第21話
リックが去り、親子3人だけとなった部屋は感動の再会に喜びに満ち溢れるているはずだ。
だが、実際には部屋の中は暗く重い空気に支配されていた。
村長はため息をつきながらめんどくさそうにしていた。
その妻は憎しみの込めた視線を娘に向けていた。
そして、ミアは今にも泣き出しそうな表情で膝から崩れ落ちていた。
「う、嘘だよね………パパ、ママ?」
リックが執事から村の真実を知らせていた同時刻。
ミアも村長から自分達の村の真実を聞かせていたのだ。
「嘘じゃない。ミア…お前はこの村のための生け贄なんだよ」
「嘘だ…そんなの信じない」
「………わざわざ教えてやったんだ。次は逃げるなよ」
今までとは打って代わり冷たい態度の父親にミアは思わず顔を伏せる。
チラリと母親の方も見てみるが相変わらず憎しみを込めた目をしていた。
この村のために泣く泣く送り出した実の娘という感じにはとても見えない。
それがミアの心を深く傷つけていた。
「………お姉ちゃんも私みたいに人間に差し出したの?」
「………」
「パパもママも見てないだろうけど、ミアは外でお姉ちゃんを見かけた!あんなヒドイことになるってわかってたの!?その上で」
「あの娘とあんたを一緒にしないで!」
今まで黙ってた母親が急にどなり声を上げて、ミアがビクリと肩を震わせる。
ミアがビクつきながら母親を見ると、母親は歯を剥き出しにしながら、憤怒の表情で睨みつけていた。
「あの男が若く健康な獣人を欲しがって来た時、私達がどんな思いであの娘を差し出したと思ってるの!?」
「知らないよ!お姉ちゃんとミアになんの違いがあるっていうの!?同じ娘でしょ!?」
「同じわけないじゃない!」
「………何が、違うって言うの?」
「何がって、それは…」
姉妹の違いを説明しようとして、ミアの母親は歯軋りを立てながら言い淀んだ。
だが、それはミアの心配をしてというよりかは、口に出すことさえも不快に感じているといった風だった。
「………それは私が説明しよう」
「いや、俺が説明する」
顔をしかめる妻を見兼ねて村長が説明を変わることを提案すると、また別の声が割り込んできた。
その声は部屋の入り口から聞こえ、3人は一斉に部屋の入り口に目を向ける。
するとそこには、情報屋を名乗った男が扉を開けて不敵な笑みを浮かべながら立っていた。
「ジ、ジルベール殿!待っていただければミアをお連れしたのに!」
「前回は帝都治安部隊に任せて失敗したからな。今回は自らの手で事を成すまでだ」
「しかし、ミアは子供とはいえ獣人みたいなもの…軍人ではないジルベール殿が1人では………」
「そのために魔法具も持ってきてあるし、村の外には捕獲作戦に参加したのとは別の帝都治安部隊を連れて来てある。
そして何より…話を聞いてなお抵抗する気があるかどうかだ」
「いや、しかし」
「教えて!ミアとお姉ちゃんの違いって何!?」
「ミア!ジルベール殿に失礼だぞ!」
「構わない。どちらにしろ教えるつもりなんだし」
ジルベールはそう言うと相変わらずニヤニヤとしながら入り口からミアの方へと近づいていく。
ミアは思わず後ずさるが、逃げ出したい気持ちを必死に抑えてその場に踏みとどまった。
ジルベールはミアの傍まで寄ると、目線を合わせるように屈んでから話し始める。
「お前たち姉妹の最大で決定的な違いが1つある。それは、父親だ」
「………パパ?」
ミアがチラリと父親である村長の方を見ると、村長は気まずそうに視線を逸らし、その反応にミアは嫌な予感が心から溢れていた。
「知ってると思うが俺は実験用の獣人をここから宛てがってもらっていた。そして、その獣人共で様々な実験をしている内にある疑問を感じたんだ。
人間と獣人は何が違うのか?外見でいえば耳と尻尾だ。他にも身体能力と魔法という違いがある。
だが、実験をして気がついたのだが、中身にほとんど違いはないんだよ。人間が魔法を出せる原理が謎であるように、獣人の身体能力が高い理由も謎。はっきりいって身体構成は人間と完全に一緒、理論上は人間と同レベルの身体能力しかないはず。なのに、獣人は人間を超える身体能力を有している。
現在の科学力だと耳と尻尾を切り取ってしまえば、それが人間なのか獣人なのか判別するのは不可能。耳も外側がデカイだけで中身は全く一緒だし、尻尾に至っては人間に無理矢理くっつけた感じだ。一応、尻尾にも筋肉があり動かしたりもできるが、はっきり言って身体構造的には後から付け足した無意味な物なんだよ」
「………その話がミアと関係あるの?」
「そのうちわかる。つまり、何が言いたいかと言うと人間と獣人の違いに疑問を持ったんだよ。そして俺は科学者だ。科学者という存在は疑問を持つとその疑問を晴らすために研究に明け暮れるもの。俺も例会でなく人間と獣人の違いを調べようと躍起になっていた。
だが、体を開いていくら中身を見比べても違いは見つからない。むしろ、見れば見るほど瓜二つだった。俺は行き詰まったよ。なぜこんなにもそっくり…いや、同一の物なのに種族の違いがはっきりと現れるのかと。
そんな時、ふと思いついたんだよ。人間と獣人の間で子を成せるかと。身体構造は全く同じ、つまり理論上は人間と獣人のハーフは可能だ。
思いついたらすぐ行動に移した。今までそういった事例がないか調べてみたが、種族間の壁は厚く見つからない。
なら、どうするか?簡単だ。ないなら事例を作ればいい」
ミアはようやくジルベールが今この話をするのか理解できた。
だが、同時にそれを受け入れられずに目を見開きながら自分の勘違いであってくれと祈り続ける。
だが、現実はジルベールの口からあっさりと突き付けられることになった。
「……………ミア。俺がお前のパパだ」




