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第9話

「………待ってください。罪は認めます。だけど、ちょっとした興味から来る出来心なんですよ。嘘をついたことは謝ります。それに後でちゃんとミアの身柄は引き渡すつもりでした」


地を這い、保身を図るリックの姿は滑稽であり、その姿にゲオルは不快そうに眉をひそめ、近くで見ているサモアドはおかしいものを見たとニヤニヤとしている。

リックにとってこの現状は心地よいものではないが、プライドを捨てて現状を受け入れなければ生き残れないのだ。


「調子のいいやつだな。どちらにしろ、前例がないから、私の一存では君の所存は決められん。一緒に街まで来い」


「大丈夫です。抵抗する気はありません。………ところでミアをどうする気ですか?様子を見てて、というか今さっきミアを連れて行くのを見てわかったのですが、騎士様達はミアを意地でも生け捕りにしようとしていますよね。獣人は即処刑の帝都治安部隊が、なぜただの獣人に執着するのですか?」


「………下手に出つつ、情報収集か?抜け目ないやつだな?確かに我々はあれを生け捕りにしようとしているが、なぜかは知らん。所詮は帝都治安部隊も上に動かされる駒にすぎないということだ」


「情報収集というわけではないですよ。ただの好奇心です。それで、ミアをクラーって娘に任せて大丈夫ですか?最初にミアを捕まえた時に逃がしてしまったのはクラーですよね?

あっ、これは情報収集ではないです。捕まえたミアがまた逃げたとあれば立場が悪くなりそうですので…少し確認をと」


「よく喋る奴だな。君のことはよく知らないが、らしくないということはわかるぞ。どうした?焦っているのか?」


らしくない、それはリック自身が一番感じていることだ。

妙な詮索をすれば立場は悪くなる一方ということを頭で理解しつつも、リックはつい口を開いてしまう。


治癒魔法が使えるリックは、その貴重性から大人しくしていれば悪い扱いを受けないことは明白だ。

リックが今すべき保身は疑問を持たず従順に動くことであり、捲し立てて質問攻めにすることではない。

質問攻めにして余計なことを知ってしまえばそれこそ命が危ない、にも関わらずリックは質問をすることを止められなかった。

集めた情報で交渉をするためという、明らかに間違っている大義名分で無理に自分の頭を納得させようとすらしていたのだ。


「………質問には答えていただけないのですか?」


「そもそも君の質問は根本が間違っている。クラーは別にあれを逃してはいない」


「逃がしてない?騎士様方の口ぶりだと、クラーは今回の件で大きなミスをしたのですよね?」


「確かにクラーは過ちを犯したが、それはあれを逃がしたことではない。そもそも、君はあれがどうやって逃げたか聞いていないのか?」


「………隙を見て逃げたとしか」


「間違ってはないが、重要な情報が抜けている。正しくは隙を見て見張りを殺して逃げた、だ。あれは我が隊の新入りを殺して逃げたのだよ」


「………」


「殺したという事実を伝えられてなかったようだな。獣人に失望したか。君もわかっただろう、獣人とはそういう存在だ。君からの庇護を受けるために印象が悪くなる情報は隠す。身勝手で卑しい存在だ」


「………身勝手で卑しいのはあんたらだろ」


「………ほう」


「さっきミアを生け捕りにした理由をわからないと言ったな。あんたらは自分の地位や名声のために、言われるがままに幼い少女を捉えた。面白半分に痛めつけた。それで、少ししっぺ返しをくらったら被害者面とは心根が腐ってるとしか思えないな。

ミアはあんたらの拷問のせいで追い詰められて殺人まで犯した。だけど、それでもまだ人間とは話し合えば分かり合えると信じている。俺を含めた人間よりよっぽど純粋で優しい。

………お前らみたいな身勝手で卑しい存在に、ミアを貶す権利はないんだよ!」


「君はずいぶんとあれを贔屓にしてるようだ。確かにあれが人間なら私も同じように思うだろう。

だが、あれは獣人だ。そういう世界なんだよ。種族1つで理不尽がまかり通る。単純でいいではないか。人間と獣人なら人間が上。全ての生き物に上下関係があれば、裁判なんてものは不要なんだよ」


「………本当に身勝手で卑しい奴だな」


「そう思っても構わんが…このまま悪の権化のように思われるのは癪だから1つだけ教えてやる。あれを拷問したのはちょっとした不始末だ」


「………どういうことだ?」


「クラーがストレス発散で勝手に死にかけるまで拷問したのだよ。それが、クラーの過ちだ」


「なっ!」


リックは驚きのあまり目を見開く。

この男はそんな危険極まりない地雷にミアの連行を任せているのかと、リックは憤りを感じずにはいられなかった。


リックは怒りのまま立ち上がり、目の前の男に殴りかかりそうになるが、辺りに響いた悲鳴がそれを未然に防ぐ。


「ああああああああああああぁぁぁ!痛え!なんだ、テメっ!死にぞこないが離せ、クソッ!」


リックやゲオルを始めとした帝都治安部隊が悲鳴がした方に視線を向けると、そこには全身に火傷を負い、もはや個人の判別すらできなくなった獣人に頭を掴まれている1人の騎士がいた。


「………ミアの姉か?」


リックには大火傷を負っている獣人というのはミアの姉以外に心当たりはなかった。

それはゲオルも同じようでパチパチと拍手をしながら口を開く。


「すごいな、生きているとは。獣人は頑丈だな。だが、無意味だ。

そこの獣人。命令だ、離せ」


ゲオルが厳つい声でそう言うがミアの姉は騎士を離そうとしない。

命令をきかないことにゲオルが不審がってミアの姉を観察してみてようやくあることに気がついた。


「首輪がない。炎で柔くなったところを獣人の力で壊したのか…理性がないくせに小賢しい」


ゲオルがそう呟くと、ミアの姉は頭を掴んでいない方の手を、未だに悲鳴を上げる騎士の首へと延ばした。

首を掴まれた騎士も、周囲で見ていた騎士やリックも首を絞めるものだと思ったが、違う。首に手をやった理由は体を固定するためだ。


ミアの姉は首を掴み騎士の体を固定すると、そのまま掴んでいた頭を横に振りぬいた。

体は固定されいるため動かないが、頭は横に振りぬく。つまり、騎士は頭部を引き千切られたのだ。


その瞬間、辺りに響いていた悲鳴は止み、代わりに騎士から吹き出した血がミアの姉を濡らしていた。

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