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第33話

「いや、知らん」


今まさにリックとミアのことを話そうとした傭兵を邪魔するように横から受付がそう言った。

突然のことに傭兵はキョトンと受付を見つめ、騎士は不機嫌そうに受付を睨む。


「貴様には聞いてない。そこの男に聞いている」


当然、騎士は苛立った声色で受付にそう言う。

傭兵は受付を見てみるが、受付は表情を崩さすに騎士の方にのみ視線を向けているだけで、傭兵の方は見ようとすらしなかった。


「で、どうなんだ?お前は手配犯の2人を知ってるのか?」


「………いや、知らん。ただ、この獣人の嬢ちゃんは将来有望だと思っただけだ。獣人なのが惜しいな」


「チッ、くだらない上に趣味が悪い。おい、ギルド!いいか、この2人が来たらすぐに知らせろ!ここで商売し続けたいなら間違っても匿うんじゃねぇぞ!」


「もちろんですよ。善良な一般市民ですので」


「………胡散臭せぇな。おい、戻るぞ。手配書を配るところは一杯あるからな」


騎士はそれだけ言うと、もう用はないといった様子で部下を引き連れてギルドを後にした。

騎士が去ったギルドはしばらく静寂に包まれたが、その空気に耐え切れなくなった傭兵が口を震わせながら開く。


「あぁ、その…余計なこと言ったかもしれない。すまん。でも、何であいつらを庇うんだ?庇ったことバレたら流石にマズイんじゃ?それに罪状を見てみろ。帝国史上最悪の犯罪者だ。かばう価値もない」


「………確かにこの手配書の罪状が本物なら歴史的大犯罪者だ」


「ならとっとと騎士に突き出して」


「本当にこれだけのことがあのガキ共がやったと思っているのか?」


「………実際はどうであれ、手配書が回った時点でここに書かれていることは事実として認知される。庇うというリスクに見合う見返りがあるとは思えない」


「ガキ二人にこれだけの罪をきせるのは帝国にとってよっぽど都合が悪い何かがあるんだろう?帝国最大の弱みになり得る」


「………弱み握って何がある?ギルドは帝国に許容的だし、これ以上どうしようってんだ?まさか、ギルドは帝国を取って食うきか?」


「冗談はよしてくれ。ギルドは平和的な組織だ。世界征服を企むようなチンケな悪の組織と一緒にするな。ただ、使うかどうかは別として弱みは知ってるだけ損はない。

というか、弱みはついでだ。あいつらを匿った理由はこっちだ」


受付はそう言いながら手配書のある部分を指差しながら傭兵に見せた。

傭兵は指差された部分を見ると、そこには人間の方の手配犯の特徴が書かれており、内容は治癒魔法を使える魔法使いであると書かれている。


「あいつらがここに来た時の様子を見るに、この2人に主従関係はない。対等というか、信頼しあって家族みたいな感じだった」


「………それが?」


「少し厄介な依頼があってな。依頼主が依頼主だから放置するわけにもいかず、困っていたところだ。獣人と信頼関係を築いた治癒魔法使い。ふふっ、聖女のことは好きじゃないが、今回ばかりは聖女様を信奉したい気分だ」


受付はそれだけ言うと呆ける傭兵を無視して、客達が隠れた奥の扉へ向かって行った。

扉を開けると聞き耳を立てて様子を伺っていた客達が一斉に受付に質問を投げ、受付はそれを適当に返事をしていく。

受付から兵が帰ったことを聞くとぞろぞろと客達がギルドのロビーへと戻っていくが、受付はそんな客達を気にも止めずにキョロキョロと周囲を見渡していた。


(………いた)


