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第32話

ギルド職員はジロジロとリックとミアの2人を観察した後に面倒くさそうにため息を吐いた。


「………依頼かい?金あるようには見えないが、依頼料は高いぞ」


ギルド職員が威圧的にそう言うと、ミアは職員の態度と人間への恐怖からリックの後ろに隠れてしまう。

リックはミアを庇いながらも職員に物怖じせずに答える。


「いや、依頼を受けたい」


「………悪いが、あんたらに紹介する依頼はない」


「ギルドは依頼を受けるのに身元は問わないと聞いているが」


「身元は問わないが、スキルは問う。ギルドをただの仲介人ぐらいにしか思ってない連中が多いが、うちも金を稼がないといかんのだよ。サービスや物を売ってる所と違って質で勝負ができない。だから、信頼で客をとるしか仲介屋は稼げないんだよ」


「………それはわかるけど」


「わかるなら俺の言いたいことわかるだろ?依頼人の所に明らかにスキル不足の人間をバンバン送ってみろ。信頼感を得られるか?」


「要はスキルがあればいいんだろ?」


「それはそうだが、お前らみたいなガキに何ができる?そっちの小娘は獣人のようだが、とても役に立ちそうにみえない。男の方は論外だ」


「………言っておくが俺は魔法が使えるぞ」


「魔法が使える奴はもっと簡単に稼げる所にいく。そこらのゴロツキでも魔法が使えるならギルドは頼らない。ギルドにくる魔法使いは嫌でも耳に入るレベルの重犯罪者ぐらいだ。お前らのことは知らん」


門前払いといった様子のギルド職員だが、リックはギルドがいった言葉が自分たちのことを知らないという言葉で、自分達が手配されていないことを知る。

それが手配書が回っていないのか、手配されないのかがわからないが、少なくともこの街では自由に動けそうだ。

ならばギルドを無理に頼らなくても金を稼ぐ手段はありそうとリックは考えていた。


「身なりも悪くないし、家出した世間知らずってところか?そっちの獣人は家の小間使いか何かか?」


「………依頼を受けられないならいいよ。他を当たる」


ギルドの情報網は広い。ギルドは世界中のあらゆる所に支部があり、情報が行き渡る早さは国の手配書が回る早さより早いだろう。

ギルドと敵対することは場合によっては一国と敵対する以上のリスクがあるのだ。


目を付けられる前にさっさと退散しようとリックはミアを引っ張りギルドから出て行こうとした。

しかし、リックがギルドを出る直前に、ギルドの扉が外側から勢いよく開かれ、ギルド職員と思わしき男が慌てたようにギルドの中に入ってくる。


「兵だ!兵がこっちに向かってくる!」


その言葉にギルドの中で馬鹿騒ぎしていた客の顔が凍りついた。

ギルドに依頼を受ける客として来る物のほとんどは何かしらの後ろめたいことがあり、騎士はまさに天敵なのだ。


「………巡回はまだのはずだが」


「まだのはずだが、来てるんだよ!理由は知らん!」


受付のギルド職員がそう言うが、見張りのギルド職員は冷静さを無くして捲し立てるだけだった。


「………とりあえず、隠れたい奴は裏に行け。騎士の相手は俺がする」


呆れたように受付のギルド職員がそう言うと一部の客を残して、ぞろぞろと受付が指差した扉に向かっていく。

隠れに向かった者達の中には見張りのギルド職員やリックとミアの姿もあった。

ギルドは非合法組織であるがゆえに、ギルド職員はいわば犯罪組織の一員であるため、騎士を必要以上に恐れるギルド職員もいるのだ。


(しかし…ガキ共も隠れるか。ただの自意識過剰か…それとも………)


