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第5話

「帝都治安部隊の皆様!お疲れ様です!」


帝都に戻った帝都治安部隊は、ビシッと敬礼をする帝都と森の境にある門を警護する門番に出迎えられる。

ゲオルがそれを片手を上げて制すると、門番はキビキビとした動きで門を開いていき、門番の1人が紙を手に近寄ってきた。


「申し訳ありませんが、こちらにサインを」


そう言って手渡してきたのは帝都を出入りする人物を管理した書類のようで、職業上この門を通ることが珍しくないゲオルはスラスラと書類に必要事項を記していく。

その間に書類を持ってきた門番はゲオルの後ろにズラリといる隊員を見渡して少し驚いたように話しかけてきた。


「これだけの人数の帝都治安部隊が出動するとは、何かありましたか?」


その言葉にゲオルは書類を書く手を止め、門番を訝るような視線を向けた。

睨まれたわけではないが、明らかに警戒された門番は慌てながら弁明する。


「べ、別に他意はありません!ただ、少し気になったので!」


「構わない。私の方こそ不躾な態度をとり申し訳ない」


「い、いえ!帝都治安部隊、それも隊長殿に妙な勘ぐりをしてしまった私の落ち度です!」


「………君は随分と自分を卑下するね。帝都治安部隊も門番も1人の騎士として立場は平等だ」


「いえいえいえ!帝都治安部隊は騎士にとって、民にとって荘厳な存在!同列などと思うことはできません!」


「ハハッ、それは大袈裟もいいところだよ」


「いえ、この帝都を様々な敵から守ってくださる皆様には感謝してもしきれません!

税も少なく、皇帝やその周囲に悪い話もない。そして、皆様が賊や汚らわしい獣人から帝都を守ってくださる!こんな暮らしやすい街は帝国どころか世界中どこにもありませんよ!」


「ありがとう。そのように思われていると我々も働きがいがあるというものだ。

そして、これは私の持論なのだが帝都を守ってるのは帝都に暮らす全ての人間だと思っている」


「…それは、どういう?」


「税が安いのは皆が汗水垂らし働いてキッチリと税を納めているからだ。君たちが悪さしないから街は平和になり、我々が治安を守ってるように錯覚する。実際の我々はたまに見掛ける獣人を狩る暇な部隊なのだよ。

そして、賊や獣人が街を襲わないのは君たち門番がしっかりと働いているからだ」


「え?しかし、私が門番になってから襲撃などほとんどありませんでしたが?」


「守るというのは直接戦うことだけじゃない。君達がここに立ち、警備が厳重だと思わせていれば外への抑止力になる。門番だけでなく、外壁を補填する者も武器防具を作る者も、馬の世話をする者も、皆ここを守っているのだよ。

ここに暮らす者全員がなんらかの形で帝都を守っている。決して治安部隊の手柄ではないということだ。

そういう意味で改めて言わせてもらおう。君と私は1人の騎士として対等なんだよ」


「あ、ありがとうございます!そのようなお言葉を頂けるとは!私も魔法の才能さえあれば帝都治安部隊に志願したのに!」


「ハハッ、あまりわかっていないのかもな。それと、これ。書き終えたよ」


ゲオルが書類を門番に返すと、門番は一礼をしてから書き漏れかないか書類をチェックしていく。

その様子を眺めていたゲオルは、ふと何かを思い付き門番に口を開いた。


「そういえば君はここで門番をしてるなら、森で暮らす青年を知ってるか?任務中にたまたま見かけて、気になっていたんだ。なんでわざわざあんな所に暮らしているのかと」


「ん?そいつは多分リックのことですね」


「………リック?」


「えぇ。リック・べリューって言って、帝都の魔法学校の生徒です」


「魔法学校の生徒…ということは毎日ここを通るということか」


「はい。毎日なんで本来必要な隊長殿に書いてもらったような書類もこっそり免除してるんですよ。あっ、これ内密でお願いします!」


「大丈夫、誰にも言わないよ。それで、彼はどうしてあんな所に暮らしてるんだ?」


「さぁ?それは私にも。ただ森で暮らしてると言うとすごい変人に思われるかもしれませんが、いい子ですよ。何度か話したことありますが、愛想もよくて気の利く青年でしたね」


「………そうか、ありがとう」


「はい。あっ、手続きは終わりましたので通っていいですよ」


ゲオルは門番にお礼を告げてから部下を引き連れて、帝都内に入っていった。

街中を進む帝都治安部隊に気付いた人々が歓声を上げ、隊員たちがそれを笑顔で手を振って答える。

そんな行進をしながらサモアドはゲオルへと近付き、笑顔で手を振るのを絶やさないで話しかけた。


「隊長。任務に失敗したわけですが…いかがしましょう?」


「いかがもクソもない。報告するしかないだろ」


「いや、しかし…今回はあの博士からの依頼ですよ。失敗したと言ったらどうなるか」


「ありのままを報告する。嘘偽りを入れる気はない。それにまだ失敗したわけではない」


「確かにそうですが、望みは薄いですよ」


「それも含めて報告する。我々も出来ることをするまでだ」


「出来ること?」


「クラーに魔法学校の生徒のリック・べリューについて調べるよう頼んでおけ」


「…それはつまり、あの男が獣人を庇っていると疑っているということですか?」


「サモアド。さっきも言ったがいたずらに民を疑うな」


「す、すいません。では、どうしてあの男を調べるのですか?」


「疑ってはいない。だが、怪しいのは事実だ。報告すれば、上は当然リックを疑う。なら、先に身の潔白を証明してやればいい」


「………なるほど、そういうことですか。では、クラーに調査の件を伝えてきます」


「あぁ、頼んだ」


サモアドはゲオルと並走していたスピードを落とし、後ろにいるクラーへと近寄っていった。

クラーは近寄って来るサモアドにビクビクとしながらも逃げるわけにもいかず、僅かに震えながら声をかけようとする。


「チッ、忌々しい」


だが、クラーが声をかけるより早く、サモアドが誰ともなしに愚痴を溢す。

サモアドの苛立った口調にクラーは怖気づくが、並走するサモアドは明らかに自分に用があると感じているため、声をかけないわけにはいかなかった。


「サ、サモアドさん?ど、どうなさいました?」


「あのクサレ隊長。何が疑ってはないけど身を潔白を証明するためだ。正直に言えよ、疑ってるって。

あいつはいっつもいっつも綺麗事並べるけど本当は誰よりも疑り深いんだよ。信頼を得るために疑ってないフリをしてるだけ。でも放っておくわけにはいかないから、俺みたいな悪役が表立って動かされる。

クソ忌々しい。世間体ばっか取り繕い、悪評は部下に押し付けやがって、ゴミが。あいつみたいなクズはいつか背中から刺されて死ぬんだよ」


「サ、サモアドさん!落ち着いて、落ち着いて!ちょっと声量上がってますよ!」


「お前の方がうるせぇよ………はぁ、クソ。クラー、お前に隊長から汚れ仕事だ」

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