受付は居心地悪そうに隅で寄り添っていたリックとミアを見つけると、ズカズカと近づいていった。

2人は真っ直ぐ近づいてきた受付を不思議そうに見上げる。


「お前らの手配書だ。またすげぇ色々やってきたな」


受付はそう言いながら騎士に渡された手配書を2人の前に掲げた。

その手配書を見た2人は驚いたように目を丸くしている。


「ここに書いてある罪状のほとんどは冤罪だ」


「まぁ、そうだろうな。だが、こうして手配書が出回った時点でもう手遅れだ」


「………で、どうするんだ?騎士の詰所にでも突き出すのか」


「知っての通りギルドは客の素性は問わない。あんたらも立派な客だよ」


「………紹介できる仕事がないんだろ?」


「話が変わった。あんたらに依頼を紹介してやる」


































帝都からヴェルトへと続く街道。その道を豪華な装飾がなされた馬車と、周囲を取り囲むように護衛と思わしき騎士が行列を作っていた。

馬車にいるのは聖女と側近のアーメリとエーメリの3人で、周辺の騎士は聖騎士隊の面々だ。

聖騎士隊は表向きは聖女の護衛だが、実際の戦闘能力は聖女に遠く及ばず、聖女の威厳を表現するために連れている存在へと成り果てている。

だが、聖騎士隊のほとんどは聖女の信奉者であり、飾りの護衛と便利な使いっぱしりという扱い不満を抱く者はいなかった。


「聖女様、聖女様!そろそろヴェルトですよ!約束のケーキ!」


「アーメリ…もっと聖女様に敬意をもってっていつも」


「いい、エーメリ。それと、アーメリ。ケーキよりこの手配犯を探すのが先だ」


馬車の中にいる3人はヴェルトへの道すがら、他愛もない話をしながら時間を潰していた。

そんな時、ヴェルトに近づいたことによりアーメリの探知魔法の範囲内にヴェルトが入ると、アーメリが急にニヤニヤと笑いながら聖女の方を見始める。


「ヴェルトの連中、どうやら私達に気づいたようだね。こんな派手な多所帯なら遠くでも気付くのはいいとして、すごい慌てぶり。いつもと違ってアポなし訪問だもんね。

一斉に獣人を表通りから隠しはじめてる。聖女様に見られたら殺されるとまだ思ってるんだね」


「………別に私だって視界に入っただけで殺したりしないのに」


「でも、そういう時期もあったじゃん。やっぱその印象が強いんだよ」


「今は悔しいが獣人が必要な場合もあると理解している。それにあの頃は私もちょっと世間を知らな過ぎただけだ」


「私からしたら隠してるの丸わかりなんだよね。あと、あからさまに警戒されてショックを受けてるのに強がってる聖女様を見るのも楽しい」


「アーメリ。そろそろ聖女様への口のききかたを直しなさい」


「あ〜、エーメリちゃん、うっさい。いっつもそればっか」


「いつも言われるようなことしてるからでしょ!」


「エーメリちゃんもさ、聖女様にあんまり気を使わ………」


ニヤニヤとしながら楽しそうに話していたアーメリが急に真顔になり黙り込んでしまい、聖女とエーメリは不思議そうにアーメリの顔を覗き込む。

聖女は少し考えるような素振りを見せてから、唐突にエーメリの方へ腕を伸ばした。


「………ヴェルトの地図貸して」


いつになく真剣な様子のアーメリに、エーメリは素直に持っている地図を渡した。

アーメリは地図を受け取ると、その地図を食い入るように見始める。


「………アーメリ?どうしたの急に?」


様子のおかしいアーメリにエーメリが声をかけると、アーメリは地図から顔を上げた。

その表情はいつものアーメリのニヤニヤと人を小馬鹿にしたような表情だ。


「いや、ケーキ屋どっこだっけなぁ〜って」


「はぁ?いきなり真顔になるから何だと思ったらそんなこと?」


「そんなことだと!?私にとっては最重要事項なのだよ」


「あ〜うるさい。真面目に考えた私がバカだったよ」


いつもの通りに騒ぐ2人に聖女も安心したのか、意識を窓の外に見える景色に移す。

アーメリとエーメリはギャーギャーと言い争っているが、いつもと違ってアーメリの心は全く別の方向に向いていた。


(………このデガイ屋敷。何やら面白いのがいる。獣人でも人間でもない、半端な何かが。聖女様と長いこと世界を巡ったけど、こんなの初めて。つまらない犯罪者を追うだけと思ってだけど…楽しくなってきた)


アーメリはそんなことを考えながらも、それを悟られないようにいつも通りにエーメリと聖女を相手していた。

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