残っているのは腕試しに来ている傭兵や短期間に大金を稼ぐために来ている者だ。

騎士に見つかっても捕まる理由がない故にふてぶてしい態度でこの場に残り続ける。

ギルドに来ただけで捕まることはないので、犯罪者でなければ隠れる必要はないのだ。











「………いらっしゃい」


「見てわかるだろ。帝国兵だ」


通り過ぎることを期待していた受付の希望を裏切り、数人の騎士がギルドに入り込んできた。

受付はめんどくさそうに顔を顰めながら騎士の代表を対応する。


「兵隊さん。うちみたいなしがない就職支援施設になんの用で?」


「…ギルドってのは何でこう白々しいんだろうな。建前なんてどうでもいいだろ?」


「言っている意味がよくわかりませんが…それは置いておいて、どういった要件で?」


「手配書だ。こいつらがここに来る可能性が高い。もしかしたら、もう来てるかもしれん。わかってると思うが、通報は市民の義務だ。こいつらがここに来たら近くの駐屯兵に通報すること。手配書はそこら辺の目立つ所に貼っておいてくれ」


そう言うと騎士は1つの封筒をギルドの受付カウンターの上に放り投げるように置いた。

受付はその封筒をチラリと一瞥だけして、騎士の顔を訝しげに眺めるのみで手に取ろうとしない。


「………なぜ、手配書を持ってきた?」


「は?そりゃ手配書なんだから配らないと意味ないだろ」


「そういうことじゃなくて、なぜこの手配書をうちに持ってきた?今まで理由はわからんが、うちにだけ手配書を配らなかった。それを今回はなぜ持ってきた?わざわざ多所帯で」


「………建前抜きで話そう。帝国は経済効果と犯罪の抑止のためにギルドを黙認してきた。ギルドを黙認してから、金に困った犯罪者が強盗をする事件が大幅に減ったのも事実だ。

だが、黙認するのは取るに足らん犯罪者だけ。こいつらは帝国の威信を賭けて捕らえなくちゃならない。

もし、ギルドがこいつらを匿うってんなら黙認するのもこれまでだ。帝国からギルドを根絶やしにしてやる」


「怖い怖い。手配書さえ頂ければ見つけ次第すぐに通報するのに。我々もお尋ね者の溜まり場になるのは本意ではないので」


「………あんまり調子に乗るなよ、クソギルド。帝国はあんたらのことを黙認してるが、俺達みたいな下っ端兵士はすぐにでも潰してやりたいって思ってる。何かきっかけがあれば覚悟しろよ」


「私が言う事でもないですが、騎士ともあろう者が仕事に私怨を持ち込むことはオススメしませんよ。ほら、一般市民にとって騎士が帝国の顔のようなものですし」


「………これ以上ここにいたら俺がギルド使う側になりそうだ」


「そうですね。私としても多忙な騎士様をここに引き止めるのは心苦しい」


受付はそう言うとカウンターに置かれた封筒の中から2枚の紙を取り出した。

先程から騎士が手配犯のことを複数形で呼んでいたが、どうやら手配犯は二人組のようだ。

受付が何と無しに手配書に目をやると、表情には一切出さないものの内心では驚愕し、困惑していた。


(こいつら…さっきのガキ共じゃねぇか)


そこに描かれていた人相書きはリックとミアの2人だ。

懸賞金は破格の値段をつけられており、罪状の欄には国家転覆、殺人、放火など様々の重犯罪が並んでいた。

そして、リックの特徴の所には魔法使いであり、特殊魔法として治癒魔法を使うことができると書かれている。


手配書を眺めて黙り込んでしまった受付を騎士が不自然に思っていると、一連のやり取りを遠巻きに眺めていた傭兵の客が興味本位でカウンターに近づき、受付が持っている手配書を覗き込んだ。

傭兵は受付と違い、あからさまに驚いた表情になった。


「おいおい、こいつらって!」


「なんだ、お前?知ってるのか?」


傭兵が表情と同じように驚いた様子で声を上げると、当然だが騎士が傭兵に手配犯について問いかけた。

一方の傭兵は騎士の注目に若干得意気になりながらリックとミアのことを話そうと口を開く。

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