受勲資格だが。
『あん?』
しのごの言ってられない気持ちは解るがね。
思うところがあるのは確かだ
『なんだよ桜井…ああ、ここだな』
気がつくと、降下予定のビルの真下についていた。桜井が何度か話しかけてくれていたらしい。
『大丈夫?。考え事かい』
『ああいや、うんまぁそうだね。…たくっ、なんたって我々帝国軍人が頑張って国土を守ってるのにこんな奴が』
いるんだ?、と……ビルに入りながら桜井に愚痴を零す
中は全く何も無い普通の建物だった。
紙や机が散乱しているわけでもなく、床は柔らかい。
きっと僕たちが通らなければ髪の毛一本落ちていない新品のオフィスとなることだろう。
ま、うちとあんまり変わらないが
『うーん。多分あんまり関係ないんちゃう?。私らが頑張ってても調子乗るやつは乗るし』
『調子乗るってお前ねぇ…』
からかうように言った。桜井はくしゃっと少しだけ笑みを浮かべ、そして散弾銃を握りしめる。
『…んじゃ、行くかい』
『うい』
腑抜けた返事とともに、階段を駆け上がる。
程なくして、後ろ___正確に言うと階段の踊り場からぜぇぜぇと息を吐く声が聞こえた。
吊り下げていた短銃が勢い余って壁にぶつかり、カーンという甲高い音を響かせる
思わず2人揃って目を瞑った。
ふふっと苦笑いで仕事モードに戻り、再度階段を駆け上がる。
『士官学校卒業してから階段ダッシュなんてやってねぇよ…!』
早口かつ、ぞんざいな口調で吐き出してみた。息を整えつつ、MP11短機関銃を対象捕獲射撃に切り替える。
階段ダッシュとは、運動部が部活の時ー特に雨の日などグラウンドが使えない日ーにやっている階段を駆け上がる練習である。
もちろんただ駆け上がるだけではない。
『青瀬は体力あるからええやんか…!』
『おいおい、これから空挺降下するんだぜ?。落ちるなよ。尻拭いをやるのは秩警じゃなくて駒代閣下だからな。』
『わかってる…!』
屋上のドアを蹴り飛ばして開ける
屋上は、地上の人混みとは別種類の…陰鬱な風景が広がっていた。
ところどころから太陽光を漏らす曇天と、無機質な感じのビル群はここからなら一望できる。
さて、仕事を為そう。
『桜井少尉、お前、最悪やつが飛び降りようとしたらスタンしろよ?』
『へいへい、まぁ、臨機応変な?』
どうやらこのビルに手すりなるものは無いようだ、勢いを付けて走り出す。
空の旅へ……とはいえ、ただ降下するだけだが。
『お願いだから民衆さん、空を指差したりしてくれるなよ…っ!』
ゆったり、ふらふらと、航空魔法によって落下していく。
こちとら空挺志願兵だ!
垂直降下はお手の物…!
『………………』
いまとなってはハッキリと見えた。
後ろ姿からして、飛び降りようとしているやつは女性だ。
それも、学生じゃない。
高さは20m程度だから、まもなく着地できるだろう。
さて…お顔を拝見させていただくぜ
『Keine bewegung』
『……ひぃやぁ!?』
羽尾いぜめにしてともかく、ビルの淵から遠ざける。
その女性はひどくくたびれた顔をしていた。いかにも鬱患者ですわ、と名乗り上げそうなほどに頬は痩け、少しだけ茶色がかった黒髪はクシャクシャに傷んでいる。
しかし服装は、まるで想い人と食事にでも行くような晴れやかなものだった。
……今は真っ昼間だが。
『おっと、静かに。我々は親衛隊です。ここにいては危ないですから、お下がりください』
背は僕より少しばかり高い、が…まるで魔王に背中をむしられているように猫背になっているものだから、頭一つ分僕の方が大きい。
『桜井少尉、近くの秩警本部と椎崎中佐に連絡を。ああ、できれば白木大尉に"何か、温かくて胃に優しいもの"を作るように伝えてくれ』
『はいはい』
桜井は軍用スマートフォンー通称、猫の手ーを取り出し、連絡を飛ばしている。
さて、この人は…
『…………っ……!』
震えている。そりゃ怖いよな、いきなり後ろから黒服の兵隊さんが降りてきて、あまつさえ自分に絡んでくるんだもの。
まぁまぁ、落ち着いてくださいな
『まず、深呼吸をしましょう。ああ、もちろん、ゆっくりと。』
彼女の背中をさすりながら辺りを見回す。桜井が電話を切り、こちらに駆け寄ってくる
『白木大尉、待ってるって』
…と、同時に言った。
『了解。…さ、ここにいても寒いだけですから、降りましょう。』
桜井が屋上のドアを開け、僕の前を歩く。
女性は態勢を変えず、ただ震えていた。
……涙も枯れているらしい。
憲兵隊司令部はっ、ああ、衛生室でいいかな。
『あ、あのっ…!』
『…っ。なんだね?』
相手の目を見て尋ね返す。弱々しい生まれたての子鹿のような震えた声で、彼女は口を開き始めた。
『さ、さっきから、"白木"、と、言っていませんでし、でしたか?』
『…ああ、言っていたよ。それが…………
…っ!』
彼女の顔をよく見て気づいたことがある。彼女はとても綺麗だった、
そう、"あの子"によく似た、綺麗な顔をしていた。
『…君の名前を教えてくれないかな?』
桜井がそう言うと、彼女は顔をやや伏せながら言った。
『…はい、私は。ひ、広瀬…菜穂子です。』
『…お前たち退かないかっ!!。なぜスマホを向ける!。失礼だとは思わんかっ!?』
ビルから彼女を連れて降りると、どうやらまだまだ終わりとはいかないらしい。
この騒動の発端を一目見ようとした悪趣味な愚か者どもが、携帯やら何やらを警察がいるにも関わらず、天へと掲げたのだった。
秩警も、救助を邪魔した上にこれもとは許せん!、とばかり怒声を張り上げている。
不謹慎で余計なことしかしないクズが
罵声を何とか抑えていると、近くのー二等軍曹と思しきー警官が布を渡してくれた。
これで隠せというのか
あざっす。
『すまないね』
そういうと、彼女は小さくうなずいた。じゃっかん…目に潤みが見えなくもない。
『おい!、退けよ』
近場の若者が僕にーではなくとも、少なくとも警察に向かってー罵声を漏らした。
『アァン?』
調子に乗るな、特別獄任警察に引き渡すぞ……と、言うことはせず、少しだけ威嚇してからMP11の銃口を向ける。
国民だからと言って安心なさんな。
国境付近じゃあ共産主義者を銃殺してるんだぜ?、
『ひっ!』
『帰れ』
さながら人質を伴った強盗のように、人混みを掻き分け車に戻った。
スマホを取り出して、妻に電話をかける。後部座席には桜井と広瀬さんが乗っている。
『…〈はい、もしもし。こちら陸上憲兵隊将校団白木舞上級大尉です〉』
『〈もしもし、僕だ。青瀬だよ〉』
『〈あ、青瀬くん?。どうしたの?〉』
一度息を吸い込み、尋ねる
『〈…舞はさ、ここ最近実家や親戚と連絡は取っているかい?〉』