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第38話

「マルク公爵邸にアーメリが来た?それも1人で?」


マルク公爵から依頼達成報酬を受け取り、リック達に成功報酬を渡したウルバーノは、早速ギルドへ戻り、今回の出来事を報告した。

常に聖女と共に行動するアーメリが、1人でマルク公爵邸を訪れるなど普通では考えられない出来事にギルド受付を始めとしたギルド職員が眉をひそめるが、嘘の報告をする意味もないため、その出来事を事実として受け入れる。


「アーメリは聖女の側近としてでなく、アーメリという個人として例の獣人少女のミアに会いに来たと言っていた」


「………なぜ、ミアに会いに来た?受付の時にミアを見たが、普通の獣人だ。なんなら普通の獣人より、ちょっと臆病で弱そうなぐらいだ。あのアーメリがミアに用があるとは思えない」


「アーメリ自身は個人的な興味だと」


「今まで数多くの獣人を屠ってきたアーメリが今さらあんな小娘に関心を抱くとは思えないが」


「それはそうだが…確かにアーメリはそう言っていた」


アーメリの行動がギルド職員達には理解できず、頭を悩ませているが、他人の考えなどいくら考えても無意味だ。

今考えることは別にある。それに最初に気がついたのは意外にも一番小心者のギルド職員だった。


「い、今はアーメリの目的は放っておかないか?重要なことだが、考えてわかることじゃない。それより、問題はアーメリがマルク公爵邸に来たということ。マルク公爵は聖女に大犯罪者を庇ったと思われていると考えるはず。なら次はその誤解を解こうとする。このままではマルク公爵はギルドが庇っていることを聖女に密告するはず。その前に何か手を打つべき」


「その点は心配ないはず。マルク公爵は依頼とはいえ、助けてくれたリックとミアに恩義がある。あのデブは性格が悪いが、恩義には無駄に拘る」


「か、確証がない。恩義への拘りなんて心変わりするかもしれない。そしたらギルドは終わり。いまのうちに聖女か軍にミア達を引き渡すべきだ」


「アーメリの目的次第ではアーメリの反感を、しいては聖女の反感を買うかもしれん。それもギルドの終わりだ」


「アーメリは個人で動いているのだろう?アーメリの反感は買っても、聖女の反感は買わないのでは?」


「それらを判断するためにアーメリの目的を知るのが第一だ」


小心者のギルド職員が反論しようと口を開くのを、受付のギルド職員が手を伸ばして阻止する。

ウルバーノの言い方に引っかかるものがあったからだ。


「アーメリの目的がわかるのか?」


受付の質問にウルバーノは少し得意気な顔をしてから街の地図を取り出してから答える。


「今はわからない。だが、明日のこの場所でアーメリとミアが落ち合うこう約束をしていた。いわゆるケーキ屋だな。調べたら店内で食べるタイプの店だ。開けた造りをしており、密談向きの店ではない。ここならアーメリ達の話を盗み聞くことは難しくないだろう」


「ここで待ち合わせするだけかもしれないだろ」


「その時はその時だ。もしかしたら、この店で話すかもしれない。出来ることはするべき」


「………アーメリにギルド職員であることを知られているか?」


「いや、あの場では黙っていたし、俺の話題はなかった。アーメリにどう思われていたかはわからないが、ギルド職員であることは知らないはずだ」


「よし。明日のここにアーメリとリック達に顔を知られていないギルド職員を店にいれる。どこに座れてもいいように店内に満遍なく配置する、いいな」


受付がそう支持を出すと、ギルド職員は準備をするために一斉に動き出した。

アーメリが何をかんがえてかはわからないが、聖女への人民からの信頼は絶大だ。

聖女に立ちてつくことは、この世界で居場所をなくすことと同義。ギルド職員は今回の行動がギルドの今後を決めるとかいっても過言ではないことを胸に刻み、動き出す。































ヴェルトの街を1人の大柄な男が歩いていた。この男は傭兵を生業としており、基本的にはギルドから依頼を受けて生活している。

ギルドに騎士が来た時に受付と一緒にいた傭兵であり、受付の意思を組んでリック達の情報を黙っていた人物だ。


「人に協力させておいて、依頼はないとか。ギルドはしけてるな」


傭兵がギルドに求めている依頼は、戦いを主としたもの。魔物が出た、荒くれ者の退治などだが、そのような依頼が常日頃ギルドに寄せられるほどヴェルト及び帝国の治安は悪くないのだ。

