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第8話

「お、お姉ちゃん?あそこにいるのは、帰ってこなかったっていうミアの姉か?」


リックがそう問いかけてみるが、ミアは呆然としてたまま質問に答えることはなかった。

代わりにゆっくりと玄関にいる獣人の少女の元に歩み寄ろうとするが、リックが進行方向に立ち塞がるように動き、それを阻止する。

ミアがリックに抗議の視線を向けるが、リックはミアを無視して、玄関にいる獣人の少女を警戒していた。


あからさま過ぎるほどの怪しい登場をした割には少女は何も行動を起こさずに突っ立ってるだけだ。

ボロボロの少女の瞳は焦点が合っていないが、心なしかミアを見て呆然としているようにリックには見えた。


「………そこのお前。人の家のドア壊しといて用はないとか言わないよな?」


試しに声をかけてみるが、ボロボロの少女はその場に立ち尽くすのみで反応はない。


どうしたものか、そんなことを考えるリックの目に突如として眩いばかりの閃光が襲い、リックは思わず目を細めた。

光源は玄関にいる少女の肩越し、つまりは家の外からだ。

リックの家は森の真ん中にあるため、当然だが夜には明かりはない。

だが、今リックの目に届いている光はそんな森の中からであり、リックは手で光を遮りながら光源の正体を探った。


「………あれは、火炎魔法!」


灼熱の火炎を放つ火炎魔法。その火炎魔法によって放たれた火の玉が森の中からリックの家を目がけて飛んできているのだ。

それも1つや2つではなく、多数の火炎魔法が襲ってきていた。


この状況下で希少な魔法使いが複数人同時に攻撃をしてくる。下手人は帝都治安部隊以外に考えられなかった。


「ミア!奥に退け!」


リックが叫ぶと同時に火炎魔法が玄関周りに次々と着弾し、爆発音と共に家の前面が灼熱に包まれていく。

もちろん玄関に立っていたボロボロの獣人少女は炎に包まれることとなり、少女は雄叫びを上げながらのたうち回っていた。


「ッウ、お姉ちゃん!」


「あっ、おい!バカ、待て!」


ミアが悲痛な叫び声を上げながら、炎に向かって走り出した。

リックがそれを羽交い締めにして止めるが、獣人であるミアは人間より力が強く、リックは引きづられるようにズルズルと炎に近づいていく。


(力強過ぎだろ、コイツ!マズイ、このままだと家中が燃え尽きる。早く…逃げないと。でも、ミアの奴を説得する暇は…)


リックは前で燃え盛る炎を見てから羽交い締めにしていた腕の力を緩めた。

ミアは突然開放されたことで前によろめき、驚いたようにチラリとリックを見るか、すぐにのたうち回る姉の元に走り出す。


(このままミアと心中なんてゴメンだ)


リックは善人ではない。

ミアを助けたのはあくまで自分の興味のためであり、そこに命をかける筋合いはないのだ。


リックは炎から離れるように家の奥に行くと、そこにある窓を突き破って外に出た。

突き破った際に飛び散ったガラスと一緒に地面を転がり、立ち上がろうと顔を上げる。

そしてようやく、眼前に剣の切っ先を突き付けられていることに気が付き、剣の持ち主に視線を向ければ、いつぞやの帝都治安部隊隊長が見下ろすように立っていた。


「た、確か、ゲオルさん…でしたっけ?」


「1人か?」


「………中に」


「おい、焼け死ぬ前に捕まえろ」


ゲオルが周囲にいる騎士に顎で家を指し示すと、騎士はコクリと頷いてから、家の壁を魔法で破壊し、壁の穴から数人の騎士が家の中に入っていく。

そして、リックは地面に這いつくばり、ゲオルはそんなリックに剣を向けながら見下す状態でしばらく待っていると家の中から騎士の声が聞こえてきた。


「隊長!例の獣人、捕縛いたしました!」


「よし。では、半数は別働隊として例の獣人を帝都に護送しろ。本隊はこの場で後処理だ。別働隊はクラー、お前が指揮をとれ」


「え、わ、わわ私がですか!?」


「なっ、隊長!コイツがですか!クラーがしでかしたことを忘れたのですか!?」


「サモアド、うるさい。だが、言ってることはもっともだ。わかっているな、クラー。同じ過ちを繰り返す者は我が隊にはいらん」


「はっ、はい!頑張ります!」


クラーがビシッと敬礼をしながら返事をし、サモアドがその様を不服そうに眺めていると、家の中に入っていった騎士がミアを連れて出てきた。

ミアは拘束魔法によって縛られているが、抵抗する意志を見せずにいる。

すぐ近くに地面に倒れ伏すリックにも見向けもせず、ミアは騎士に促されるがままに歩いていた。


(ミアに付いてる首輪。さっきまではなかったはずだ。それに、長いこと行方不明だった姉が目の前で燃やされて、暴走気味だったミアが拘束されているにしても大人しすぎる。

あの首輪、魔法具の類いか。姉貴に付いていた首輪は同種のものか?)


クラー率いる別働隊がミアを連れて森へと入っていくのをリックは大人しく見ていた。

抵抗した所で呆気無く殺されるだけなのは目に見えている。

獣人を庇ったことが帝都治安部隊にバレたのだ。過去にこのような例がないため扱いはわからないが、最悪の場合は処刑されることもあるだろう。

ミアを見捨てたリックが今すべきことは保身だ。


「さて、お前の罪が確定したわけだが…何か言い分は?」

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