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第34話

「………すごいな」


「まるでお城みたい」


ギルドから依頼を受けたリックとミアの2人は依頼主の住む屋敷へと訪れていた。

依頼主の情報を何も聞いていなかった2人は、あまりにも大きいその屋敷に腰が引けていたが、それも無理はない。


「この屋敷はこの街にいる貴族、マルク公爵の屋敷だ。この街のトップは当たり前だが市長だが、ここの市政はマルク公爵の実質傀儡。市長はその現状をよく思っていないが、権力は公爵の方が上だから従うしかない。まぁ、ギルドからしたらどっちも目障りなんだけど」


屋敷を見上げていた2人の後ろからそんな声がかけられて、2人が振り向くとそこには1人の男がいた。

屋敷まで案内をすると同時に今回の依頼を監視するギルド職員だ。


「………ウルバーノさんでしたっけ?わざわざ全部の依頼にギルドが付いているのか?」


「全てに監視を付けているわけではない。信用ならない奴と特別な客の時だけだ」


「今回は?」


「両方だな」


ウルバーノはそう言うと屋敷の中に入っていき、リックとミアもその後に続く。

屋敷に入った3人を待ち受けていたのは大量の執事とメイドだ。

前を歩くウルバーノは「貴族様は違うな」とボソと呟いているが、リックが気になっているのは単純な使用人の数ではなかった。


(物陰からこっちを見てるのがいるな。執事って感じでもないが、素人の俺にも隠れてるのがバレてる所を見るとプロの軍人って感じでもない。公爵が金でそこら辺のチンピラを私兵として雇ったとか?

そして、気になるのはメイドだ。ほとんどは人間だが恐らく獣人が混じってる。ロングスカートで尻尾を隠して、ヘッドドレスで耳を隠してる。だが、ヘッドドレスで耳を隠すのは無理があるのか、少し見えてるな。俺みたいに獣人か人間か気にして見ればすぐにバレるはずだ)


リックがキョロキョロと周りを見渡していると、1人の執事が近づいてきた。

執事にいい思い出のないリックが苦い顔をしているが、執事は気にも止めずに一礼をする。


「連絡にあった、ギルド職員と依頼を引き受けてくださった方々ですね。初めまして、わたくしこの屋敷の執事長をしております、ヘンリーです。マルク公爵様の元へ案内します」


ヘンリーが動くと、周囲で様子を見ていたメイド達が一斉に道を開けるように壁による。

だが、その動きも何だかぎごちなく、リックにはその原因に心当たりがあった。


どういう理由かわからないが、獣人がメイドとして混ざっている。そして、人間のメイドはそんな獣人を嘲り、獣人は人間に引け目を感じていた。

マルク公爵が獣人を平等に扱いたくメイドとして雇っているのか他に理由があるかはわからないが、あまり周囲の理解は得られていないようだ。


「ねぇねぇ、リック。すごいよ、ここ。私も元々は村で一番大きな所で暮らしてたけど、レベルが違うよ」


後ろを歩くミアがリックにだけに聞こえる声でそう言ってくる。

元気になったことを喜ぶべきか、子供らしく無邪気なことを喜ぶべきか、警戒心がないことを悲しむべきか。リックがそんなことを考えている間に屋敷の一番奥の豪勢な部屋に到着する。


執事が扉を開けると見るからに豪華な装飾が施された部屋の真ん中に巨大な男が立っていた。

日々の贅沢が体に現れており、どっぷりと出た腹が彼の生活を物語っている。


「いらっしゃい」


目の前のマルク公爵と思わしき人が口を開くと、想像通りのねっとりとした声が聞こえてきた。

人を見かけと声だけで判断すべきでない、むしろマルク公爵は獣人に寛大である可能生も高い。

だが、リックにはこの目の前の人物がいわゆる善人とはとても思えなかった。


マルク公爵はリックとミアを笑顔で迎え入れた後に、ウルバーノを見てあからさまに顔を歪める。


「本当はギルドを頼るなんて嫌だったんだが…今回ばかりは仕方ない」


「ギルドとしても公爵の依頼など扱いづらくて困っていた。しかも、依頼内容が依頼内容だったから紹介しずらいたらあらしない。今回の依頼にピッタリのこの2人が来なければ、永遠に放置するところだったぞ。まぁ、放置なんかしたら卑しい公爵にどんな嫌がらせをされることか」


「相変わらず口だけは達者な連中だ。それで、後ろの男が医者か?」


「俺は医者じゃない。治癒魔法が使えるだけ」


「ほぅ!治癒魔法が使えるのか!これはいい!しかも、獣人をお供につけているとは…まさにワシの依頼を受けるために来たようなものだ!」


「………ってことは依頼は治療か?しかも、獣人の?」


普通は獣人を治療しようなどという人間はいない。ギルドという高額な報酬が必要となるところに依頼してまで治療しようという者など皆無だろう。

だが、マルク公爵はそれをしている。屋敷には獣人のメイドもおり、もしかしたらマルク公爵は獣人に対する差別意識がないのかもしれない。

リックがそんなことを考えるていると、ウルバーノが小声でリックにだけ聞こえるように語りかけてきた。


「お前が何を考えているかは想像がつく。だが、その考えは間違っている。あのデブはそんな人間じゃない。あいつは自分以外の全てを下に見ているだけだ。人間も獣人もあいつは家畜としか思っていない」


ウルバーノがそう言うが、リックはまだ希望を捨てきれずにいた。

リックは今まで獣人に治療をする者も、メイドという獣人がやる必要がない仕事を任せる者も見たことがないのだ。


「話が早くて助かるよ。じゃあ、早速こちらへ」


マルク公爵は隣の部屋に繋がる扉を開けるとそこには薄暗い部屋と壁に鎖で繋がれた獣人の少女がいた。

部屋の壁には人道的と思えない多数の器具がかけられており、はっきり言って真っ当な部屋とはとても思えない。


獣人の少女は今にも死にそうに僅かな呼吸のみで生きていることを確認できた。

リックは少女を見ると、至る所に外傷があり、それもその傷は明らかに痛めつける目的でついたものだ。


「………あの傷を治すのか?」


リックは自分でも驚くぐらい平坦な声で、そう言うとマルク公爵は耳障りな声で答える。


「あの傷はいい。どうせまたすぐつく。獣人は頑丈でゴキブリ並みの生命力があるから、あれぐらいじゃ死なない。だけど、病にかかってしまってな。生かしたいなら安静にしろって言われたんだが、あれが一番使い心地がいいんだよ。ということであれの病を直してくれ」


リックは無表情で少女を眺め、ミアは辛そうに顔を伏せながらリックの後ろに隠れ、ウルバーノは胸糞悪そうに舌打ちをしている。

あの少女を治療すべきか。リックは無表情のままそんな葛藤にかられていた。

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