だが、傭兵はそのような依頼しか受けるつもりがないため、今回のように無駄足に終わることも多かった。


「ブレッケン・ハスラーだな」


そんな傭兵、ブレッケンは声をかけられる立ち止まり声の主がいる後方に目をやると、そこには数名の騎士が立っていた。


「確か、ギルドに来た騎士だな。帝都の手配書配り回ってた」


「そうだ。そういえば、あの時は名乗ってなかったな。エイブだ、よろしく」


「………それで、兵隊さんがただの傭兵に何の用で?」


「手配書の2人のこと…本当に知らないのか?」


「チッ、またそれか。ギルドでも言ったが知らん」


「なるほど、知らないと………話は変わるが、ブレッケンは戦場の礎とかいう傭兵団に所属していたとか。すごい名前の傭兵団だが、なぜ抜けてフリーの傭兵を?」


「………俺の昔話になんの意味がある?」


「ただの興味じゃダメか?」


「………まぁ、いい。別にたいした話でもないし。戦場の礎って名前を誰が付けたかは知らんが、『傭兵は戦場を支えるが、日の目を浴びることはない』って考えを元に名付けたらしい。だが、あの団はいわばビジネス傭兵集団だ。基本的には金で動き、金を積まれても勝ち目がなければ戦わん。そして、依頼を受けるふりをして反対勢力に情報をより高値で売る。奴らはビジネスを優先して依頼を選別している。だから、抜けた」


「それの何がいけない?金のために戦うのが傭兵だろ。確実に大金を手に入れる方法を選ぶのは当然だ」


「確かにそうなんだが…俺は圧倒的不利な状況で使い捨てられる存在こそ傭兵だと思うんだ」


「………そしたら、死ぬだろ」


「あぁ、死ぬ。圧倒的不利な状況下で味方も逃げ出し、孤軍奮闘する男。たった1人と油断して襲ってくる敵をなぎ倒し、恐怖を与える。そして、ボロボロになりながらも戦い続け…1人死んでいく。歴史に名も残らないが、その場にいる敵兵の脳裏には焼き付いて離れない。それが傭兵のあるべき姿だ」


「……………変わった考えだな」


「戦場の礎は勝てる戦いしかやらないから、俺は団を抜けた。だが、フリーになっても今の平和の世の中じゃ、魔物が出たとか、野盗が出たとか、小さい小競り合いが精々。もっとこう、劇的な戦場はないもんか探してるが、まぁ見つかるわけもない」


「劇的な戦場…心当たりがあるな」


「!本当か!?」


「帝国は近い内に近隣諸国、西のカルージュ国と戦争になる可能性が高い。カルージュはどんな方法かわからないが、魔物を手なづけて兵器として運用している。はっきり言って、兵の数だけではどうしようもない。だから、帝国の作戦は歩兵に魔物と戦わせて時間を稼ぎつつ魔物を1箇所に留める。そして、後方の魔法部隊が大規模魔法で歩兵ごと魔物を一掃する。前線の騎士が死ぬ事を前提とした作戦だ。

前からは人間に勝ち目のない魔物。後ろからは味方の魔法。こんな状況で1人立ち向かい続ける男がいたら…敵は恐怖を抱くだろうな」


「………いいじゃねぇか!それだよ、俺が望んでいたのは!俺を前線に連れて行ってくれ!」


「ヴェルト市長に掛け合って紹介状を書かせれば、君は晴れて死地へと送られるだろう。市長に話を通そうか?」


「頼む!」


「なら、こちらのお願いも聞いてくれるか?」


エイブはそう言うと、懐から2枚の紙を取り出した。

それは、リックとミアの手配後で、それをブレッケンの顔の前に突き付けながらニヤリと笑ってから口を開く。


「質問に…答えてくれないか?」

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