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第19話

獣人にとって人間は支配する存在。人間にとって獣人は支配される存在。どう足掻いてもその関係が変わることはない。

その関係が覆ることがない以上、獣人にとって最大限の安息を得るには人間から離れることだ。

だが、この世には人間が多すぎるぐらいおり、人間は至る所にその姿を表す。

獣人だけの集落を作ろうにも人間に見つかるのは時間の問題で、その時を今か今かと怯えて過ごすことは安息とは言えない。


そこを付け込んだのが帝都だった。

人間に見つからずに獣人のみで暮らすことは不可能。だが、もし人間側が見逃してくれれば話は別だ。

帝都は帝国中の小規模な獣人の集落にある提案を持ちかけた。


帝都横にある森に集落に居を構えれば人間に干渉されない暮らしをすることができる。その代わり多額の税を払え。


その提案は獣人にとって諸刃の剣である。多額の税を払うことになっても人間の干渉がないことが約束されるというのはかなり魅力的だ。

そもそも提案を断った時点で蹂躙されるのが目に見えており、断るという選択肢は実質なかった。


こうして帝都の周りには幾多の獣人のみで構成された村が点在することになったのだ。

かなりの税金を帝都に持って行かれることになったが、それでも獣人のみの生活というのは精神的に恵まれている。

獣人の民にも人間対策という名目で税金を回収すれば人間との関係を知られることなく税を納めることができた。


さらに帝都は税の対価として僅かだが技術を与え、獣人はその技術を元に収益を増やし、暮らしを発展させたのだ。

生活レベルが上がることにより、獣人達の心はさらに晴れやかなものになっていき、そのことがさらなる増収に繋がっていく。

これにより獣人の村は人口も増えていき、それは帝都の税収増加になっている。

帝都は帝都で都民に安い税金で充実した社会保障を与えており、それにより都民は政治に満足していた。


帝都と獣人の村。上下関係はあるものの、本来共存できないはずの2つの種族が共存が成立したのだ。

これは人間と獣人、どちらにとっても大きな変化である。


しかし、上下関係ありきの共存など長くは続かない。


約束通りに税を納め続けていた村に、ある日帝都から1人の科学者がやってきて一方的に新たな要求をしてくる。

その要求とは人体実験用の獣人を用意しろ、というものだった。


普通なら聞き入れることのできない要求だが、立場が弱い獣人側は聞き入れる他ない。

それだけ獣人のみの暮らしというのは魅力的なのだ。身内を人体実験に差し出してでも今の生活を維持したいと思えるほど。


村長は村の外で人間に襲われたということにして、老人や病人などをその科学者に引き渡していた。

最初はそれに満足していた科学者だったが、次第に欲が出たのか健康で若い獣人を要求してくるようになる。


村長もそれに応じ、自分の娘を含めて次々と村の若者や子供達を帝都の科学者の元に献上していった。

そして、その白羽の矢はついにミアの元に立ってしまったのだ。








「それがこの村と帝都の関係です。気付いていると思いますが、さっきのジルベールは人体実験用の獣人を要求してきた帝都の科学者。帝都治安部隊は村の獣人を帝都へと引き渡す役目を担っています。

ミア様もいつものように引き渡されるはずだったのに今回は君という存在もあり、失敗に終わってしまった。

帝都治安部隊も何かしらの手を打ったようですが、ジルベールは念には念を入れることにしたようです。

ミア様が帝都治安部隊を退けて戻って来た時のために、先手を取りこの村で待ち伏せをしていたというわけです」


淡々と村の真実を話す執事、それに対するリックは自分の情けなさに奥歯をかみしめていた。

ミアはたまたま帝都治安部隊に見つかったのでない。

最初から帝都治安部隊によって回収されるよう帝都と村の両方で仕組んでおり、リックはせっかくミアを助け出したのにわざわざミアを連れて、ミアを狙う集団のど真ん中に踏み込んでしまったのだ。


「………じゃあ今頃ミアは?」


「ジルベールに引き渡されてるでしょう」


「………」


「………戻ろうとしても無駄ですよ。私は執事であると同時に主の護衛でもある。魔法が使えるからといって人間ごときに遅れはとりません」


「………さっき人間は獣人より上って言ってただろ」


「数には勝てない、ということです」


弱気に見える発言をする執事だが、その顔は鬼気迫る表情だ。

リックは逃げ出す隙を探っているが、執事の気迫は凄まじく、とても逃げ切れるとは思えなかった。


「心配しなくても大丈夫ですよ。ジルベールはあなたの魔法を大変買っています。帝都治安部隊と敵対して帝都に戻れないと危惧していると思いますが…ジルベールの庇護下という条件付きですが、帝都で安全な暮らしを保証する。そうジルベールはおっしゃっていました」


「ジルベールの庇護下ね…何させられるのやら」


「………実験用獣人の治療。治癒魔法を使える者は珍しく、いたとしても実験用獣人の存在を知られるわけにはいかない。だから、ジルベール的には今回の出来事で君という存在は不幸中の幸いらしいです。

それに、実験用獣人を治癒し再利用すればその分だけこの村の犠牲は減る。

悪い話ではないでしょう?君はたまに獣人に治癒魔法をかけるだけで、帝都で誰よりも贅沢な暮らしができる」


「………もし、俺が帝都に戻って獣人を治療すればミアはこの村に残れるのか?」


「いえ、ジルベールはミア様に執着しています。ミア様を引き渡すことは譲れません」


「……………ミアと話がしたい」


「ダメです。今この場で決めてください。帝都に戻り、ジルベールの下で暮らすか、ミア様を助けようとして私に殺され………何のつもりだ?」


リックには執事の最後の言葉に心当たりがなかった。

恐らく目の前の執事はリックより強い。そのことはリック自身がよくわかっているため、大人しくしていた。

そのため、何のつもりだと聞かれても意味がわからないのだ。


そんなことを考えているとリックの横を数人の男が後ろから通り過ぎた。

リックにはその男達の後ろ姿しか見えず、その男達が獣人であるということぐらいしかわからない。


そして、横を通り過ぎた獣人達はリックを守るように執事の前に立ち塞がった。

相対する執事はその様子に怒りを隠しきれず、憤怒の表情を浮かべている。

執事は一度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせてから目の前の男達に問いかけた。


「………門番ごときが…村を裏切るつもりか?」

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