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第43話

簡単な作戦のはずだった。本作戦の指揮を取るヴェルト駐屯軍のエイブは目の前の光景に戸惑いが隠せずにいる。


出世への足掛かりと、目障りなギルドを排除でき、さらに成功が約束された圧倒的な戦力差がある作戦の指揮を任された時はエイブは聖女に感謝したほどだ。

だが、目の前で起きている出来事を目の当たりにしているエイブは聖女へ恨み言を言わずにはいられなかった。


「エイブ隊長!報告いたします!全方位から同時攻撃を展開した第三陣は壊滅!死傷者多数です!これ以上の進軍はいたずらに兵を犠牲にするだけかと!一度兵を退却すべきでは…」


「それでは第一陣と第二陣の二の舞いだ!これ以上の撤退は認めん!」


「エイブ隊長!正面突破は無理です!一度体制を立て直して別の作戦を考えるべきです!」


「黙れ!今回の作戦は時間をかけるなと言われているだろ!突撃だ!突撃しろ!」


「………クソッ、付き合ってられるか!」


エイブへ報告をした騎士はエイブのあまりの物言いに、このままここにいても無駄死にするだけだと判断し、目標であるギルドに背を向けて走り去ってしまう。

当然エイブは戻って来いと叫んで命令するが、騎士はそれに従うことなくドンドンと離れていく。

そして、それを傍目に見ていた他の騎士も一人また一人とエイブの指揮下から逃げ去って行く事になる。


「なっ、待て!逃げるな!戻れ!脱走兵が長く生きられると思うなよ!」


「少なくともここにいるよりかは長生きできるだろ!」


「今のヴェルトはヤバイ!さっさとヴェルトから逃げた方がいい!」


喚くエイブを無視し、ドンドンと兵が逃げ去って行く様にエイブは頭を抱える。

どうしてこうなってしまったと考えるが、その答えは出てこないし、出たとしても何も解決しない。


簡単で見返りの多い作戦のはずだった。

だが、目の前に広がるのはギルドへ近づく前に騎士が次々と倒れていく光景だ。

ギルド支部はバリケードにより補強され、所々開けられた小さな穴から筒状の物が差し出されていた。

そして、その筒状の物からパンという音が響くと直線上にいる騎士が倒れる。

そんな事がギルド支部の周辺のいたる所で起きていた。


エイブにはその筒状の物に覚えがある。

銃だ。帝国軍でも開発が進んではいるが、精度も悪ければ威力もない粗悪品だ。

決して、鎧や盾を貫いたり、直線上にいる的に当たることのない実戦向きではないガラクタ。それが銃だ。


だが、ギルド支部から突き出されている銃は威力もあれば精度もいい。遠距離攻撃の手段がない現段階ではとてもじゃないが太刀打ちできなかった。









































「………勝てる…勝てるぞ!」


「次弾装填!急げ!」


「第三波しつこいな!」


「すげぇ…帝国軍が呆気無くやられていく」


脱走兵が次々と出る帝国軍側と違い、ギルドの士気は高かった。

最初こそは圧倒的な戦力差に勝ち目などないと思っていたギルドだったが、蓋を開けてみれば真っ直ぐ突っ込んでくる帝国軍を遠くから撃っていくだけの単純作業だ。

ギルドへと続く道に帝国兵の死体が高く積み上がる中、ギルド側の犠牲者はまさかの0だ。


「………な、なんだよ。大したことないのな…帝国軍」


臆病な見張りがホッと息を吐きながら受付にそう言う。

対する受付も拍子抜けという感情を隠そうとせず、言葉を返す。


「まさか、無策に何度も突っ込んでくるとは思わなかった。おかげで向こうの士気はガタ落ちだが、こちらの士気は上々だ」


「しかし、あんな最新鋭の銃どこで手に入れたんだ。しかも数もあんなに。弾だったかなりある」


「最新鋭…いや、帝国人からしたらそうかもしれないが、あの銃は帝国以外じゃ普通のレベルだ」


「え?それにしては帝国兵がかなり狼狽えているが」


「こんな帝都と近い街で他国との実戦経験がないからだ。帝都近辺の帝国兵は帝国軍こそ最強と信じているようだが…はっきり言おう。来たるべき帝国と近隣諸国の戦争は帝国が負ける」


「帝国が負ける?そんなわけ」


「ある。目の前の惨状を見ろ。たかだかギルド職員とゴロツキの集まりにぼろ負けだ」


確かにギルドの銃撃隊相手に帝国兵は為す術なく倒されていた。

もし、この銃が他国ではポピュラーな性能なら帝国の負けも頷ける。


「帝国と周辺諸国が冷戦状態に入った後、一気に軍拡が始まった。だが、軍拡の方向性は国によって様々だ。兵器開発に勤しむ国。魔獣の研究に勤しむ国。そして、帝国は魔法の軍事利用に着目した」


「確かに魔法学校を作ったり、帝国中から魔法使いを集めている」


「だが、魔法は生まれ持った才能が大きく関係する。単純な魔法力から使える特殊魔法まで、だいたいが生まれた時点で決まる。強力な魔法を使えるのは一握りな上に、その中から騎士になるのはさらに少ない。そんな貴重な戦える強力な魔法使いは変えがきかない。だから、出し惜しみ前線には出てこない」


「………でも、実際に戦うのは前線の魔法が使えない騎士」


「そう。その間に他国は前線の兵が使う兵器の開発に注力した。帝国は総合的な戦力は確かに強いかもしれない。だが、前線の兵には絶望的な差がある。兵の質も兵器の性能も何もかも帝国は劣っている。いくら強力な兵がいても前線で勝てなければ戦争には勝てない。帝都だけガチガチに強固にしたところで、帝都まで攻め込まれた時点で帝国の勝ち目はほぼない。

はっきり言おう。魔法は強いが、魔法が主力の帝国軍は弱い。魔法は時代遅れだ。このまま兵器開発が進めば魔法に匹敵する兵器が登場するのも時間の問題。そうなれば人類から魔法が淘汰されるだろう」


「おぉ…魔法が強い上に一部の魔法使いに拘った帝国は、全体の底上げをした他国に圧倒的な差をつけられたのか」


「ギルドは国際組織だ。世界中の国から最新情報や最新兵器を収集している。他国ならともかく、今だに弓を振り回してる帝国に遅れは取らない」


「なんだよ!しっかりとした勝算があるならそう言えよ!ビビって損したわ!」


「………勘違いするなよ。それでも今は所詮時間稼ぎに過ぎない」


「え?」


「この圧倒的な状況でも強力な魔法使いが一人くればひっくり返る。結局今の段階では兵器で魔法に勝つことはできないんだよ」

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